第21話 弱み…?

~次の日~


「……ん〜…、あら……あたし寝ちゃってたの…って、ぎゃあああッ!!!!」


クロエは目を覚まし、目を擦りながらふと横を見ると本気で悲鳴をあげた。


「何っ!?どしたのクロエちゃんっ!!」


下でメイクをしていたロニーは、その悲鳴を聞いて慌てて上に駆け上がってきた。クロエは口をぱくぱくしながら赤面していた。


「……んん〜……。」


クロエの真横にはジャックがスヤスヤと眠っており、顔は呼吸しているのが感じられる程近かった。


「なんであたしの横で寝てるのよこの変態っ!!!」


「あ!クロエちゃん!!ジュニちゃん大怪我なんだからフライパンで殴っちゃ……あー……。」


ロニーがクロエを止めるのを遮るように、部屋に鈍い音が鳴り響いた。





~30分後~


「ひでぇわぁ……久々に目覚めてご丁寧にベッドに寝かせてやった相手の顔面フライパンで殴るとか。」


「うるさいわよ!あんな近くで寝られたら誰だってびっくりするでしょ!?不可抗力よ不可抗力!!」


顔に包帯が増えたジャックは不服そうに上半身だけ起こしてベッドに座っていた。クロエはまだ顔を赤くしながらそっぽを向いて椅子に座っていた。


「まぁまぁ……。ジュニちゃんが無事目を覚ましてよかったじゃない。怪我は増えちゃったけど……。」


「んとだよ、めっちゃ腫れてんじゃねぇかよ。」


「ぐぬぬっ……。」


クロエは反論できずにジャックを睨みつけた。


「だ、大体!なんで横で寝るのよ!?1回起きたんならわざわざ人の横で寝なくていいじゃない!やっぱり変態……」


「誰が変態だこの野郎!!水飲みにいったら痛みが強くなったからすぐ横になったんだよ!!こんな状況でソファとか床で寝れるわけねぇだろ!?」


「あ……。」


ジャックが焦りながらそう言うと、クロエはハッとして急にしゅんとした。


「?な、なんだよ急に……。」


ジャックは何かまずいことでも言ったのかと焦ったが、ロニーがクロエの肩に手を置きながら代弁した。


「クロエちゃんね、今回の件は自分のせいだってすごく落ち込んでるのよ。ジュニちゃんが目覚めるまでずっと泣いてたんだから。」


「そ、そこまで言わなくていいでしょ…っ!?」


クロエが恥ずかしそうに小声で怒るのを見て、ジャックはしばらくきょとんとしていたが、やがてプッと笑い出した。


「んだよ、がらでもねぇな!」


「な、何笑ってんのよ!?」


クロエはさらに赤面し、ジャックを睨み付けた。


「くくくっ…こんなの、俺にとっちゃ日常茶飯事なんだよ。誰のせいとかじゃねぇ、俺が選んだ道なんだ。だからいちいち落ち込んでちゃこの先もたねぇぜ?」


ジャックはまるで子供をなだめるような声で言い、わしゃわしゃとクロエを撫でた。


「っ……、子ども扱いしないでよっ。」


クロエはその言葉にさらに心が締め付けられ、目に涙を浮かべながらジャックの手を掴んだ。


「だからいちいち泣くなっての!」


ジャックは苦笑いしながら無理やり手を動かし、クロエを撫で続けた。その光景を微笑ましく見つめながら、ロニーは少し胸を痛めていた。


(…本当に、ジョーカーに似て優しすぎるわね。クロエちゃんが辛くなるのもわかるわ。)


「ところで、俺が寝てる間はなにもなかったのか?」


クロエが落ち着いたところで、ジャックは自分が寝ていた時の状況を二人に尋ねた。


「ええ、特に化物も暴れていなかったし、ジュニちゃん達を襲った奴らも見なかったわ。」


「不気味なほど、何もなかった…の方がいいわよね。」


ロニーの言葉に付け足すように、クロエは真剣な顔で言った。ジャックも何も起こらなかったことに違和感を感じて顎に手を添えて考えた。


「…何も起こらなかったか、あるいは誰かが俺たちを隠しているか。」


「誰かって、そんな奴いるかしら?」


「…まさか、ロナウド?」


ジャックの考えに対し何も思いつかなかったクロエだったが、ロニーの方は候補が一人思いついた。


「?、誰だよロナウドって?」


聞き慣れない名前に首を傾げるジャックに、ロニーは今までのことを全て話した。ただし、ジャックが暴走して二人を襲ったことを除いて。


「はぁ!?あの野郎の仲間が俺を助けた!?」


「そうなのよ、その前にもゼウスって男も化物からあたしとクロエちゃんを守ってくれたし。」


「話を聞いてた感じ、あの殺人鬼夫婦以外のことは、全部あいつらの手のひらの中のことだったみたいよ。何が目的かは知らないけど、気に食わないわ。」


クロエは不服そうに腕を組み、足も組んでため息をついた。


「だからもしジュニちゃんをあの殺人鬼夫婦から隠し、ジュニちゃんがいない間化物を鎮めている奴がいるとしたら、彼らしかいないわ。」


「…訳が分からねえ。こいつに呪いをかけ、俺に接触させといて俺には死の呪いをかけつつ、あえて生き残るようにした。それに合わせたかのように化物が国に現れて、俺は呪いのお陰で奴らに対抗できた。もしあいつが化物を出してるとしたら、わざわざロニー達を守ったり、俺がいない間代わりに倒したりする筈がねぇ。一体どういうつもりなんだ…。」


ジャックは必死に状況を整理し、ゼウス達の目的が何なのか考えようとしたが、全く考えが読めなかった。


「あ、そうそう。あのゼウスって奴、自分のこと罪を裁く神だとかほざいてたわよ。」


クロエはふとゼウスの言葉を思い出し、何気なくジャックに伝えた。するとその言葉を聞いた瞬間、ジャックは何かに気付いたのか僅かに表情を変えた。


「…罪を裁く、神?」


「え、ええ…。」


「……そうか、あいつナルシストか!!ギャハハハハ!!」


ジャックの反応に何かわかったのかと少し期待していたクロエとロニーは、膝を叩いて笑ったジャックにがっくりと肩を落とした。


「随分中二病臭えこと言う奴だな!だがそーゆータイプは俺のお得意分野だぜ!」


「ど、どういうこと?」


言っていることが理解できないロニーは恐る恐る聞いた。


「大体ナルシストの奴は口喧嘩の時点で精神的にボロボロにしてやるのがいいんだよ。〇〇○とか✖︎✖︎✖︎とか言ってなな!!あーもうあいつのメンタル崩壊したかおが思い浮かぶぜ!」


「聞くんじゃなかった…。」


「何て下品なの…。」


二人は完全に目的を忘れてゼウスの弱みを掴んだと思って高笑いするジャックに完全に失望した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る