第6話 シャコンヌの編曲 3/3
ブラームスの編曲した「シャコンヌ」について。2013年に復刊が叶った「クララ・シューマン ヨハネス・ブラームス 友情の書簡」(みすず書房 リッツマン編、原田光子訳)という本に、この曲について何かあったかと探したら、ありました。
ブラームスは44歳、交響曲第2番を完成させた後ですね。クララは58歳。まだまだ現役ですが、そろそろ後進の指導にあたる仕事を受けようかという頃でした。
ブラームスからクララへの手紙から抜粋してみましょう。
「バッハのシャコンヌは私にとって最も素晴らしい、最も難解な音楽です。ひとつの方式、小さな楽器に『彼』は世界の最も深い思想と、力強い感動をかきこんだのです……」
途中をまとめますと、もし自分がこのような曲を作ったら、精神の興奮と感動で気が狂ったに違いない、偉大なヴァイオリニストがいつもそばにいたら満足して鑑賞できるのに。
ヨアヒムの演奏に感動したからこそ、彼がいないときに何とか自分の手でも再現したくなり。しかし、管弦楽やピアノで試みるが、喜びは濁らされてしまう。といった結論に至る逡巡をクララに書いています。
「それで一方法として、この作品のひじょうに縮小された、しかしよく似た純粋な喜びを創り出す工夫をしました……左手だけで弾いてみるのです。私には時々コロンブスの卵の話が足りないのです。各種の技巧やアルペジオ等が一緒になって、私にヴァイオリニストと感じさせるのはなかなか困難なことです……」
「どうか試みにお弾きください。あなたのために書いたのですから」の言葉に続いて、アドバイスと優しい気遣いの言葉が。
ブラームスの楽譜と手紙は1877年6月に送られ、クララの返信は7月でした。こちらは冒頭から数行を写します。
「ここで私を待っていたのは素晴らしい驚きでございました。ああ、なんという不思議なことでしょう! ちょうど私はついてすぐに机のひき出しを開けようとして、右手の筋を痛めましたのでシャコンヌは本当に嬉しい隠れ家でございました。あなたにだけしか書けない作品、そして私が非凡だと思うのはヴァイオリンの効果をそのまま出しておいでのことです……」
名曲と名編曲。このような、作曲家と演奏家の魂の響きあう瞬間!
クララは何度も大事な右手を痛めています。まさしく細腕で家族を背負って演奏活動を続ける姿に、ブラームスは尊敬の念を持ち続け同時に心配をしていました。何曲もピアノ作品を献呈していますが、この曲には特別な意味を感じます。
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