第12話 図書館へ
「…ふぁあ〜っ…、やべっ、肩凝った。」
朝になると、ジャックはソファーに座った状態で目を覚ました。結局あの後すぐに睡魔が襲ってきて座ったまま眠ってしまったのだ。
「…おはよう。」
「お、おう。」
ジャックが右腕をぶんぶんと振り回しているところに、眠たそうなクロエが起きてきた。
「あ?何か目赤くねぇか?」
「…呪いのことについて考えてたら目が覚めちゃったのよ…。」
「ふーん…?」
ジャックが不思議そうにクロエの目を見ているのを無視し、クロエは洗面所で顔を洗った。
「ま、それも中央図書館に行けば分かるだろ。」
「分かるかも、でしょ?大体あるかどうかすら分からないのに、気が早いわ。」
「うるせぇな、あるかもしんねぇだろ?」
ジャックは体を伸ばし、ゆっくりと立ち上がると、着替えを漁った。
「取り敢えず俺ぁシャワー浴びてくるから、先なんか食っとけよ。」
「はぁ?あなたあのまま風呂にも入らずに寝たの!?」
クロエは顔を濡らしたまま振り返った。
「おう、なんか寝ちまってたわ。」
「よくそんな泥だらけで寝れたわね…いくら帰ってきてから着替えたからと言って、あんだけ地面転がったのに…。」
「転がったとか言うなよ!好きで転がってんじゃねぇんだよ!」
ジャックはキッとクロエを睨みながら浴室に入っていった。クロエはため息を吐きながら顔を拭いた。
「…なんで男ってそういうの平気なのかしら…?」
〜一時間後〜
シャワーを浴び、朝食を済ませた二人は早速中央図書館に向かった。今日は幸いにも1日中晴れているという予報なので、あの化け物は現れない…つまり1日中図書館で安心して調べられるのだ。
「それにしても、この広い町の中央図書館なんて相当広いんでしょうね?」
「あぁ、それに前に大掛かりな改装工事をしてたからな。きっと俺が最後に行った時より充実してるはずだぜ?」
「あら、あなたって本なんか読むの?」
クロエはジャックを馬鹿にした様子で笑った。
「はぁ!?馬鹿にしてんのか!?これでもちゃんと万屋やってんだ!情報が第一なんだよ!情報と言えば本だろうが!!」
「あー、やめてやめて、寒気する。あなたが難しい本とか読んでるの想像したらギャップで死んじゃいそう。」
クロエはわざとらしく腕を擦りながら、ジャックより前を歩いた。後ろから見ると、肩が震えているのがよく分かる。
「…笑ってんじゃねぇぞゴラ!!!」
ジャックは怒鳴りながら早足でクロエを追いかけた。
〜中央図書館〜
「……そうねぇ、あなたが言ってた通りとても広いわねぇ…。迷子になりそうよ。」
「いやぁ……俺が思ってた広さとは程遠い感じだぜ…。」
二人が目にしたのは、人が豆粒に見えるほど奥が広い通路に、鳥肌が立つほど並んでいる本棚だった。
「ここが本館で5階まで、西館と東館それぞれ3階まであるのね……。下手したら、この国のかつてのお城にも勝るんじゃない?」
「それは言い過ぎだろ?この国の城は世界でも一位二位を争う豪華さなんだぜ?今は政府の拠点になってるけどな。」
ジャックは夥しく並んでいる本を眺めながら笑った。
「あら、この国の政府は贅沢なのね。」
「バーカ、新しい建物建てる費用削減したんだよ。あそこじゃ最後の王様が殺されたんだぜ?そんなところ拠点するなんて普通無理だろーよ。」
「え!?あの城で殺されたの!?」
クロエは顔を青ざめさせながら思わず大声を出した。ジャックは反射的にクロエの口を塞いだ。
「シーッ!!図書館図書館ッ!!」
「んぐぐっ……。」
ジャックはじとっと睨む人にペコペコと頭を下げながら、クロエを隅の方へ連れていった。
