○第三章
(ちょっと一郎! 聞いてるの?)
(うるさいぞ、ケイ)
二階の自室で夏休みの宿題を片付けながら、俺は自分の頭上を浮遊している少女を睨みつける。自分の作ったラーメンに名前を付けるだなんて正気を疑われる行為だが、いつまでもおい、だとか、お前、ラーメンでは意思の疎通がし辛いため、仕方なく俺は至高の一杯とやらに名前をつけていた。
鶏ガラ醤油ラーメンだから、鶏から取って、ケイ。
最初は鶏ガラと呼ぼうと思ったのだが、ガチで嫌がられた。どうにも自分の体にコンプレックスを持っているらしく、貧乳を連想させる鶏ガラだけは、頑なに受け入れられなかったのだ。そのため仕方なく鶏から取って、ケイと名付けている。
ケイは睨んだ俺を見返すように、目を細めた。
(一郎、なんで宿題なんかやってるの? 宿題なんか止めて、ラーメン作りなさいよ!)
(見た目委員長っぽいのに、なんてこと言うんだお前)
擬人化して見えるようになった当初のケイは俺に対し、例えるなら突如都会から田舎にやって来た転校生に対して冷ややかながらも自分の責務だから委員長として仕方なく受け入れてあげるわ的な態度を取っていたが、今ではすっかり出来の悪い幼馴染と接する委員長みたいな感じになっている。伝わるか? このニュアンス。
要は、遠慮がなくなった、という事だ。
ケイは腰に手を当て、その長い髪を振り回すようにして、俺を睨んだ。
(一郎の性格は冷血で鬼畜だけど、ラーメンを作る腕前は人間国宝級よ? それなのにその腕を振るわないなんて、ラーメン業界の損失だわ!)
(……言いたいことは、それだけか?)
そう言って俺は、襖を開ける。押入れの中から出てきたのは一杯のらーめん丼ぶり。そう、ケイの本体だ。
俺が何をしようとしたのか悟ったケイは、顔を真赤にしながら俺に体当たりを食らわせるように、こちらに飛び込んでくる。
(止めて止めて絶対止めてっ!)
しかし、結局はラーメンが擬人化した存在に過ぎない。ケイは俺の体を素通りし、そのまま家を貫通。そしてまた部屋の中へと戻ってきた。
(くっ! ひ、卑怯よ一郎! 私が何も出来ないのをいいことに、言い合いになったら、そんな、私を食べようだなんて!)
(いや、もじもじしてても、お前ラーメンだろうが)
ケイがここまで遠慮がなくなったのは、俺が遠慮なく至高の一杯を食べるからだ。もちろん、月子にも普通に食べてもらっている。
どうやらケイは至高の一杯としてプライドを持っており、自分は気軽に食べられる様な存在ではないと自負しているらしい。
が、そんなラーメンの自負、俺には全く関係ない。ラーメンは、擬人化していようとラーメンだ。食べ物なら、食べてその存在意義を果たしてやるのがむしろ人情と言うものだろう。
至高の一杯を食べ終わるとケイは消えるが、その後作ったラーメンが必ず至高の一杯となるので、月子の朝食(ラーメン)やおやつ(ラーメン)を食べて作ると、必ずケイが出てきて文句を言うのだ。
無論、それを気にする俺ではない。遠慮なく月子に食べさせるし、俺も食べる。
(あ、あの時一郎も、いざという時以外私を食べないって約束してくれたじゃない!)
(ガチ泣きされて土下座されたんじゃ、流石にな)
とはいえ、ケイとしても食べられている時のあの痴態を見られるのは本当に嫌らしく、恥も外聞もない交渉(ガチ泣きと土下座)の末、基本至高の一杯は残す方向となっていた。
丼ぶり一杯を保存出来る場所など限られており、仕方なく押入れにしまっている。それ以降、若干押入れの湿度が上がったような気がしていた。
(な、なら食べないでよ、こんな明るい時間に!)
