第14話 蘇りし殺人鬼

~万屋~


「あ〜…、胸糞悪ぃなぁ…。」


ジャックはあれからすぐに店に戻り、リビングでグダグダと寝転んでいた。


「俺が見つけなきゃあんなのぜってぇ分かんねぇくせに…何でこう素直に礼も言えねぇんだよ。俺より年上だよな…?」


ジャックはグチグチと文句を言いながら天井を見上げた。


「……可愛くねぇ。」


ジャックはぼそっと呟くと、少し仮眠しようと瞳を閉じようとした。すると電話の音が部屋に鳴り響いた。


「うぉっ!?誰だよこんな時間に…!!」


ジャックは驚いて飛び起きると、不機嫌そうに電話を取った。


「はいこちら万屋っ!!!」


『あ、ジュニちゃん?あたし、ロニーだけど。』


その電話の相手はいつもの調子のロニーだった。


「あ、ロニー……どうしたんだ?」


ジャックは気持ちを落ち着かせ、丁寧な口調に直した。


『いやぁ、クロエちゃんを帰した後、どうなったか気になっちゃって…。もう仲直り出来た?』


「?いや、まだ帰ってねぇけど…。」


『え…?もう二時間前には出たのよ?』


「…何?」


ロニーのその言葉に、ジャックは目を見開いた。何やら嫌な予感が頭をよぎった。


「…帰るとき、あいつどんな様子だった?」


『もう真っ直ぐ帰ってジュニちゃんに謝ろうとしてたわよ?不機嫌な感じでもなかったし……。』


「…わかった。すぐ探してみる。」


『…ジュニちゃん、一人で無理しちゃだめよ。ジャックはいつも一人で何とかしようとしてあたしたちを頼ってくれなかったけど…ジュニちゃんはまだ子供なんだし、ちゃんと頼ってね。』


ロニーは少し気を遣いながら言った。ジャックはふっと微笑み、優しげな声で言った。


「……俺は親父とは一緒にされたくねぇし、もう独りだとは思ってねぇから、ちゃんと頼るよ。」


それを聞いてロニーは安心したように頷き、本題に戻った。


『…取り敢えずあたしも店の周りを探してみるわ。もし何かあったらうちに来て頂戴。』


「わかった…ありがとう。」


ジャックは頷くと、受話器を置いて窓の外を見た。いつの間にか星空は厚い雲で隠れていた。


「…俺が生きてる間は、あいつも生きてる。焦るんじゃねぇ……っ。」


ジャックは自分に言い聞かせるように呟くと、すぐに身支度をして外に飛び出した。





あれからかなりの時間、ジャックは町中を探し回った。雲行きは更に悪くなり、もうすぐ雨が降りそうだった。


「くそ……どこ行きやがったんだよ…っ!!」


ジャックが苛立ちながら路地裏を覗き、また大通りに戻ろうとした時、ふと人の気配を感じた。


「おいおい〜、暇つぶしに誰か殺そうと思って散歩してたら、懐かしい顔じゃねぇかぁ?ヘヘッ!」


「っ!?」


ジャックは振り返りながら咄嗟に身構えた。後ろにいた人影はジャラジャラと何かを引き摺りながらジャックに歩み寄ってきた。


「あれからどうしてたんだぁ?何人殺した?何人切り裂いた!?なぁ聞かせてくれよ……俺を殺した、切り裂きジャックさんよぉ!!」


人影はやがて街灯の光に晒され、はっきりと姿が見えた。その人物は、ジャックがよく知っている者だった。


「…テメェは……キルア…ッ!?」


「お?ちゃーんと覚えてやがったか。偉いなぁ、褒めてやるよ。」


その人物は、キルア…五年前、ジャックが自らの手で殺した殺人鬼だった。


「忘れてたらどうしようかと思ったぜぇ?俺達はオメェが憎くて憎くて蘇ってきたのに…当の本人が覚えてねぇなんて、可哀想過ぎるだろぉ?」


「蘇っただと……?」


ジャックは額に冷や汗を滲ませながら、瞳を細めた。キルアは手に持っていた鎖鎌をクルクルと回しながら話を続けた。


「そうだぜぇ?長い間、闇の中でずっとオメェの事だけを考えてた…いろ〜んな殺し方を想像して、オメェの叫び声を聞きたくてウズウズしてた…!!そしたらどうよ?いつの間にか体があった…この町に立ってた。つまり……!」


