閑話ですか?麗奈はというと

 修平が盗賊団を生け捕りにしている頃。

 

 高橋麗奈は――幼女と戯れていた。

 本当ならば、彼女も今すぐに盗賊団を壊滅させに行きたい。

 だが、そうは問屋が卸さないのだ。

 

 何故なら

『そうそう。水浴びをしようと思って』

『今ならウェルが手伝ってあげる~』

 ……との約束をしてしまったからだ。


 真実を言うと、修平に不審がられることなく、盗賊団を潰しに行くための方便に過ぎない。

 けれどもウェルは、可愛くポーズを決めて、やる気に満ち溢れている。

 

 やっぱり無しで――なんて言えるはずが無い。


 ウェルに髪を洗われながら、麗奈は今までの出来事を思い返す。



====== ====== ======

 

 場と時は召喚の塔まで遡る。

 

「はい。ステータスと唱えてみて下さいです」

「ステータス」《高橋麗奈 女

 現在の職業:最強の勇者。[本人はサポーター志望(笑)]

 過去の職業:チート魔王を討伐した勇者。

 魔法備考欄:剣現。

 特殊能力:兎に角強くなる》


 麗奈に詠唱に答えて、現れた白い画面。

 そこには、このように記載されていた。 


(サポーター志望(笑)――何で?

 本気なのに。こうなったら何が何でも達成してやる!) 




 彼女は以前にも勇者として別世界に呼ばれた過去を持つ。

 その時に討伐した魔王から……多くを学んだ。

 

 ――自分は魔王しか見えていなかったのだと。

 代表的なものを一つ上げてみた。

 

 自分は魔王を倒すことしか頭に無かったんだと、魔王を倒してから気付くことになる。

 各国の権力争いだとか、残された魔物のことだとか、――魔王が居なくなった世界のことを何も考えていなかったのだ。

 しかし、そのような悲劇には陥らなかった。

 魔王が裏で画策していたことを知る。

 麗奈は魔王が自分を輝かさせてくれたのだと、……悟った。


 ――故に今度は自分の番だ。

 流石に、その為に命までは捧げられない。だが、一歩引いた位置で他の勇者の成長を見守ろうと思った。


 その矢先。


「ちっ。どうせお前が――」

「邪魔なんだよ」


 麗奈を非難する二つの声。

 在籍する須天高校の人気者たちだ。

 麗奈に告白を断られた腹いせに、彼女を虐めの対象にしている。


(私と一緒にいたから、巻き込まれちゃったんだ。それはご愁傷様。

 残念だけど、お前らを助ける気は全くありません)


 彼らの顔はいいが、頭の方は弱いかもしれない。

 いや、落として上げる。罵倒が、マウントをとるという論理的な考えを持ってのことならば、むしろ策士であろうか。


「止めた方がいいですよ」


 ――見つけてしまった。

 震える腰に、怯えた言葉遣い。だけど立ち向かう勇気を持っている。

 その者の名は、――和田修平。


(君に決めた。……なんてね)

 


====== ====== ======



『彼女は可愛いんだよ』


「どうしたの~?」


 顔を赤らめた麗奈。

 不審に思ったようで、ウェルが問いかける。

 

「何でもないよ。それよりありがとね」

「やった、褒められた~。今から乾かす~」【ドライ】


 服から水分が奪われる。

 麗奈は立ち上がると、ウェルに硬貨を握らせた。


「一枚多いよ~?」

「お礼だから受け取って。快適に回想シーンに入れたから」

「にゅ~?」


 それからぱっと顔に花を咲かせて、去っていくウェル。


「修平君から受け取ったお金だけど……いいよね?

 これから大量のお金を入手しにいくから」


 その姿を目だけで追いながら、謝る。

 これから生活していく上で、お金の確保を最優先事項だ。

 自分を虐めていたいじめっ子、召喚の隙を襲った魔族、……etc.

 次の敵は盗賊か。


(それだと、私が戦闘狂になっちゃうよ)

「移動はこの二本でいいかな」

【探知剣、飛翔剣を剣界】


 麗奈の意志に反応して、機械音声が響く。

 文字が刻まれた黒い短剣と、羽の付いた赤色の長剣が麗奈の手元に収った。


 短剣から手を離す。……探知剣は床に落ちることなく、穴に吸い込まれていった。

 

 剣現。――それは、それぞれ固有の能力を持った剣を自由自在に呼び出す魔法だ。

 所持本数は百を超える。


 麗奈は目を閉じた。

(アジトの他に、別行動中の仲間がいる。先にそっちを撃破しよう)


 飛翔剣の力で、空を飛んだ。

 音速を超えるスピードで、標的の元に向かっていく。


(さすがに殺すのは嫌かも。何かいいのあったかな……)

【気絶剣をを剣界】


 空いた左手で青色のレイピアを握った。

 盗賊を突き刺す。

 だが、血は流れず、負傷も一切見当たらない。

 おっさんの意識だけを確実に刈り取った。

 

 飛翔剣を使い、また移動。

 次々と地に伏せていく。


「これで全部かな。次はアジト本体だから一応」

【遠投剣を剣界】


 麗奈の周囲を合計十六本の懐刀が取り囲む。

 

 満を持して、アジトの洞窟に足を踏みいれる彼女。

 目にしたのは――縛られた盗賊の数々だった。


「なにこれ?」


 理解が追い付かないまま、進んでいく。

 

「ぐすっ。ぐすっ。誰か……」 


 すすり泣く声が聞こえた。

 足取りが早まる。

 たどり着いた先は、景色一転。

 濁った赤に溢れていた。

 

「どうなって?」


 ばらばらになった盗賊たちの死骸が転がっている。

 過去の体験がなかったら、間違いなく嘔吐していたことだろう。

 吐き気を全く催さないわけではない。

 それでも――。


「助けて」


 檻の中で、弱弱しく懇願する少女の姿を目にすると、急いで駆け寄った。


「今出してあげるから」

「ううっ」

【破壊剣を剣界】


 飛翔剣から手を離した麗奈。破壊剣を掴むと、……一閃。

 檻がバラバラに砕けた。

 中にいる少女三人は無傷である。

 だからと言って、怖くなかったなんてことはないらしく。


「ひひっ」


 ――すっかり怯えてしまったようだ。

 耳を抑えて、腰が抜けている。


「ごめん。でも、もう大丈夫だから」

「ひっく。ひっく、うわ~ん」

「よしよし」

 

 対象を縛る禍々しい鎖。

 奴隷を示すその首輪を、三人とも着用していた。

 ――なら。と、麗奈は新たな剣を呼び出す。


【無効剣を剣界。破壊剣と合成を承認】


 無効剣と破壊剣は混ざり合い、新規の輝きを放つ。


「目を瞑ってて、ねっ」

「うん」

「はぁっ」


 奴隷魔法ごと首輪を切断した。

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