(お前がいると、宿題が捗らないんだよ。食うぞ)
そう言うと、ケイは一瞬痙攣するような動きをし、内股になりながら、右手を口の前に持ってくる。そして、その瞳を潤ませながら、意を決したように俺に向かってこう言った。
(……なら、せめて明かりを消して、一郎)
(いや、暗闇の中一人でラーメン食べるとか、男子高校生にしては病みすぎだろ俺)
(そんな! いや、止めて! 一郎、あっ! 凄い!)
まだ箸すら取ってきてねぇぞ。
丼ぶりを手にしただけでケイが喘ぎ声を漏らし始めたタイミングで、家の外が何やら騒がしくなっていることに俺は気がついた。
窓の外を眺めると、そこには二人の少女の姿があった。その内の一人が、一歩前に出る。
彼女は陶器の様な白い肌に、稲穂のような金髪をポニーテールの出で立ち。碧眼の瞳には外見のお嬢様らしさとは正反対に、強い意思が宿っており、年は俺と同じぐらいか?
そんな少女が、何故だか俺の家に、『豊』に向かって何か叫んでいる。何を言っているのか知るために、俺は窓を開け――
(駄目! 声、聞こえちゃう……)
(……聞こえるはずねぇだろうが)
一人盛り上がっているケイを無視して、俺は勢い良く窓を開け放った。
「このお店の、責任者の方はいらっしゃいますか?」
少女の声に答えるように、店から細身でメガネをかけた男性が現れた。
「あの、僕がこの店の責任者ですが」
店の中から出てきた父さん、尾崎 新一(おざき しんいち)の後ろに、母さん、尾崎 亜沙(おざき あさ)が続く。
「あまりお店の前で騒がれるとぉ、困りますぅ。お客さんにもぉ、迷惑ですしぃ」
おおらかそうに母さんはそう言うが、今は確かお店にお客は入っていなかったはずだ。
だが、それを店の来訪者である彼女が知る由もない。少女は丁寧に、お辞儀をした。
「それは、とんだご無礼をいたしました。謝罪いたします」
「はぁい、よくできましたぁ」
「あの、それで、一体どういったご用件でしょうか?」
のほほんとした母さんを遮って、父さんが一歩前に出る。少女はそれを、朗らかな笑みで迎え入れた。
「ワタクシ、この度この町内に新しくオープンするラーメン屋の責任者の、ジョージア・ソルトと申します。この町にはラーメン屋は二つもいらないと、お店の権利を賭けたラーメンバトルを申し込まれたのですが」
「おいおい、マジかよ」
思わずそう独り言を話してしまった俺を、一体誰が責めれるというのだろう?
礼儀正しい彼女の物言いの中に、何やら剣呑な言葉が含まれていた。そして、それだけではない。お嬢様然としたジョージアの後ろにいる、もう一人の少女。彼女は、ケイと同じように浮遊している!
(気がついたようね、一郎。そう、あれはあの女、ジョージアの至高の一杯よ)
(そんな馬鹿な! 俺みたいな麺力を持った人が、こんなにそうそう集まるわけがないだろ!)
(ふふふ。麺力使いは麺力使いに引かれ合うものよ、一郎)
(あれネタじゃなかったの!)
(それはそうと、一郎。新一さんと亜沙さんが困っているみたいよ? 話的に、月子ちゃんも一枚噛んでいそうね)
俺は少しの間頭を抱えて唸っていたが、仕方なく一階に降りることにした。面倒事は御免だが、ケイの言う通り、月子が何かしらこの件に絡んでいる可能性は高い。月子が料理をするような事態は、なんとしても阻止しなければならないのだ。
階段を降りて、店の扉を開ける。店の中から冷房の空気とスープの匂いが外に逃げ、その代りに夏の熱気と、普段『豊』では嗅がない匂いを俺の鼻腔が嗅ぎ取った。これは、確か仙台で嗅いだ――
(牛骨ラーメンか?)
