静丘涼矢のチカラ
「僕は人の眠りを喰らう妖怪さ」
言うと四条さんはナイフをあっさりと下ろして、「どうぞ続けて?」と言わんばかりの視線をよこした。とりあえず向こう半時間ほどの寿命を得たらしい。でもわからないぞ。いつナイフが飛んでくるかわかったもんじゃない。よし。距離を取ろう。
「では、わかりやすく解説させてもらうとするよ」
とキザったらしく言いながら、教壇へ歩を進める。せっかくだから教室の設備を使わない手はない。それにナイフの殺傷圏から出来るだけ離れたかった。刃物って怖いね。今の今まで舐め腐ってましたすいません。
掃除がおざなりだったのだろうか、微妙にキレイになりきってない黒板を見て、「はて、何を黒板に書こうかな」なんて思った。ちょっと教壇に立って説明したかっただけで、何を書いたらいいかなんて考えて無かった。先生方の偉大さを知った。
背中にれいとうビームが刺さっている。凍傷になりそう。なんなの?ナイフなんて無くても殺傷力ある系女子とか完全にゴルゴのご同僚かなんかなんじゃないの。怖いね。助けてほしいね。タイムショックなら「今、たすけて何回目?」って問題が出る。間違ってドラム洗濯機にかけられる洗濯物の気分を得る未来が見えた。
よし、話す内容がまとまってきた。ちゃんと演技入れて、それらしく行ってみよう。
「では、これから授業を始めますが、質問があったら挙手するように。いいですか?」
なんだコイツ意味わかんない死ねばいいのにって感じの視線。しかし、教師なら、先生ならきっとめげない。
「では、これから授業を始めますが、質問があったら挙手をするように。いいですか?」
えっ?て顔を一瞬して、それから難しい数式にぶつかった時みたいな顔。やれやれ。仕方がないなぁ……
「では、これから授業を始めますが、質問があったら挙手をするように。いいですか?」
「……はい」
ようやく意図を理解したらしく、とても面倒くさそうな顔をしてから返事をする四条さん。ふふふ……学習したらしいね。先生は嬉しいよ……
「で、先生は自分を、人の眠りを喰らう妖怪だなんて言いましたが、この言い方では誤解を生みそうだなと反省しました。ので、まぁどんな事が出来て、普段どうしているのか。それを説明しようと思います」
特に異論反論抗議質問も無さそうなので進める事にする。白の長めのチョークを手に取って、丸を描く。ここでも先生方の偉大さに僕は感動した。特に数学の先生。円描くの、上手かったんだね。僕の描いた若干ズレた円に、僕はピザみたいに線を引いていく。ピザの耳にあたる部分に時計よろしく数字を書いていった。
「はい。一日のだいたいの過ごし方を円グラフにしてみました。では四条さん」
呼びかけると露骨に嫌そうな顔をする。おい、誰の為の授業だと思ってんだよ。頭考えろよ。……とか先生方は思ったりするのかなぁ……偉いなぁ……
「どのあたりで眠くなりますか?」
僕の質問は予想外だったらしく、小首を傾げる四条さん。ミス殺人未遂に不覚にも可愛いという感情を抱いてしまい膝を落としそうになった。なんとか堪えた。
「夜だと思うけど」
「それはそうだ。人はそもそも非夜行性の生物だからね」
僕が自分の回答に難癖を付けたように感じたのか、睨んでくる四条さん。ふっ……殺意が篭ってない視線なんて、効かないぜ?しかも今は先生なのでより強い。メンタルとか社会的なパワーおよび位置エネルギーとかが。
「眠り、というとどうしても夜って感じがするかもしれない。ちょっとしか変わらないんだけど、こう言ったらどうだろう。居眠りをする時間帯は?」
「……!昼過ぎ、ね」
「御明察。化学的思考に三点追加しておこう」
どっちかというと論理的思考な気もするけど。点数あげたいくらいに察しがよくて助かる。
「それで、いったい居眠りと貴方の存在に関係があるって言うの?」
僕は答えない。
「………どうしてそこで黙るの」
僕は応えない。
「ねぇ!!」
どうやら四条さん、好奇心が先行して少し前の内容が飛んじゃう人らしい。大丈夫かな……猫みたいにこう、オブラートに言うと、「見てはいけないものを見てしまったのでお前は剣の錆だ!!ケヒーッ」てされそうで不安になる。ドラちゃん直伝の温かい目を浴びせる。すぐ逸らされた。今度は顎に手をやって考えている。目を閉じてまで考え始めた。がんばれ……がんばれ……君はやればできる子のハズだ。
そして10秒。おずおずと右手が挙がった。
「質問をどうぞ」
「眠りを喰らうというのはもしかして居眠り犯を撲滅しているという理解で正しいですか?」
「………そうですね。そういうことになります」
真相のために準備してたテンションがごっそり持ってかれた。なんだよ。わかっちゃうのかよ。こんな風に度々なったりするなら教師にはならないでおこう。鬱になりそう。
「でも、なぜそんな力が貴方にあるの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます