化野高校生徒名簿
亀馬つむり
四条留美vs静丘涼矢
「あなた、妖怪なんでしょう?」
「・・・妖怪?」
「わたし、知っているの。だから大人しくあらいざらい正体および本性および来歴など諸々吐きなさい」
突きつけられた石のナイフには痛そうな雰囲気が漂っている。あっこれ刺されたら救急車行きだなと直感する。そんなナイフを握っている人物を見た。黒髪ロングで清楚な雰囲気の女子である。ナイフさえ無ければ美人に違いない。「へぇ、キミみたいな子猫ちゃんから僕にお話とはいったいなんだろう??」・・・って言える状況だったら良かったなーって思う。怒るにしろ照れるにしろ愉しかったろう。
しかし現実は残酷です。その目には明確な殺意・・・までは行かないにしても、「コイツをお前の内臓ちゃんとハローしてグッバイだぜ〜〜〜」って感じの目である。デッドオアダイ……だれかたすけて。ふだん助けてる分を精算するなら今!今ですよ!「放課後の教室で同級生と二人きり」だなんて素晴らしい状況に水ぶっさすだけでいいのです!「えっお前ら何やってんの?」って忘れもののついでに何気なく言ってくれればいいからさぁ!ねぇ!
・・・・・・なんて願ってもね。叶ったらしないね。さすがにね。現実逃避終了。目の前の状況をなんとかしよう。疑問その1。
「君は・・・ええと、何組のなにさんだったかな?」
「五組。四条留美」
「どうも。四組の静丘涼矢です」
しっかり目を見て話す。ナイフ+女子の鋭い眼光のコンボは怖いけど。そうじゃないと解ける誤解も解けなくなるだろうから。妖怪ってのがなんのことだかさっぱりだし。
「でだ、四条さん。僕には見知らぬ人から妖怪呼ばわりされる覚えなんてないんだけど」
「いいや、ある。間違いない」
まるで揺らがない四条さん。どんだけ自分に確信があるからほぼ初対面の人に妖怪認定できるんだろう。何食べて育ったらこうなってしまうんだろう。僕は四条さんが心配になった。初対面の女子からナイフ向けられても相手の心配ができるとは、我ながらそろそろ彼女がどこかから生えてくると思うんだけど。なんなら明日とかでもいいよ!いまはちょっと処理しきれない。
とりあえず漫画とか崖ドラマで学んだことを試してみよう。
「なるほど。素晴らしい想像力をお持ちのようだ。宗教の教祖にでもなったらどうだい?」
あ、目がさらに険しくなった。目の筋肉が凝りそうだな〜。・・・妄想逞しい中二病の方かとも思ったけれど、そうではないらしい。重篤危篤でもはや不治の中二病、もしくは何らかの確信をもって言っている、ということになりそうだ。
まぁ、後者でしょうな。中二病に妖怪好きのイメージは無い。
じゃあ確信の根元を暴こう。ナイフに刺されたくは無いので因縁をふっかける奴みたいな気持ちで言ってみる。本来なら胸ぐらの一つや二つ掴みたいところだけれど、女子だし、ナイフだし。お気持ちだけでいこう。
「あぁ!?だったら証拠だよ証拠!科学で言うとこのエ、ビ、デ、ン、スっちゅうもんをだしてみい!!」
「ひっ!?・・・・・・え、えぇ・・・」
ふふふ、どうやら豹変ぶりに困惑したらしい。そう、僕こそは演劇部のトリックスター!と呼ばれたい男。演技力にはアイハブパワーだ……。
おっと、もしかしてこのチンピラ的演技は効くのかぁ・・・?なら継続して逆にあらいざらいの復習劇と洒落込んでやろうか・・・?
と、思って一歩踏み込んだ。
灰色が視界の端に見えた。避ける。鼻先数ミリを灰色が通過する。ひぇぇぇ……
「このナイフに触れると貴様は爆破四散する・・・すなわち、死ぬ」
「マジか」
「マジだ」
「マージ・マジ・マジーロ?」
「マージマジマジーロ。」
あまりの驚きに妙なことを言ったがあちらは「ファイナルアンサー?」ぐらいで意味を取ったらしくそのまま返してくる。かわいいね!あはは。
いやいやいやいやいや。なんで僕が爆散兵器を向けられてるわけ?ここは戦場ですか?いいえ学校です。あれはゾンビですか?いいえ、もっと恐ろしいなにかです。世間はこれを「ジョシコウセイ」と呼称しますがきっとそんな気安いものじゃない。人様を妖怪呼ばわりしたあげく手榴弾を目の前でちらつかせるような恐ろしい×1000みたいな存在なんですよ。命の危機の極み。僕は放課後の教室ではなく犯人が辿り着く崖に冤罪で登りつめたのだ。すごいね。なんらかの告解が必要なのかな?あははははは。
うわぁそんなこと考えてたらつかつか寄ってきたぁ!!ローファーとリノリウム床がアンサンブルしてるよ!僕の命にレクイエムだよ!たすけて!
「だんまりしてないでとっとと喋って」
首から五センチにナイフがある。石で出来てるはずなのに邪悪にギラギラ光って見える。ああ、天にましませぬ我がおばあちゃん。サンズ・リバーで会いましょう・・・。
たぶん私、喋ったところでもうダメなんだわ・・・最後の葉っぱを待たずして、ひらりひらりと落ちてしまうのだわ・・・!さようなら、さようなら、さようなら・・・・・・
よし、どうせダメなら武士の切腹みたいな気分で喋ってしまおう。人生が終うのは嫌だし。できるだけ可能な限りポッシブルに、誠実極まりなく清聴な語り口で語ってやりましょう。
実のところ、僕は自分が単なる人間でないらしい証拠があった。あってしまった。悲しいね。
告げる。
「四条さんの中で、妖怪の定義がどうなってるかは知らないんだけど。まぁそれは後で聞くとして、平く言えば」
「僕は人の眠りを喰らう妖怪さ」
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