第2話初戦闘ですか?

「ここまで来ればいいよね」

「はい。多分大丈夫です」


 上目遣いで聞いてくる美少女がいた。

 短い逃亡の時間で判ったこと。それは……手が柔らかい。甘い香がする。透き通るような瞳が綺麗。

 ――胸が気持ちい、何でもない。

 いつの前にか、俺はただの変態に成り下がってしまったらしい。

 口に出してしまわないよう、気を付けないと。


「さっきはありがと。でも簡単には靡かないからっ」

「わかってる」


 こんな俺に靡くなんて、有り得ないよな。

 助けたからひょっとしたら、なんて考えてごめんなさい

 

「名前を教えてくれる?」

「はいすみません。俺は和田修平です。すみません。宜しければ、君の名前も教えてくれると……」

「変なのっ。普通にしてくれると嬉しいな」


 か・わ・ゆ・い・ぞーー。

 心の中で叫んだ後、呼吸を整えて問いかける。


「わかった。君の名は?」

「高梨 麗奈といいます」


 そういった麗奈は、丁寧に頭を下げる。

 グハッ。髪からいい匂い。


 負けじと俺も頭を垂れた。

 鼻を擽る匂いなど、出るはずもないが。


「それで変なことを聞くけど、修平君は戻りたい?」

「地球にってことか?」

「うん」


 どうだろう。

 改めて思えば、地球に戻った所でまた召喚されるだけなんじゃないか?

 この世界でゆったりと暮らした方がいいかもしれない。


「特にそんな気はしないな」

「そうなんだ。実は私も」


 麗奈は少し嬉しそうな顔をする。

 

「取り敢えずしばらく一緒に行動しない?」


 願ってもない提案だ。

 いま君はこの世界を救ったよ。

具体的には、俺が申し出て拒否されていれば、恥ずかしさからこの世界を抹消していたところだから。


「ああ。ここから逃げるってことでいいか?」

「うん。……でもちょっと待って」

「どこに」

「トイレっ。付いてきたら殺すよ?」


 こわっ。急に怖くなったな。

 だけど、都合がいいかもしれない。何にせよ俺は麗奈のサポートをするだけだ。


 彼女の姿が見えなくなると、俺も真逆の方向を進んだ。

 彼女がもと来た道を戻り、俺は出口へと歩いていく。

 一人にさせるのには多少の不安はあったが、それは許されざる行為。ならば、せめて退路を確保しておくべきだ。



 少し進むと、視界が開けた。

 そこで、三名の騎士と対面する。


「どこに行く気だ?」

「外に出るだけですが」

「ならん。貴様が魔族かもしれんだろ」

「今は勇者召喚の大事な時だ。勝手に外に出すことも、中にいれることも禁止されている」

「やば……」

 

 勇者と暴露するわけにもいかない。

 けれど、巻き込まれと偽っても信じてくれる様子じゃないか。


「残念だったな。こちらには鑑定士がいる」

【鑑定】

「あっ。ミスった」


 鑑定とは相手のステータスを覗く魔法だ。

 隠ぺいを使っていない俺は、――見事にバレました。

 剣を構える騎士の様子が、打って変わる。


「失礼しました。これはこれは勇者様でおられましたか」

「なんと!

 魔族などと疑ってしまい、申し訳ありません」

「すみませんでした」


 土下座。

 頼むから騎士としてのプライドを持ってくれ。


「いや、謝られても困るんですけど」

「許してください。何でもします」

【今、何でもするっていったし――。ぶっちゃけ記憶消去とか気絶とか使っていいんじゃね?】

(おっ、……おう)


 脳内音声が対処法を上げてくれた。

 今の俺には大量の魔法・能力が存在すると、仮定できる。非常に助かる恩恵だな。

口調はただのギャルだけど。


「それでお願いします」

【よっしゃ。任されたし――】

「勇者殿、それとは?」

「ああ、すみません」【ロストメモリー】【ショック】


 俺の口が、自然と動く。

 騎士三人の体が揺れた。


「ここでのことは忘れてください。あと、休養も必要ですよ」


 俺は白目を向いている騎士たちに手を合わせた。

 ため息を吐く。俺は麗奈と別れた場所まで戻ろうと、一歩踏み出した。

 

 そのタイミングで、強烈な音が塔の中から轟いた。

塔が震えている。地面は揺れていない事から、塔の中で何かが起こったことは明白。

俺、また何かやっちゃいました?

 記憶に御座いませんけど、たぶん俺のせいですよね。

 その後、……むちゃくちゃ走った。



 無事麗奈との合流を果たした。

 息を切らしながら、彼女の身を案じる。


「麗奈は大丈夫か?」

「うん。大丈夫だよ」

「本当か。音のした方から走ってきたから。それで何が起こったんだ?」

「ええっと……大剣なんて振り回してないよっ」


 大手を振って否定する麗奈。

 そもそも大剣で、あんな轟音は出ないよな。

 どちらかというと、あれは爆発音に近い。

 なんにせよ、元気そうでなりよりだ。


「俺たちが召喚された場所に近いだろ。姫様とか大丈夫かな……」

「何で場所まで??

 ……それなら彼女が何とかしてくれてると思う」

「ああ、すまん。声に出してたか」


 後でこっそり確認に行くつもりだったが、その手間が省けてよかった。

 彼女とは多分、護衛の中の誰かだろう。回復魔法が使える者がいるようだ。

 

 あれ、そもそも。


「何で、麗奈がそんなことを知ってるんだ?」

「えっと、……そう、たまたま。たまたま護衛の人が教えてくれたの」

「なるほど」


 偶々。

きっと魔法的なもので......止めよう。今はこの弾力性のある塊を堪能しようではないか。


「取り敢えず、ここから逃げよう。ねッ」


 あざとい。

よし、行こう。今すぐ逃げよう。拒否できるわけない。

 それに恐らくだが、この爆発は俺の魔法が原因だ。

 あいつ等の事を多少なりとも憎んでいたからな。ナビケートシステムが勝手に魔法を発動させた可能性を捨てきれない。  


「そうだな」


 ギャル+ナビゲートで、ギャビゲートでいいかな?

いいとも。



====== ====== ======



 外に出た俺たちは、……倒れた門番と再会する。

 隠すの、忘れてました。


「私のせいで、ごめんなさい」

 

 麗奈の口から出る言葉に疑問を覚えなかったわけじゃない。

 だけど、それ以上に今はいたたまれない気持ちで一杯だ。


「あのーー」

「そうだね。ここは勇者じゃないと、魔族に勘違いされるから」


 そこまで知られているのか。

 高度な情報取得魔法でも有しているんだろう。

慎重にならざるをえないな。


「よかった、王宮を壊しちゃったかと……」


 と思ったら、今度は安堵の息を吐いている。


「何か、言ったか?」

「ううん。何でもないよ」

「そうか。なら気合を入れよう。どうにかしてここを切り抜けないとな」


 視界を埋め尽くす緑。

 見たところ、ここは異世界召喚のために用意された隔離施設らしい。

 森を抜けて、街を目指さねばなるまい。

 魔物も生息していると推察できる。彼女には、初戦闘になるわけだ。



 気を引き締めないとな、――俺自身も。手加減、うまくできるといいんだが。

 


 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る