「急に大声出すなよ…変な目で見られたじゃねぇかよ。」
「悪かったわよ…。でも、あんな綺麗なお城でそんな残酷な事が起こっただなんて…急に不気味に感じるわ。」
クロエは腕を擦りながら首を振った。
「そうなんだよなぁ…なんか綺麗な分訳ありだと、妙に気味悪くなるよな〜。」
ジャックはうんうんと頷き、共感した。
「いくら金もらっても、あそこで働きたくねぇや。」
「切り裂きジャックが何言ってるんだか…。」
クロエはため息をつきながら椅子にぽふっと座った。
「そんなことより、どうやってこの馬鹿広い図書館でたった1冊の原本を探すのよ?1冊ずつ見ていったら、元の姿に成長しちゃうわよ。」
「それはそれでいいだろうよ。」
「良くないわよ!中身がババアとかついてけないわ。」
クロエはジャックを睨みつけた。
「じゃあそもそも容姿変えなきゃよかったじゃねぇか…。」
ジャックはやれやれと呆れながら、改めてこの中から原本を探し出す方法を考えた。
「…そういやぁ、原本は厳重に保管されるんだよな?」
「ええ、普通なら親族の元でね。」
「なら、例え親族のところでなかったとしても、そこらに放ったらかしにするわけねぇよな?」
ジャックはニヤリと笑った。
「てことは…ここの中で厳重に管理されてる本をチェックすればいいじゃねぇか。一般公開されてるのはほっといてよ。」
「それって、一般人は見れない本ってこと?」
クロエは首を傾げながら尋ねた。
「あぁ、ここは政府の大事な資料とかも保管されてんだよ。他にも貴重な本とかもな。だけどそんなの見たことがねぇんだ。てことはどっかにかくしてあるんだぜきっと。」
ジャックはにししと笑いながらヘアバンドを外し、髪型を崩した。
「?何やってるのよ?」
「そんな隠してるってこたぁ、ちょっとやそっとじゃ通してくれねぇよ。まぁプロの技見てな。」
ジャックは誰も見てないのを確認し、腰に巻いている布の下からカバンを取り出した。それを開けると落ち着いた色のジャケットとズボンが入っていた。
「ちょっと…!ここで下を履き変えないでよ…!?」
クロエは小声気味で言った。ジャックはちっちっと舌を鳴らしながら、人差し指を横に揺らした。
「そんな醜態晒さねぇよ…っと。」
ジャックは腰の布を外し、一瞬クロエの顔の前にかざした。すると布を退けた時には既にジャックの服装がジャケットとズボンに変わっていた。
「!?!?」
クロエは口を開けて目を見開いた。
「伊達に色んな仕事こなしてきてねぇぜ。」
ジャックは自慢げに笑いながら元着ていた服をコンパクトに畳み、無理やりカバンに押し込んだ。
「いやいやいや、何今の!?マジック!?」
「そー、マジック。」
ジャックは腹回りにカバンを取り付けると、ジャケットのボタンを閉めた。
「何でマジックなんか出来るのよ!?何の仕事!?」
「貴族の見世物さ。それやって油断させてる時に裏でブスッと。」
「うわ…改めてあなたが切り裂きジャックって事を感じたわ。」
クロエは額に手を当てながら呟いた。
「うーん、あんたは子供だからまぁそれでもいいか…。ほら、受付に行くぞ。あと、今から一切喋るなよ?いいな?」
「…分かったわよ。」
クロエは渋々頷き、ジャックの後ろをついていった。
「お仕事中申し訳ない。少しお尋ねしたい事があるのですが…?」
「?はい、何でしょ……っ!?」
図書館の受付を担当している女性は声をかけられて振り返ると、顔を真っ赤にして目を見開いた。そこにはものすごいオーラを放っている紳士のようなジャックが立っていた。