(ほう? ワタシの事がわかるとは、なかなかやるな)
そう言って、勝ち気そうな態度を、ジョージアの至高の一杯は取った。何故だか異様に、その様が彼女には似合う。
少女の白銀色の短髪は上質な牛骨スープの様に澄んでおり、唇はスパイシーなスペアリブの如き肉厚さで、野性味を帯びながら思わず噛みつきたくなる程瑞々しい。そして極めつけは、触れずとも触り心地が極上のそれとわかる豊満な体。極太麺を思わせるそれは、年上の軍人然とした彼女そのものと言っていいのかもしれない。
そこで、ジョージアの目線が父さんと母さんから、俺と、そしてその隣りにいるケイに移る。
(あら? あなたも麺力を持っているのね。他の至高の一杯と出会うなんて、珍しいわね、リブ)
(そうですね、マスター。しかし、特に気にするような相手ではありません。あんな鶏ガラの様な貧相な体で、美味いラーメンなわけがありませんから)
(……ちょっと、聞き捨てならないわね、それ。私が美味しくない? 一郎の作ったラーメンが美味しくないですって?)
ジョージアの至高の一杯、リブの言葉に、ケイが激高した。俺や月子に食べられたのを怒っていたのとは、質が全く違う怒りだ。その憤怒を、リブは失笑でもって迎え撃つ。
(美味そうに見えないから、美味そうに見えないと言ったのだ、鶏ガラ)
(私を鶏ガラって呼ぶな、牛乳!)
(う、牛乳だとっ!)
(ええ、そうよ! そんなに胸ばっかり大きくて、どうせあんたなんて、無駄に油がぎっとぎとの、スープを啜るのすらためらわれるラーメンに決まっているわっ!)
(……貴様、言わせておけばっ!)
(それぐらいにしておきなさい、リブ)
(ですが、マスターっ!)
(相手方の至高の一杯を、最初にけなしたのはこちらです。申し訳ありません、日本の麺力使い。それから――)
(私の名前は、ケイよ!)
(ケイさんとおっしゃるのですね。ごめんなさい。ワタクシのリブは、こういう性格でして。許して頂けると嬉しいのですが)
(許す必要なんかないわ、一郎! こんな奴ら、とっとと追い出してしまいましょうっ!)
(いや、別に気にしてないぞ、俺は)
許すも許さないもない。俺は今この瞬間まで、ただただラーメンに名前をつける狂人が自分だけでなかった事に安心仕切っていたのだ。正直、ラーメン同士の諍いなど、はっきり言って微塵も興味がない。
そういう意味だったのだが、何をどう感じたのかジョージアは嬉しそうに笑い、リブは何故だか俺を見直した様に横目で見ている。対象的に、ケイは象でも射殺せそうな目でリブを睨みつけ、採掘場の如き音を立てながら歯ぎしりをしていた。
何がなんだか、さっぱりよくわからない。俺は本題の月子についてジョージアに問いかけようとしたそのタイミングで、我が妹が帰還した。
「あ、ジョージアさん、もううちに来てたんだね! こんにちは!」
「こんにちは、月子さん。お店を賭けた勝負、やはりお受けすることにしました」
「やっぱりお前が言い始めたのか、月子!」
「あらぁ、駄目じゃなぁい月子ちゃん。勝手にお店を賭けの対象にしちゃぁ。めっ!」
父さんと母さんが月子を嗜めるが、そんな事で窘められる月子なら、こんなややこしい事態にはなっていない。反対に、月子は二人に向かって胸を張りながら反論した。
「何言ってるの? お父さん、お母さん! このし、資本? 主義国家である日本は、ライバル店の存在を否定しないんだよ! 選ばれなかったものは、しじょーから統制されるの! 合併合併! 勝負に負けたお店は、みんな吸収だっ!」
「おい、月子! 何をわけのわからない事を言っているんだ!」
「そぉよぉ? そんなわけのわからない事、一体だぁれが言ってたのぉ?」
「お兄ちゃん!」
「え? 俺!」
急に矛先を向けられ、たまらず俺は狼狽する。似たような話をしたかもしれないが、意味が全く違う話になっている。
「一郎!」
「あらあらぁ、一郎くんったらぁ」