キルアは鎖鎌の柄を掴み、ジャックに刃を向けた。


「……神様が、オメェを滅多打ちにしていいって言ってるってこったろ!?」


「くっ……!テメェに付き合ってる暇はねぇ…!!」


ジャックは横にあった空き瓶を掴み、キルアに投げつけた。キルアは咄嗟にそれを鎖鎌で砕き割ったが、その欠片が目に入りそうになった。目を細めた瞬間にジャックはキルアの脇下を通り抜け、大通りに逃げ出した。


「あ!オメェきたねぇぞ!!待ちやがれ!!」


キルアはすぐに走り出し、ジャックを追いかけた。


「折角再会したんだ!!もっと喜べよ…!!」


「テメェに会えたって何にも嬉しくねぇわっ!!」


ジャックは必死に逃げながらクロエを目で探した。すると広場についたあたりで、目の前に瓦礫が落ちてきた。


「っ!?今度は何だよ!?」


ジャックは道を塞がれ、すぐに反対の道へ行こうとしたが、既にキルアが立ち塞がっていた。


「よぉしガルディア、よくやったぜ!計画通りだ!!」


「これはプランBだろ〜?アンタがこいつを逃がしてなきゃ、いちいちアタイが重たい瓦礫落とさずに済んだんだよ!」


キルアの言葉に、建物の上から女が怒りながら答えてきた。


「…ガルディア……ッ!テメェまで蘇ってたのかよ…!」


ジャックは非常に不味そうな顔をしながら、後退りした。ガルディアはジャックを見下ろし、フフッと笑った。


「久し振りだねぇ、ボウヤ?元気にしてたかい?アタイたちを殺して……さぞ楽しい5年間だっただろうね!!」


「おい、ガルディア!あの餓鬼は逃がしてねぇだろうな!?」


キルアはガルディアの話を遮り、何かの確認をし始めた。


「はぁ?アンタじゃないんだ、そんなヘマはしてないよ!!ほら!!」


ガルディアは鞭のようなものを高く掲げた。その先には気絶しているクロエがぶら下がっていた。


「クロエッ!!!」


ジャックは目を見開き、すぐにクロエを助けようと地面を強く蹴った。するとすかさずキルアがジャックの足に鎖鎌を投げつけ、鎖を足首に絡みつかせた。


「っ!!」


「まぁ待てや、な?」


キルアはニヤリと笑うと、鎖鎌を思い切り横に振り、ジャックを壁に叩きつけた。


「ガハッ……!!」


ジャックは顔をしかめ、地面に倒れ込んだ。壁は少しひび割れ、欠片がパラパラとジャックの体に降り落ちた。


「オメェの事はずっと見てたんだぜ〜?この餓鬼が死んだら、オメェも死ぬんだろぉ?雨が嫌いで有名な切り裂きジャックも、流石に焦って出てくると思って捕まえたんだけどなぁ…肝心の雨が予想より遅れちまったな。」


「だから言ったんだよ、雨が降ってから餓鬼を捕まえようって!」


「捕まえんのに手こずって雨が止んじまったら一緒じゃねぇかよ!!」


「手こずる前提で言ってんじゃないよ!!」


「んだとっ!!オメェだってこの作戦に賛成してたくせに、後から文句言うんじゃねぇよ!!」


「アンタがしくじらずにやれれば何にも言わないよ!!アホンダラ!!」


「言ったなこのクソババア!!」


二人はジャックそっちのけで喧嘩し始めた。ジャックはヨロヨロと立ち上がりながら頭を押えた。


「ごちゃごちゃ喧嘩してねぇで…さっさとそいつを、離せ……っ!!」


ジャックは横腹を押さえなから二人を睨みつけた。どうやら肋骨が数本やられた様だ。


「そいつぁできねぇ相談だぜ。俺達ゃオメェを殺す為にこの餓鬼を捕まえたんだ。オメェをいたぶるだけいたぶって、目の前でこいつを殺してやるよ…!!」


キルアは狂気に満ちた笑みを浮かべ、鎖鎌を肩にかついだ。


「だけどよぉ、切り裂きジャック……オメェなんか弱くなったんじゃねぇか?今んところ逃げてやられてるだけ……あん時のオメェの姿がひとっつも見当たらねぇ…!」


「そんなのどうだっていいじゃないか。とっととやっちまおうよ!」


ガルディアはキルアを急かしたが、キルアは全く譲らなかった。


「よくねぇ!!俺ぁあん時のこいつと殺り合いてぇんだよ…っ!!闇夜に現れた、フードの奥で光るこいつの殺意むき出しの目…一瞬の隙も逃さなかったあの動き…目に見えそうなほどの狂気…あの光景は死んでも忘れねぇっ!!」