「私はジャックと申しまして、様々な情報を扱う仕事をしております。この度はこの国の歴史について深く調べるべく、こちらに訪れたのですが…どうも資料が少ないと思いましてね?もしや貴重な資料はどこか別の場所に保管されているのではと考え、お尋ねしたいと思いまして。」
ジャックは少し色っぽい笑みを浮かべながら、カウンターに肘を置いて女性に事情を話した。女性はそのオーラに圧倒されながらも、何とか平常心を装って答えた。
「そ、それでしたら地下に保管されていますが…そこには他にも貴重な資料や本が保管されており、一般の方には申し訳ないのですがお通しすることが出来ません…。」
「おや…困りましたね。政府の知人に、こちらにこれば有力な情報が手に入ると言われて来たのですが……。このままでは仕事が成り立たず、クビになってしまいますね。」
ジャックはわざとらしく額に手を当て、悲しそうに首を振った。クビという言葉に女性は少し反応し、何とか情報が得られそうな資料を探そうとした。
「ほ、本当に申し訳ありません…!今一般の方でもご覧頂ける資料の中で一番情報が得られそうなものをお探ししますので…!落ち込まないで下さい!!」
「いえいえ、そこまでしていただくのはご迷惑ですし、貴女が気に病むことはありません。ですが折角遠方に住むとても賢い姪がこちらに泊まりに来ているので、いい勉強をさせてあげようと強引に連れてきたのに、少し可哀想で…。ごめんね、叔父さんがちゃんと調べていればこんな小さな足に負担をかけさせずに済んだのに…。ああ、慣れない道で赤く擦れてしまって……痛かっただろう?」
ジャックはしゃがみこみ、クロエの足に優しく触れながら謝った。勿論クロエは声を発さずにアドリブでやるしかなかったので、焦りながらも首を横に振って誤魔化した。
「あぁ…姪っ子さんもわざわざ来てくださってたのですね…。ごめんなさい…。」
女性は胸が苦しくなり、悲しそうな顔をした。そこでジャックはすかさず女性の頬に触れて優しく語りかけた。
「そんな悲しい顔をしないでください。折角のお美しい顔が台無しになってしまう…。」
「っ……。」
女性はジャックの瞳を見つめ、頬をさらに赤らめた。ジャックは女性の手を取り、そっとキスをした。親指に着けていたルビーの指輪を、わざと見せつけるように。
「…女性は、笑っていてこそ輝けるものですよ?」
「そ、その指輪は……!!」
女性は色んな感情が爆発しそうになりながら、指輪に気付いて思わず後ずさった。ジャックはふっと笑い、指輪を女性によく見えるように光にかざした。
「あぁ、この指輪ですか?実は私は政府から直接雇われていましてね……大統領とも友人関係にあるのですよ。この指輪は彼から頂いたのですが、何か特別な意味があるのでしょうか…?」
「そ、それは政府の管理下にある場所全ての通行証となります。ただその指輪は一つしか存在せず、身につけることを許可される方は厳選された一名のみ……与えられた方は、この国全てを任せれていると言っても過言ではありません。まさか本当に着けている方がいるだなんて…!」
女性はまじまじと指輪を見つめながら説明した。
「なるほど、そんな意味があったのですね。まさか彼にそんな重大なことを任されているなんて、とても光栄だ。」
ジャックはフフッと微笑み、そっと手を下げた。
「ということは……これがあれば私も地下の資料を拝見できるのでしょうか?」
「あ!はいっ!勿論です!姪っ子さんもどうぞ!!」
女性は慌てて頷いた。
「特別なお方でしたのに、気付けませんで申し訳ありませんでしたっ!今すぐご案内いたします!」
「それは有難い。よろしくお願いします。行こうか、メアリアン?」
「え!?あ、う、うんっ!」
(誰がメアリアンよっ!!)
