蜃気楼。あの子まだ生きてたっけ。
生きていくことは複雑だ。私は誰かに雇われまた別の誰かから請けた仕事をこなし言われたことを淡々としているだけなのにそれだけでは生きていることにはならず、帰りにちゃんとスーパーに寄って食材を調達して胃袋に収めて住居と自らの清潔を保ち健康を維持しなければならない。生きる。
たとえば買ってきたジャガイモは生のままでは食べられないから加熱して消化しやすく加工する必要があるし、味を良くしようと思ったら動物性脂肪やタンパク質と組み合わせてアミノ酸を組み合わせ香気を持った植物と合わせることで「料理」を成立させなければならない。フリーズドライのジャガイモフレークを牛乳で戻したもののみで生きていくことも可能かもしれないけど、多くの人はそのような生活を望まないだろう。私も嫌だ。
かといって死んでしまうことも簡単ではない。必ず死ぬためには手順が必要だし万が一失敗したら私は職を失い多額の医療費をねん出する必要に駆られるしたぶん自殺では保険が下りないから。手間なことをするのは嫌だから私は生きていることを選んだ、選んだというか惰性でそちらの道を進むことになる。永遠に左折し続けその場をぐるぐる回るダンゴムシのようなものなのだ。けれども人はその状態を生きていると呼ぶ。
愛することは簡単だが愛されることは容易ではない。
息をすることは単純だが生きることは複雑だ。
複雑なことを単純にしようとすると必ずひずみが生まれる。
私はそのひずみにはまってしまってやはり息ができない。
単純なことすら簡単にこなすことができない。
せめて夢を見ているように生きられたらよかった。
夢を見るように生きるには私は醒めすぎている。
絶望には足りない、まだ。
夢を見て生きるはまぐりのように。
わたしが吐く息があなたの見る夢になる。
そんな魔法みたいなことがある世界なら。
ほんの少しだけ生きていたいかもしれない。
だってわたしたちはまだ。
出会ってすらいない。
ここは夢の中だから。
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