私の青春は夏と共にありました。

冴え渡る蒼天の下、肌を褐色に染める程野を駆けたものです。

日々の関心ごとは何処に何があるかだけであり、その情報を以て周囲の耳目を集める事が出来ました。

彼処に大きなウシガエルがいる。

一言発するだけで皆を魅了する事が出来ました。

幾度と無く夏が訪れ、幾度と無く同じ夏を繰り返す。

熱い胸の高鳴りだけが支配しておりました。

最近外を歩いていると夏の兆しを感じましたが、あの頃の高鳴りは感じず、嗚呼夏が来たのかと貧相な言葉を発する事しか出来ません。

空も幾分霞んで見えます。

友人が網膜も日焼けをするので次第に景色が色褪せるのだと言っておりました。

私は何とも言いようの無い哀しさを感じつつ、納得したフリをしました。

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