クロエは必死にツッコミを抑えながら、大人しくジャックに手を繋がれた。
「こちらへどうぞ。」
ジャック達は女性に案内され、奥にある鍵のかかった大きなエレベーターに乗せられた。
〜図書館地下〜
「ちょっと!!何でメアリアンなんて呼ぶのよ!?驚いたじゃないの!!」
「うるせぇな。俺は政府に名前伝えちまったから誤魔化せねぇんだよ。あんたはまだ知られてねぇんだから、誤魔化して損はねぇ。」
ジャックとクロエは地下の資料保管所に案内され、女性がいなくなった途端また口喧嘩を始めた。資料保管所は分厚い扉が設けられていて、中はさらに下へ降りる階段が続いていた。その階段を降りると、筒状の大きな部屋があり、天井高くまで敷き詰められた本棚が並んでいた。
「だからって何でメアリアンなのよ!元の名前ちっともかすってないじゃない!!」
「それしか思いつかなかったんだよ。ここ入れただけ有難いと思え!」
ジャックは指輪を外し、ジャケットのボタンを外した。
「その指輪のこと、覚えてたのね。あたしすっかり忘れてたわ。ていうかそれ見せれば、あんな演技しなくても余裕で入れたんじゃないの?」
「普段の俺のままだと、信用性が全然ねぇだろうが。貴族っぽい紳士的な人間演じた方が、すぐ信じてもらえるんだよ。特に女はな。こんな指輪、作ろうと思えばいくらでも偽物作れるぜ。」
ジャックは指輪をポケットに突っ込むと、本棚をぐるりと見渡した。
「まさかこんな量があるとは思わなかったぜ。一応これからは申告なしでも勝手に入れるようになったからいいけどよ、ここだけで何日かかるやら。」
「まず呪いに関する本なんかあるのかしら?あ、あとあたし高いところダメだから、上のやつはあなたが取ってきて。」
クロエは置いてある椅子にちょこんと座り、じっと本棚を見つめた。
「取りに行くっつってもよ……このハシゴ一本かよ。〇女と〇獣みてぇね部屋しやがって……。」
「それしか置いてないんだから仕方ないじゃない。落ちてもあなたは死なないんだし?」
クロエは他人事のように笑い、本を1冊手に取った。ジャックは顔をひきつらせながら、渋々ハシゴを登ってみたた。
「それにしても、ちょっと埃っぽいわね…。何年前からあるのかしら?」
「さぁな、ここだけ改装されてねぇかもしれねぇ。扉や部屋の雰囲気と、上の雰囲気が全く違うかったからな。こっちは一つ一つの装飾に金かけてやがる。」
ジャックはハシゴの安全性を確認すると、滑るように降りてきた。
「意外と細かいところまで見てるわね。確かにこの椅子だって、装飾が全部金だわ。」
クロエはもう1度よく部屋を見渡した。
「もしかしたらここは城と繋がってたのかもな。昔1度だけ城に入ったことがあったんだが、そっくりだぜ。」
「そうなの?」
クロエは目を見開いて驚いた。
「あぁ、装飾のパターンや革の色…カーペットも多分同じだ。」
「えぇ……王様が殺された城と繋がってた地下室なんて、絶対何か出るじゃないの。」
クロエは顔を青ざめさせ、身震いした。
「………夕方にはここ出ようぜ。」
「賛成。」
それから二人は大量にある本や資料を端から確認し始めた。クロエは下から、ジャックはハシゴに乗りながら上から調べた。どれも古いものばかりだったが、今まで見たことないような貴重なものばかりだった。
「凄い……これは片っ端から読んでみたいわね。」
「ババァになるぜ?」
「うるさい!!分かってるわよ!!」
クロエは持っていた本を本棚に戻し、ため息を吐いた。
「はぁ…ねぇ、今日はこれぐらいにしましょうよ。慣れてない作業は疲れるわ。」
「そうだな…もうそろそろ夕方だしな。」
ジャックはハシゴを降り、時計を確認した。
「確か裏口から出た方が早かったのよね?」
「あぁ、エレベーター降りてすぐの所だったよな。」
二人はエレベーターに乗り、上の階に戻った。そして窓から外を見ると、二人は目を疑った。
「…って、もう真夜中じゃねぇか!!!」
「ちょっと!夕方なんじゃなかったの!?」
ジャックは慌てて時計を確認した。だがやはり時計は夕方の五時前を指していた。
「んだよこれ……地下行くまでは狂ってなかったのに…。何でこんな狂ってんだよ!」
「あーやだやだ!絶対幽霊が悪戯したのよ!早く帰りましょ!!」
クロエは慌てて裏口から外へ出た。ジャックも不気味に感じ、すぐにクロエを追いかけた。そのあとを、黒い影がゆっくりと追いかけているとも知らずに。
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