Spiegel del Guerrero ―ある突撃手の物語―
篠塚陣
プロローグ
海の向こうの、遠い見知らぬ場所で、どこかの誰かさんが世界を救ったらしい。
その世界を救った誰かさんは、自分と同じくらいの歳の少年少女だという。
世界は救われた――それなのに、この目の前に広がっているクソったれな光景はなんだ?
朝焼けに照らされた、山間にぽつんと存在する小さな村。木切れや波型のトタン板で作られたこじんまりとした家々。村の生活を最低限支えるだけの慎ましい家畜と畑。
住人は皆、
なのに彼らを葬送する人間はもういない。
男から女、老人から赤ん坊まで――村の住人は全員、今は畑に掘られた大きな穴の中に横たわっている。
ガソリンの匂いが鼻腔の奥をつん、と刺激する。
熱気が頬を撫でる。
炎が激しくなるにつれ、空に向けて巻き上がる風に黒い塵が混じりだす――その塵が目に入り込む。指で目元を擦ろうとして、思いとどまる。
異物感を堪えながら、瞼をゆっくりと開き自分の手を見る。
久しく無くしていた指先の感覚をその時やっと取り戻す。
感じるのは――滑りと生暖かさ。
そうして初めてこの光沢のない鉛色の腕を自分の腕だと知覚する。
改めて、ゆっくりとその新しい手を握る――紅く濡れた鋭利な金属製の指と指がカキン、と高い音を響かせ触れ合う。
あたしは、胃の中のものをぶち撒ける。
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