キルアは興奮しながらニヤリと笑った。


「そして冷てぇナイフの刃がオレの体に突き刺さって、血の生暖かい感触が広がっていったあの時……俺はこう思った。『このマスクの下でこいつは、きっと不気味な程に笑ってやがるんだろうなぁ…その顔をこの手で歪ませてやりてぇっ!!』ってな!!」


「…悪趣味め……っ!」


ジャックは気味が悪くなり、冷や汗を流しながら眉をひそめた。キルアはケタケタと笑いながら下に降りてきたガルディアの元に歩み寄った。


「悪趣味っつったら、オメェの方だろうよ。あんな時に俺達を狙うんだからなぁ…俺達を殺した償いとして、オメェのあの時みたいな楽しそうな顔から、悲しみや苦しみに歪む死に顔に変わる瞬間ぐらい見せてくれよ。」


キルアはそう言うと、ガルディアに捕まっているクロエの右肩に鎖鎌の刃の先を僅かに当てた。


「ッ!!やめろ……っ!!」


「スイッチが入んねぇなら、入れてやるからよ……!!」


キルアは目を見開いて笑うと、クロエの肘まで勢いよく鎌を下ろした。クロエは鋭い痛みに目を覚まし、思わず叫んだ。


「アァッ!!」


「おはよう、お嬢ちゃん。」


ガルディアはクロエを高く持ち上げ、顔のそばでニヤリと笑った。すると瞬きした瞬間に、鞭が切れてクロエがいなくなっていた。


「…あ?」


ガルディアとキルアは目を見開き、咄嗟にジャックの方を振り返った。そこにはクロエをしっかりと抱きかかえて立っているジャックがいた。


「馬鹿な…!!あの一瞬で…!?」


ガルディアは切れた鞭とジャックを交互に見ながら驚いた。一方キルアは暫く真顔のままジャックを見つめていたが、ふとニタァと笑った。


「…へへっ、そうこなくっちゃ…!!」


「……。」


ジャックはゆっくりと顔を上げ、キルアを睨んだ。その瞳は赤く光り、左肩からはいつもよりも影が溢れ出し、指先が鋭く尖っていた。そして何より、ジャックはオーラが殺気立っていた。


「…ジャック……っ。」


クロエは右腕を押さえ、痛みに顔を歪ませながらジャックを見つめた。ジャックはクロエの方を見ず、ただギュッと右腕で抱きしめていた。


「なぁ、アンタ……結構キレちまったんじゃないのかい?収集つかなくなっても知らないからね。」


「うるせぇよ、どうせなら暴れさせるだけ暴れさせようぜ?そっちの方が盛り上がるだろ…!?」


「はぁ…アンタのその変な性癖嫌いだよ。」


ガルディアはため息をつきながら呟いた。その頃ジャックはコソッとクロエに耳打ちをしていた。


「…近くにロニーがいる筈だ。走れるか?」


「…そんなに速く走れないわよ…っ。」


「俺がこいつらを足止めするから、ゆっくりでもいい。取り敢えずロニーと合流して、安全を確保しろ。もうじき雨だ、厄介な事になる前に隠れろ。」


「ジャックは…?奴等とあの化け物両方相手になんか…!」


「いいから行け。」


ジャックはいつもより単調に、冷たく言葉を並べた。クロエは少し躊躇ったが、小さく頷いた。するとジャックはそっとクロエを地面に下ろして身構えた。クロエはすぐに走り出した。