「いや、待ってよ父さん、母さん! 俺はあくまで市場競争の話をしただけで――」
「そう、これは市場競争なのですよ。一郎さん」
そう言って、ジョージアが会話に入り込んでくる。
「優れたものが市場を制する。それはワタクシの出身地、アメリカでは当たり前のこと。そしてその市場で、ワタクシはラーメンに出会ったのですっ!」
ここから暫くジョージアの独白が続くが、一言で言うとジョージアのラーメン愛は、尋常ではないという事だ。
ラーメンの魅力に取り憑かれたジョージアは、自分でラーメンの研究・開発を行い、ついには自分の店を構え、アメリカで作ったそのノウハウを日本に逆輸入を実現した。それは、並大抵の情熱で出来ることではない。
店の責任者という立場でありながら、ジョージアは自分の腕を店でも振るい、ラーメンを作る店員の教育も全て彼女が行っているらしい。自分の店の味を落とさないための、徹底した品質管理。
恐らく、その過程でジョージアは麺力を手に入れたのだろう。自分のラーメンと毎回対話を重ねながら、ラーメンを作っているといった彼女の言葉は、文字通り本当に対話を重ねているのだろう。逆に対話なしではラーメンを作ることは出来ないと言ったジョージアを、リブは尊敬する上官を見る目で見つめている。まるで自分の存在全てをジョージアに捧げ、彼女の一挙手一投足になることで、リブは自分の絶対的な忠誠を示そうとしているかのようだ。
そしてケイはそんな二人の関係を、どこか眩しそうに、羨ましそうに見つめている。
「ワタクシは、日本へ自分のラーメンを広めたいという夢があります! そのためにはこの町でオープンする日本での一号店は、必ず成功させたいのですっ!」
「……いや、それで『豊』がジョージアの夢の邪魔になるのはわかったけど、だからと言ってお店の権利そのものを賭けて勝負するのは行き過ぎではないかな?」
父さんが冷静すぎる指摘をした。そもそも、ジョージアの話が本当なら彼女の店は全国展開をしている超大手で、わざわざ賭け事なんかしなくても、いずれ『豊』なんて弱小ラーメン屋は潰せるはずだ。賭け事にこだわる理由がわからない。
第一、うちとしては勝負を受ける理由がなかった。
だが、ジョージアはそこで一枚の紙を取り出した。
「これは、月子さんが書いてくださった血判状です」
「月子何やってんだ!」
「えへへっ」
父さんに怒られても、月子は朗らかに笑う。
文面の内容は、両者のお店を賭けた勝負についてのものだった。
勝負は、一週間後にラーメンの食べくらべを行うこと。審査員は、この町の住民で、ラーメンを食べてどちらのラーメンが美味しかったのか投票してもらい、多数決で勝負を決める方式だ。不戦勝も認められている。
勝負に負けた店の権利は、買った店に移乗される。更に『豊』が負けた場合は――
「尾崎月子が、アメリカにラーメン留学!」
「ええ、ワタクシ、月子さんのラーメン愛に感服いたしました。これほどラーメンを愛している方を、ワタクシは知りません。月子さんとなら、いずれ世界一のラーメンを作ることが出来るはずです!」
「お父さん、お母さん、お兄ちゃん! やるよ、あたしっ!」
「いやいやいやいや!」
「ないない、ありえない!」
月子の料理の腕前を知っている俺と父さんが、脊髄反射で反対する。
「もし勝負を受けて頂けない場合、不戦勝ということで、月子さんはワタクシが預からせて頂きます。ワタクシがアメリカで、月子さんを立派なラーメン職人に育て上げてみせますわ!」
「あらぁ、お土産よろしくねぇ」
「母さんはちょっと黙ってて!」
「一郎、ちょっといいか」
父さんに呼ばれ、俺達は二人で声を潜めて話し合う。ケイもついでにやってくるが、今は無視だ。
「どう思う? 一郎」
「……どうもも何も、月子に料理なんてさせられないでしょ」
