第4話思想改竄ですか?

「そろそろ止めた方が」

「わっ。ごめんなさい」

 

 風が吹き、緑が揺れる音が聞こえる。

 振動音はそれだけであって欲しかった。


 どうやら彼女はお茶面な一面もあるらしい。

 おっさん、まじで泡ふく五秒前。……もはやただの攻撃と化している。


 非常に可愛らしいので、結構です。

 しかし、狼狽する彼女の姿も――見てみたい。

 人とは未知に飛び込んでいくものなのか。俺は自然に動かしていたらしい。

 

 だが、麗奈は予想反ぜず、最高に萌える反応を見せてくれた。

 突き飛ばされた負傷者も心なしか喜んで、ないな。


「まぁ、街まで運んでいくか」

「ううっ。そうだね」


 赤面する麗奈。

 おっふ。大好きだ――。


「俺が背負うよ」

「大丈夫?」

「ああ。問題ない」

「ありがと」


 俺は不気味な矢印に従って、道を進んで行く。

 ってか、あれこそ鑑定の出番だろ。何してんですか、ギャビゲート先輩。


【別に教えてあげても良かったんですけど――。ウチの存在、全否定されちゃったじゃん。それに修平なら別に何とでもなるからいいかなって――。ウチはいらないコ……】


 おっと、拗ねていらっしゃる。

 さっきはあんなこと言ってしまったけど、地味にこの矢印が頼りなのも事実なんだよな。



(すみません。許してください、何でもしますから)

【今、何でもするって言ったっしょ】


 何でもするとは言ってない。……だって声に出してないから。

 あれれ、可笑しいぞぉ。

 異様なはずの矢印案内が、なんてことように感じてきた。


(本当にお願いします)

【わかったしーー。仕方ないから復活してあげるし――】


 できれば、その口調も直してくれると助かる。

 一生のお願いだ。


【嫌だし――】

(お前は俺の能力だろっ)

 

 まさか拒否されるとは。

 人格がある時点で嫌な予感はしていたが、いざ本当に言われると突っ込まざるを得ない。

 くれぐれも魔法だけは勝手に発動させるなよ。


【わかってるし――。代わりに盗賊団のアジトまで案内してあげるから。滅ぼすんしょ】

(保留で)


 適当な返事を、都合よく了承と受け取ることはあるようだけど。

 気を緩めちゃいけないことが一つ増えた。


 今は麗奈の安全が最優先。

 街について、落ち着いてからからゆっくりとな。


 うん?

 安全といえば、……あれきり魔物と出会わないんだけど。


【二人の威圧で怯えたんしょ】

 

 知らなかった。

 まさかギャビゲートさんが人の括りに入るなんて。


 ――と。

 そんな脳内会話を繰り広げている内に、街に到着したらしい。

 これだけ聞くと、すごい寂しい奴に思える。

 気にしたら負けだ。大きな門が見える。


「着いたようだな」

「うん」


 門の前に、鎧に身を包んで槍を構えた兵士が二人。

 ここを通りたくば、我々を倒してから……いえ何でもないです。


「通行証を見せてもらおう」

「すみません。通行証はなくしちゃって」


 無くしたも、貰ってないも同じだな。


「銅貨三枚で発行できるが」

「すみません。お金も奪われちゃって」

「なら残念だがここを通すことはできない」


 ああ――。お金の存在を完全に忘れていた。

 門番二人は手に持った槍で×マークを作る。


【とりま消滅させとく?】

(お前はKKKか)


 壊す、消す、壊滅させるの三終末思想しか持ってないのかよ。

 後ろで麗奈があたふたしているが、安心してくれ。

 俺を甘く見るな。無一文で商人にされた経験が役に立つときが来たようだ。

 究極奥義、物々交換を発動させる。


【思想改竄、行いま~す】

(舐めるな)


 くそ。やってやろうじゃねぇか。

 絶対に見返してやるよ。


【わかったし――】【メモリーアルター】


 しまった――。同じ轍を踏んでしまった。

 やってやろうってそういうことじゃないって解ってるよね? っね?

 二人にこれといった変化はないと、……思いたい。

 麗奈も他のことに夢中になっている感じだ。


 うん、忘れよう。


「このお方を御存じでしょうか?」

「おい、これは」「ああ、盗賊団、グレイトの一味だ」


 凄まじい食いつきだ。

 どうしてわかったのか、なんて考えなくていいよな。


「お前たちが倒したのか?」

「彼女に切りかかったのですが、手負いだったようで、そのまま何事もなく意識を失いました」

「多数の切り傷。確かにどちらも剣を持ってはいないな」

「それで物は相談なのですが」

「聞こう」


 円滑な商談、大助かりです。

 気のいいお二方でよかった。

 

「見ての通り彼はまだ生きています。身柄、情報を通行証と交換しませんか」

「どうする?」

「いいんじゃないか。こいつらはBランク指名手配の集団。負傷した下っ端でも捕らえたのは事実だ。情報に銀貨三枚分の価値はあるんじゃないか」


 Bランクですか、そうですか。

 まずい。俺は麗奈の耳を押える。


「ええっ、なになに?

 盗賊団を壊滅させようなんて思ってないよ」


 突然のことで慌てふためく麗奈。何か重要なことを暴露した気がするが、聞き取れなかった。

 申し訳ない。俺は顔だけを門番の方に向け、話を続ける。


「そうだな。通行証と三日分の家賃を払……何をやっているんだ?」

「いえ、何でもありません」

「ならば、これが通行証と銀貨三枚だ」

「ありがとうございました」

 

 通行証を麗奈の分まで受け取った。

 そして麗奈を急かせるようにして、俺達二人は街の中へと入っていく。


「修平君って頭いいんだね」

「そうか。麗奈も何か案を考えていた気がするが」

「何でもないよっ」


 教えてはくれないようだ。


====== ====== ======



「ここでいいか?」

「うん。休めるならどこでもいいよ」


 やっぱり疲れているようだ。

 適当に選んだ宿屋へと足を踏み入れる。


「いらっしゃい。食事つきで銅貨五枚だ」

「取り敢えず、一日分お願いします」

 

 俺は銀貨一枚を受付のおばさんに手渡す。


「はいよ」

「ありがとうございます」


 それは番号が書かれた鍵と銅貨五枚になって戻ってきた。

 指定された部屋に辿りついて――。


「私の部屋は?」

「あっやべ。本当にわざとじゃない」


 一部屋しか借りていなかった。

 これではまるで、俺が麗奈と同棲したい願望が――かなりあります。

 

「うん。わかってるよ」

「麗奈がこのを使ってくれ。俺は別の部屋を借りてくる」

「ありがと」


 どうせ、できるわけないけどな。

 俺は麗奈に鍵を預けて、ロビーまで戻る。


「もう一部屋お願いします」

「何だい、男なら行くときは行くもんだよ」

「撃沈が目に見えていますから」

「そうかい。押せば行けそうな気がするけど」


 土下座で頼んでみ――なくてもわかる。

 この世界に希望なんてないんだよ。


 現実に引き戻された俺は、涙をこらえて、銅貨五枚を手渡した。

 先ほどと同額だが、なぜか二枚返ってきた。


「えっと?」

「食事代はさっき受け取ったからね」

「そうですか」


 なるほど。

 部屋代が銅貨三枚で、食事代が銅貨一枚ということか。

 それなら計算が合う。


 追伸。

 それでも部屋を隣同士にしてくれた。



 

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