短い夜(夏至まつり800参加作品)
「妖精の輪って知ってる?」
「地中に菌輪を作るタイプのきのこのことでしょ」
「なんだ、知ってたんだ」
彼女は悪戯っぽく笑った。
「夏至の日の夜にね、妖精が輪になってお祭りをするの」
「見ると攫われるの?」
「わかんない。食べられちゃうんじゃない?」
「そもそも日本に妖精っているの?」
僕たちは地面に寝そべって星を見ていた。静かな夜で、虫の鳴き声さえ聞こえない。一年で一番短い夜。夜が明けるまで寝ないでずっと喋ってようねって、約束したんだ。
「眠くなってきた?」
「まだ大丈夫だよ」
ポットに入れた温かい紅茶を二人で飲む。静かだった。ふいに、葉っぱが風になるような、シャラシャラという音があちこちで聞こえだす。
「風が出てきたのかな」
僕の耳元に彼女が息を吹きかけた。
「やめてよ」
あれ? 彼女は紅茶をバスケットにしまうところだった。戸惑う僕に、彼女が優しく微笑みかける。しぃっ、と、人差し指を唇に当てて微笑んでいる彼女は、月明かりに照らされてとても綺麗だった。
「きみ、」
僕は彼女に手を伸ばす
「その背中、どうしたの」
透き通った透明な羽が、わずかにピンクがかって光って見えた。
「誰にも内緒よ」
耳元で誰かの囁く声が聞こえる。
「とって食やしないから」
彼女が笑った。白い肌が月明かりに照らされてとても綺麗だ。彼女の指がつ、と僕の頬に触れる。小さな球状の光が僕を取り囲んでいる。
「冗談はやめてよ、こわいよ」
僕が呟くと、彼女は僕の手を取り、体を引き寄せてキスをした。甘い香り、目の前が暗くなる。耳元で小鳥がさえずるように、誰かの笑い声がずっと聞こえていた。
目が覚めると僕はひとり地面に寝転んでいた。地平線から太陽が顔を出そうとしている。あたりを見渡すと、自分が巨大なきのこのサークルの真ん中に寝ていたことに気づいた。ついさっきまで、誰かと一緒にいたような、どうしてもそれだけが思い出せない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます