第10話 調査開始
「はぁ…何だか無駄足に終わったわね。」
ロニーの店から帰る途中、クロエはそう口を開いた。ジャックはあれから暫く様子がおかしいときもあったが、帰り際には元に戻っていた。
「あのおっさんもおっさんだぜ…、ややこしいことしてくれやがって。」
「あなたが焦ってやるからこんなことになったんでしょ?ちゃんと決定的な証拠掴んでから動きなさいよ。」
「うっせぇんだよ居候しかしてねぇくせに!!」
ジャックはクロエの頭を拳骨で軽く殴った。
「いったいっ!!!」
クロエは両手で頭を押さえて地団駄を踏んだ。それを見るとジャックは面白そうにケケッと笑った。
「……それにしても、ロニーが別の顔のあなたの事は覚えていたのは正直驚いたわ。てっきりあなたの事なら全て忘れてるんだとおもってた…。」
クロエは不機嫌そうに口を尖らせながらも、ロニーの店での話を思い出した。
〜一時間前〜
「ジュニちゃん、これからその男の事がわかったらすぐ連絡してあげるから、連絡先教えてちょーだい?」
ロニーはそう言いながらジャックにメモ用紙とペンを差し出した。ジャックはそれを受け取り、サラサラと連絡先を書いた。
「…ん、これで頼むぜ。」
ジャックに渡されたメモを見ると、ロニーは何かを思い出したかのように首をかしげた。
「あら…?この電話番号って、情報屋仲間のベクターと同じじゃないの。」
「あ……。」
ジャックはしまったというような表情をし、目をそらした。ロニーは何か察した様に目を細め、ジャックをじっと見つめた。
「もしかしてジュニちゃん、呪いがかかる前にあたしに正体隠して接触してたのね……?」
「あ〜…バレた。説明めんどくさかったらやり過ごそうと思ったのによ…。」
ジャックはため息を吐きながら頬を人差し指でポリポリと掻いた。ロニーは頬を膨らませながら腰に手を当てた。
「もうっ!わざわざ変装までして隠さなくたっていいじゃないのよ!ジャックの子ならどんな理由でも協力してたわ!」
「そう言ったってよ、こっちだって一応指名手配犯だった訳だし…親父と面識あったって知ってたってそう簡単にばらす訳にもいかねぇよ。」
ジャックはロニーの勢いに圧されながら口を尖らせながら言った。
「ちょ、ちょっと待って!ジャックは前に『ベクター』としてロニーと接触してて、ロニーは『ベクター』を覚えてたんでしょ?てことは『切り裂きジャック』じゃないジャックの事は忘れられてないってこと!?」
クロエは驚いて立ち上がった。
「お、確かにそうなるな…。」
「あら本当ね。」
二人はハッとしてクロエを見た。
「それじゃあ別にあたしが死んだとしても……いや、実際『ベクター』という人物はいないわけだし、ジャックが『切り裂きジャック』であるということはあたししか知らなかったわけだから………うーん…。」
クロエは頭が混乱し、悶々と悩み始めた。
「そんなややこしく考えんなよ。どうであれ俺があいつを殺しゃ全部解決する話だろ?」
ジャックはポンッとクロエの頭に手を置き、苦笑いした。
「俺ぁ面倒な事は嫌いだからよ、簡単にまとめようぜ?」
「…そ、それもそうだけど……。とにかくあなたの呪いのこと、あたし勘違いしてる部分があるわね。」
クロエはジャックの手をどけながら、顎に手を添えた。
「やっぱり魔女ってのは、そういう類には詳しいわけか?」
バルは酒を呑みながら首を傾げた。
「詳しいっちゃ詳しいけど、写しの本は情報が間違っているところもたまにあるの。もしかしたらあたしが読んだ写しの本と原本じゃ、ジャックの呪いの作用が違うかもしれないわ。」
「ほぉ〜、原本と写しがあんのか…。原本の方はどこにあるんだ?」
「わからないけど…大体は書いた本人の元にあるか、親族に厳重に保管されてるわ。時には墓に本人と一緒に埋められてることもある。」
「うぇ…そんなの読みたくねぇよ。」
ジャックは気持ち悪そうに舌を出した。
「あなた散々人切ってきたんでしょ!?内蔵の方が生生しくて嫌よ!」
「まぁまぁ…。」
ロニーはクロエをなだめながら微笑んだ。
