第2話 スクリーントーンの声

「またあいつ選外だったらしいぜ」

俺たちはスクリーントーン。マンガでよく使われる模様のシール。

俺たちの持ち主は、漫画家志望の30歳。

ペンネームは『星野いつき』

少女漫画と萌えイラストを合わせたような画風の絵を描いている。

漫画家になりたいと思い早3年。

親からは。

「いい加減に結婚してお母さんを安心させてよ」

と言われ半泣きの日々。

バイトが終わるとすぐに作画作業。

俺たちは早くこいつにデビューしてもらいたい。


最近はデジタル化が進み、パソコンがあれば最初の投資だけですぐに簡単に漫画やイラストが描ける世の中だ。

しかし、こいつは金がないのとデジタルに弱くハイテク機器を全く使えないため未だにアナログだ。

アナログにもいいところがある。

デジタルにもいいところがある。

ま、お互いいい関係が作り手と構築できたらなんでもいいと思う。


「なぁ、確か今回は新人賞の発表だよな」

「ああ。最近中学生でプロデビューとかがいる新人賞だろ」

「誌面発表見るあいつの死んだような顔をまた見る羽目になるんだな」


俺たちスクリーントーンには色んな種類がある。

それを使いたい効果に合わせて描き手が選んで絵に合わせて貼りこんでいく。

影なんかに使う網。

髪の毛にも使える砂。

重ねたり削ったりすれば思いもよらない効果がでて作品に色を着けてくれる。

他にも仲間はいるが。

一番インパクトがあるのは通称。

「乳首って言うな!」

「まだ何も言ってないだろ」

「せめてポワポワって言って!」

丸いポワポワしたような模様で、よく乳首に貼られることが多いためそう呼んでいるが、本人は不快なようだ。

「ちょっと聞いて!」

乳首トーンががなる。

こいつ絶対女子系な男子だな。

「いつきがまたアタシを乳首に貼ったのよ!」

「そりゃいいこった。仕事が増えたな」

そう言ったのは薔薇が描かれたトーン。

「俺なんかこの家に初期からいるが一度も使われてないんだぞ」

他のトーンは使われていくうちに面積が狭くなり最終的には次の代が来て仕事をするが。

薔薇トーンは使用された形跡がなく、一枚のシートとして原型を保っている。

俺のような網トーンは大抵、家に来てすぐに使われるけど。

こいつはなぁ。

「いつか原稿用紙に俺を乱れ咲させたいぜ!」

そう言うと薔薇はトーンの入った箱の一番上によじ登っていく。


「ああ! また失敗した」

いつきが叫ぶ。さっき何枚かの仲間が呼ばれて作業用デスクに持っていかれたが恐らくいつきは何かしたのだろう。

俺たちはホームセンターで購入した衣装ケースで暮らしている。

種類とかは全てごちゃ混ぜで暮らす俺たち。

使用するためいつも床にひっくり返され、使うものが選抜されデスクにいく。

選抜されると再び衣装ケースに乱雑に放り込まれ選抜の際に再び床に放り出される。

正直埃が入ってこまるんだよな。

あーあ。

いつかあの。

「人気漫画家の家にある大きなマンション」に住みたい。

種類ごとに細かく分かれ、俺たちの本来の番号が各部屋につけられ悠々自適な生活をしたい。

まぁ、こいつがデビュできない限り一生無理だ。


まぁ、俺たちは漫画家や漫画家志望のいい仲間でありたいと常に願っている。


一番は持ち主がプロデビューすること。

もう一つは俺たちが頑張って持ち主たちのために頑張って働くこと。

俺たちはボタン一発、在庫を気にしなくてもいいデジタルには負ける部分もある。

しかし、アナログの良さもあるし大抵の漫画家にとって俺たちスクリーントーンは憧れの存在でありたい。



「いよっしゃぁ!」

いつきが叫んでいる。

何かいいことがあったのだろうか。

俺たちはそっと様子を伺う。


「受賞した!」

そう言った。

「受賞? 本当か?」

お互いを引っ張りあって確認する。

痛い。



「ついに引っ越しか」

古巣の衣装ケースに別れを告げる。

いつきが受賞した賞金でタワー型の大きなマンション。トーン用のケースを買ってくれたのだ。

「じゃあな」

俺たちはそれぞれの部屋に入る。

今まではぎゅうぎゅうに生活していたのがうそのようだ。

デビューにはまだ遠い道のりだが、俺たちは漫画家になるための手伝いをしている。


俺たちの物語はこれからだぜ!


質問

あなたにとって、スクリーントーンとは?


「作画に華を添えることもできれば感情も表現できる。いわゆるアーティストさ」


『月間画材 スクリーントーン特集号より

スクリーントーンの声』

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