第5話 ハエと彼女の決意

それから、よれ男くんも、いじめっ子兄弟も、見かけることはありませんでした。


美しかった彼女はできの悪い軟便のようにぺしゃんこになり、植え込みの土の上に横たわっていました。


調子はどうですか。


あまり元気が出ませんわ。でも、土の上に落ちて良かったです。


彼女は自分が土に還れることに安堵していた。


良かった。彼女はまだ絶望していないんだ。それは僕にとって何よりの救いでした。


ふと、一匹のハエがやってきて彼女の上に乗りました。


メスのハエです。ハエは彼女を品定めするように体の上を歩き回りました。


ハエは僕たちうんちを食べることがありますが、それとは明らかに様子が違います。


残念ながら、汚物である僕たちは動物と意思の疎通ができません。ハエが何を考えているかは謎です。


やがてハエは意を決したように、彼女のてっぺんに陣取ると、自らのお尻を彼女に押しつけました。


これはまさか・・・・・・。


お尻が離された跡を見ると、彼女の体に乳白色の楕円形の物体が埋め込まれていました。

間違いありません。卵です。


ハエは産卵の動作を幾度となく繰り返し、彼女の体に無数の卵を産み付けたのです。


産卵を終えたハエは少し疲れたようにゆらゆらとよろめきながら飛び去っていきました。


飛び去るハエを見つめながら彼女はこう言いました。


安心して、私に任せて。きっと育ててみせるわ。


彼女は弱っているはずなのに、その目は決意と熱意が宿っているように見えました。


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