「お?餓鬼だけ逃がそうたって、そうはいかせねぇからな!」


キルアは鎖鎌の柄を握り直し、クロエの方に投げつけた。しかしそれはクロエに届かず、ジャックによって跳ね返された。


「ちっ…!三本は肋骨折ったと思ったが、やたら動きが速いな…!」


キルアは舌打ちをし、返ってきた鎖鎌をキャッチした。


「ガルディア、オメェあの餓鬼を追え。」


「またかい!?全くしっかりしておくれよ!!」


ガルディアはそう言いながら、先回りしようと建物と建物の間の壁を蹴り、屋上に登った。しかし、既にそこにはジャックが立っていた。


「んなっ!?」


ガルディアは目を見開いて、咄嗟に逃げようとしたが一歩遅く、ジャックの強烈な蹴りによって屋上から一気に地面まで蹴り落とされた。


「が…ッ!!」


「ガルディア!!」


キルアはガルディアの元に駆け寄り、体を起こしてやった。


「痛いねぇ…っ、女に容赦なく蹴りを入れるなんて、最低じゃないか…!!」


「ヘヘッ、女として見られてねぇだけだろ。」


「どういう意味だいっ!!」


「あいてっ!!」


キルアが馬鹿にしたように笑うと、ガルディアは思い切りキルアの頭を叩いた。その間にジャックはマスクをつけ、フードを被った。


「くっそぉ…帰ったら覚えとけよ、ガルディア…。」


キルアは頭を押さえながらジャックの方を見た。


「その格好をしたってこたぁ、ガチめに殺りに来るってこったな?殺人鬼、切り裂きジャック?」


「……。」


ジャックは黙ったまま、上から二人を見下ろした。キルアはその鋭い眼差しにゾクゾクと身を震わし、舌をぺろっと出した。


「いいぜ、その顔……最っ高にくるぜ……!!!」


キルアは鎖鎌を構え、思い切り地を蹴った。同時にジャックも屋上から飛び降り、キルアに襲いかかった。キルアの鎖鎌とジャックの左手がぶつかり合い、その反動で二人ははね返って距離を置いた。


「テメェのその左腕は何で出来てやがんだ?なかなか切れねぇじゃねぇか。ゴムか?」


「アンタ、ゴムなわけないだろう。馬鹿なのかい?」


ガルディアは呆れた様子で突っ込んだ。キルアはムカッとし、ガルディアに言い返した。


「だったら何だと思うんだよ!黒くてなかなか切れなくて自由に動くもんつったら、ゴムぐらいだろ!?」


「そ、そりゃあそうだけどさ……。」


「ほら!!ゴムしかねぇだろ!?な、ゴムだよな!?」


キルアはジャックの方を振り返り、真面目な顔をして尋ねた。


「………ゴムなわけねぇだろ。」


ジャックはどう答えればいいか少し戸惑い、取り敢えず普通に答えた。キルアは驚いたような反応をし、また真面目に質問をしてきた。


「え、じゃあタイヤの素材と同じやつか?」


「タイヤもゴムだ!!!」


「タイヤってゴムなのか!?」


「もう黙れ!!!」


ジャックは苛立ちがピークに達し、キルアに斬りかかった。


「おっと!」


キルアは身軽にそれを避け、少し後ずさった。


「不意打ちなんてずりぃじゃねぇか。もっと正々堂々殺り合おうぜ?」


「どの口が言ってやがる……!」


ジャックはキルアを睨みつけながら体勢を整え、またキルアに攻撃を仕掛けた。キルアはジャックに向かって鎖鎌を投げ飛ばし、それをジャックはサッと避けながらキルアに腕を振り下ろした。その瞬間キルアはにやっと笑い、鎖鎌の鎖を思い切り引き、飛ばした鎌を引き戻した。


「!!」


ジャックはすぐそれに気が付き、咄嗟に避けたが刃はジャックの背中に突き刺さった。


「へっ、ゴムなのはその左腕だけだな。他はグサグサ刺さるぜ!!」


「つっ…!」


キルアが鎖を引く程に刃はジャックの身に深く食い込み、鋭い痛みが襲った。


「…くそが……っ!!」


ジャックはグッと歯を噛み締め、左手で鎖を断ち切った。


「あっ!?」


キルアは目を見開き、鎖の切れ端を手に取ると、下を向いてプルプルと震え始めた。


「…てんめぇ……よくも俺の鎖鎌を……ッ!!!」


キルアはガバッと顔を上げ、今までの二倍ぐらいの速さでジャックに斬りかかった。


「あ、やべ……。」


ジャックは地雷を踏んでしまったと後悔しながら、横に転がるようにしてキルアの攻撃を避けた。だがキルアはすぐに再びジャックに攻撃をしてきた。流石にそれは避けきれず、ジャックは左腕で鎌の刃を受け止めた。


