孤児院の前にひとり佇んでいた美貌の少年テル。人の心までも見通す『神眼』を持っていた彼はある宗教団体に保護されることに。総主教に気に入られて育てられ、右腕としても彼女を支え続ける。しかしその立場と美しさに周囲からは愛憎の目を向けられ、仮初めの笑顔を浮かべながら他人には興味を持てず自身の心を閉ざしていく。
『蒼き月夜に来たる』のスピンオフ作品です。登場人物の一人テル・ルーメン主教の生い立ちの物語。スピンオフとはいえこのお話で独立しているので、先に読んでも問題ないと思います。
謎に満ちているルーメン主教が過酷な人生を送ってきたことは本編ではあまり語られていませんが、先に知っていれば様々な読み方ができて面白いはず。私は先に本編を読んだので、スピンオフを知った上で本編をもう一度読み返さなきゃ!という衝動に駆られています。
初めてできた友人?フォルティスがまっすぐに向ける親愛や、気付かれない程の、だけど父親のような深い愛情をもって見守るフェエル。ルーメンを心から愛し支え続けてくれた人たちと関わり、少しずつ救われていくことが嬉しくなります。
そして様々な愛憎が絡み起きてしまった壮絶な事件。このあたりは本当に号泣しました。何回読んでも泣けてきます。どうしたらいいの神様たすけて……
ここまで気持ちが揺すぶられた作品を読んだのは久しぶりでした。二次創作に興味を持ったことはありませんが、「こういう気持ちがきっかけで創りたくなるのかも」と初めて思ったかもしれない。
たくさんの方に読んでほしい作品です。ぜひ!!
「蒼き月夜に来たる」のスピンオフ。
こちらを先に読んでもお話的には問題はないと感じました。
本編は40万文字超えの読み応えある長編でしたが、するする読める読みやすさと夢中になる展開なので、恋愛要素のある女の子主人公の異世界転移系の本格ファンタジーをお求めなら、ぜひ本編もお薦めしたいです。
こちらの作品は本編で謎めいた印象だった神官さんの過去が読めます。彼がどのような過程を経て、本編主人公と出会う事になったのかという過去のお話でした。
想像以上に過酷な人生ですが、彼の傍には温かい人もいたし信頼に値する人もいて、主人公と出会う頃の神官さんが形作られていく。本編での行動もこれを読めば理由が判明してスッキリします。
全ての謎が解けるわけではありませんが、本編と合わせて読んでいただきたい一作。
このシリーズは、登場人物の誰を主人公にしても物語が成立するなと改めて思いました。
青い月の夜に、異世界から落ちてきたユエを巡る『蒼き月夜に来たる』のスピンオフとなり、神官テル・ルーメンの過去を明らかにする物語。
ユエの目を通して語られる本編では、真意が読みにくく曲者に見えた彼の本当の姿は、全く想像もしていなかった以上に純粋で、そしてなんともやりきれないほどに不憫な運命を負う青年でした。
「神眼」を持つ神の子として、幼い頃から玩具代わりに教典を学び、どんなことも「請われれば厭わず受け入れる」。彼視点で語られるが故に淡々としていますが、読んでいるこちらからすればもうなんともやりきれず切ないのです。
やがて、本編でも姿を見せていたフォルティスと出会い、初めての救いを得て、彼も少しずつ変わっていきます。それでもそんな安寧を許さないとばかりに襲いかかるかのような苛酷な事件。
総主教とフェエルが彼に向ける深い想いは、とても複雑で、それでもきっと彼らなりにルーメンを愛していたのだろうと思うともう涙を堪えきれませんでした。
やがてユエと出会い、さらに変わっていく彼は彼なりに幸せだったのだろうと思いますが、もういいからフォルティスと幸せになっちゃえよ!!とついつい思ってしまいました。
運命に翻弄されるルーメンと彼を取り巻く人々の様々なかたちの愛の物語。
まずはこの物語からでも是非読んでいただきたい素晴らしい一作です。