きっとジョージアは、月子が作る料理が殺人的かつ猟奇的かつ異次元的なものだということを知らないのだ。月子の料理が全世界に広がることを考えただけで、怖気が走る。核兵器が隣の家に落ちるよりも恐ろしい。
「しかし、店を賭けるというのは……」
「でも、不戦勝で向こうが勝っても、月子はアメリカに行くことになるんでしょ?」
「それは、確かに……」
父さんが渋い顔をして、月子の横顔を盗み見た。月子は天使のような笑顔を浮かべているが、ラーメン愛だけは誰にも負けないほど持っている。そんな月子が、ラーメンのことでした約束だ。負ければ意地でも、あいつはジョージアについてアメリカに行くつもりなのだろう。
やがて父さんは意を決したように頷くと、強い意思のこもった視線を俺に向ける。
「よし、なら僕も腹を決めないといけないな」
「父さん……」
「ジョージアさん。そのラーメン勝負、受けて立とう!」
父さんの言葉を受けて、ジョージアが嬉しそうに笑う。
「本当ですか?」
「ああ、でも僕は負けないよ! 僕の作ったラーメンで、月子を、世界を守ってみせる!」
「え? ラーメン勝負に出るの、お兄ちゃんじゃないの?」
握りこぶしを作って決意表明した父さんへ、なんの一点の曇りもない純度百パーセントの質問が、月子から放たれた。
「え、だって僕が『豊』の責任者だし……」
「なんで? あたし、お兄ちゃんのラーメンの方が好きだよ?」
「亜沙ぁぁぁあああっ!」
「あらあらぁ、新一さんったら、甘えん坊さんなんだからぁ」
娘からの無慈悲な一言で、父さんが完全にノックアウト。泣き崩れる成人男性を前に、ジョージアはどうしたらいいのかと、目を白黒させていた。
「え、えぇっと、結局勝負は、ワタクシとあなたで行う、ということでいいかしら? 一郎」
「うん、そうだよっ!」
「おい、月子!」
俺の言葉を無視して、何故だか月子は偉そうに胸を張る。
「お兄ちゃんのラーメンは、お父さんよりも美味しいんだから!」
「亜沙ぁぁぁあああっ!」
「あらあらぁ、新一さんったら、全くもぉ」
「お兄ちゃんのラーメンは、世界一なんだから! ジョージアさんにも、負けないんだからねっ!」
「あら、それは楽しみですね」
(一郎の麺力使いとしての力、見せてもらいますよ)
(はん! 首を洗って待っておくんだな、鶏ガラ)
(なんですって! 牛乳のくせにっ!)
(なんだと!)
(まぁまぁリブ、落ち着きなさい)
「それでは、ごきげんよう」
そう言い残して、ジョージアはリブを連れ立って帰っていった。
それはそれとして、俺は月子を横目で睨む。
「……おい、月子」
「何? お兄ちゃん」
「何? じゃない! なんであんな勝手なことをしたんだ!」
「だって、お兄ちゃんが負けるわけないじゃない」
「いや、だからってお前……」
「でしょ?」
そうやって、俺が勝つと信じて疑わない目でこちらを見ながら、月子は嬉しそうに笑った。
暫くジト目で月子を見ていたが、結局は俺が根負けする結果となる。
「全く、本当に面倒くさい事に巻き込みやがって」
「ごめんね、お兄ちゃん!」
「心が全くこもってない! ったく、こんな事なら、もう少しジョージアの作るラーメンがどんなものなのか、探りを入れておけばよかった」
「あ、連絡取る? ジョージアさんとは番号交換してるよ?」
「行動力の化身か? お前」
「血判状書いたときに、教えてもらったんだよね!」
とはいえ、面倒な事態になっている事には変わりない。面倒事は、本当にたくさんだ。なるべく楽に、極限まで楽をしたい。
(それで? どうするの、一郎)
部屋に戻ってきたタイミングで、ケイが俺に問いかける。俺の脳裏に、幾つかの戦略が煌めいた。
そして、俺の頭上を揺蕩うケイを一瞥する。
(ん? 何よ、一郎。そんな改まって私を見て)
そう言って笑うケイの顔を見て、俺は一つの決心をした。
(ケイ。お前、ジョージアに食べられろ)
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