「こんな腕すぐに削ぎ落としてやらぁ…!!」


「やれるもんならやってみろよ……!」


お互い自分の手に力を込め、暫く押し合いが続いたが、次第に刃がジャックの腕に食い込み始めた。


「ほらほら…とっとと落ちやが…れ?」


キルアが余裕の顔を見せた瞬間、鎌の刃も次第にヒビが入り始めた。


「ゲッ…!」


「……ざまぁ…っ!」


ジャックは必死に痛みに耐えながら、にっと笑った。キルアは歯軋りをし、足でジャックの顔を蹴った。


「ぶっ……!!!」


ジャックはふらっとよろつき、右手で顔を押さえた。キルアはその隙に鎌を一旦引き、前に倒れかけるジャックの体に踵落としを食らわせた。


「がはっ!」


ジャックは地面に伏せるようにして倒れて顔をしかめた。


「あーあ…俺の鎌が……。」


キルアはジャックの背中を踏みつけながら鎌を空にかざして見つめた。


「雑に扱うからそんなことになるんだよ。」


そこそこ復活したガルディアは壁にもたれて休みながら呆れたように言った。


「どこが雑いんだよ!毎日愛でてやったって言うのに…!!」


「壁やら地面やらにぶつけまくったら脆くもなるだろ?」


「あ、確かに…。」


キルアは納得したような顔をして呟いた。ガルディアはやれやれと首を振りながらため息をついた。


「ゴチャゴチャ言ってねぇで……さっさと退きやがれ…っ!」


ジャックはキルアの足から逃れようと両手を地面につき、必死に立ち上がろうとした。


「まだ動けるのか?そうこなくっちゃな!!」


キルアは嬉しそうに笑い、足を退けると同時にジャックの腹を蹴り上げた。


「うぐっ!!」


ジャックは目を見開き、思わず血を吐いた。キルアは更にジャックの頭を掴み、地面に思い切り叩きつけた。


「っ!!!」


ジャックは脳震盪を起こしかけ、視界がぐらりと揺れた。


「ほら、もっと殺り合おうぜ…!!」


「……うる、せぇ…ッ!!」


ジャックはキルアの腕に左手を突き刺した。キルアは目を見開き、咄嗟にジャックから手を離した。


「ってぇ!!」


ジャックはすぐにキルアの腕から左手を引き抜き、キルアから距離をとった。


「殺す殺すばっかり……他にすることはねぇのかよ…!?」


ジャックは頭から流れる血を拭いながら、キルアに怒鳴った。キルアはその瞬間真顔になり、冷たい声でこう答えた。


「それを奪ったのが、オメェだろうが。」


「……!」


ジャックはその言葉で、一瞬呼吸するのを忘れた。そして走馬灯のようにある記憶が頭を流れた。


「殺すことしか出来ねぇ俺が、やっと他にやることが出来た時……オメェは俺を殺したんだ。」


キルアは鎌の刃に映る自分の顔を見つめながら、そう言った。ガルディアはそんなキルアを見て、少し表情を暗くした。


「……気が変わったぜ、切り裂きジャック。本当はオメェをちょっといたぶってから目の前でガキを殺すつもりだったが……。」


キルアがそう言うと、とうとう雨が降り始め、遠くの方から雷の音が鳴り響いた。


「…オメェを、生き地獄にしてやる……。」


その言葉が聞こえ終わる頃には、ジャックの首にキルアの鎌が突き刺さっていた。


「が……っ。」


ジャックは大量に血を吐き、感じたことのない痛みに襲われた。


「死ねねぇってのは、残酷だよなぁ…だが俺が今まで考えてきた殺し方を全部試すには絶好だぜ。」


キルアはやっとニヤリと笑い、倒れかけるジャックの胸倉を掴んだ。


「……オメェがタダの人形になっちまった時、オメェがやったように…オメェの大切なものを全部奪ってやるよ。だから…」


キルアは舌なめずりをしながら笑った。


「精々、地獄に耐え続けろよ?」


そう言ってキルアはジャックの首から鎌を引き抜き、ジャックの眉間に鎌を振り下ろした。意識がなくなるまで、ジャックは少しも動くことができず、ただ記憶とクロエの顔が交互に思い浮かぶだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る