「まずはジュニちゃんの呪いの本について調べたらどう?もしかしたらその男についても何か分かるかもよ?」
〜現在〜
「それにしても、どこから調べるよ?」
ロニーからの助言に従い、呪いの原本を探すことにした二人だが、正直どこから手をつけるべきか悩んでいた。何せこの国は他の国と比べてかなり広いのだ。
「そうね……でも、魔法や呪いの本は何故かこの地域に多いらしいわ。昔ここに魔法使いとか集まってたのかしら…?」
「そこら辺は俺は専門外だぜ。でも本ならやっぱ中央図書館じゃねぇか?世界各国の本が集まってるでっかい図書館だから、一冊ぐらいあるんじゃねぇの?」
「人の話聞いてた?原本は大概持ち主か親戚の元で厳重に保管されてるのよ?いくら世界に誇る図書館でもそんなもの無いわよ。」
クロエは呆れた様子でそう言った。
「じゃあこのくそでっかい国の中どうやって探し出すんだよ。魔法使いの友達とかいんのかよ?」
「………。」
「はっ!やっぱその性格で友達なんかいるわけねぇか!ギャハハッ!!……いって!!!」
ジャックがゲラゲラと笑っているところを、クロエはすかさずフライパンで頭を殴った。ジャックは頭を押さえながらしゃがみ込んで痛みに耐えた。
「くっそぉ〜っ……なんでフライパンだけ出せるんだよっ!しゃもじにしとけよ…っ!!」
「ふんっ!あたしを馬鹿にするからいけないのよ。」
クロエはシュッとフライパンを消し、テクテクと先を歩いた。
「まぁいいわ、1パーセントの確率にかけて明日にでも中央図書館に行きましょ。今日は疲れたから早くお風呂入って寝たいわ。」
「…どこまでも自分勝手な奴め…。」
ジャックは大きなたんこぶを押さえながら立ち上がり、重い足取りでクロエのあとを追った。
〜同時刻の時計台の上〜
「…やっとあの二人も…呪いについて調べるつもりになったようですな、坊ちゃん。」
時計台の屋上に繋がる扉を開け、老人は柵の上に座って町を見下ろしている男に声をかけた。男はにこっと笑いながら振り返り、老人を見た。
「その呼び方はやめてよ、ロナウド。今の僕は『坊ちゃん』じゃないんだよ?」
「これは失礼…。つい長年の癖が出てしまいましたな。」
老人、ロナウドはクスッと笑いながら男に歩み寄った。
「本当、そういう所相変わらずだね。」
男は目を閉じながら再び前を向いた。そしてゆっくりと目を開けて、町をじっくりと見つめた。
「話を戻そうか。二人が呪いについて調べ始めたんだね。」
「さようです。」
「これで少しはこの現象の意味を理解してくれればいいんだけどね。あの化け物たちもこのままじゃ報われないよ。」
「彼らが何のために現れ、何のために暴れているのか…お分かりになられたのですか?」
ロナウドは男の顔をのぞき込みながら尋ねた。
「あぁ、やっとわかったよ…。呪いが関係しているのは合っていたけれど、それだけじゃない。あれこそこの国の罪の証さ…。この地面から死者の叫びが聞こえるよ。『今こそ、裁きの時を』ってね。」
「病んでますか?」
「失礼だな。中二病みたいな事言ってると思ってるんでしょ?」
男はムスッと頬を膨らませながらロナウドを睨んだ。
「まぁそれは昔からでしたな。」
「酷くない?僕の執事だよね?」
ロナウドはフフッと笑いながら懐かしそうに瞳を細めた。
「…また見たいものです。坊ちゃんが私に初めて披露してくださった特技。」
「…だから坊ちゃんはやめてってば。」
男は苦笑いしながらスッと立ち上がり、埃を払った。
「…紅茶を用意してます。ティータイムでもしながらこの現象について詳しくお教え願いますかな?」
「あぁ、ゆっくりと話そうか…まだ僕達が出る幕じゃないからね。ま、彼らが闇に迷い込んだ時は、手を差し伸べてあげないこともないけど。」
男は町に背を向けながら、瞳を鋭く光らせた。
「…この国の運命と君はどう向き合うのかな?『切り裂きジャック』…自らを犠牲に救うのか…それとも、その手で破壊してしまうのかな…?」
「…やはり病んでますな。精神科行きますか?」
「病んでない。」
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