第6話プレゼント談義

「この問題、去年出たみたい。多分やっといて無駄になることはないと思う」


「お、おう」


初デートから一週間経過した土曜日。


場所は何と春海の家だった。


外観からしてただのサラリーマンの家ではないことが伺える。


ただの勉強会とは言え、普段着でヘラヘラと来てしまって、場違いではないのかと少し後悔した。




何故こんなことになっているのかと言うと。


先週のおデートの際に提案された高校は何と、都内トップ4を射程圏内に入れた上で、より手堅く合格できそうなところにしようと言うことになった。


つまり、今からある程度の勉強をして基礎学力を上げておけば、偏差値も上がるし成績が上がれば学校での評価にも繋がるということだった。


才女の考えることは俺には到底思いつかないし、理解するのにも時間はかかったが、春海はやはり教えるのも上手い様で、勉強そのものはそこまで苦にならなかった。




「お前に渡すものがある…」


嗄れた声で俺に囁きかけてきて、パンフレットを漁ったときと同じように鞄をごそごそとやる春海。


そんな、元ネタよく読んでないとわからないバァさんの物真似とかやめてもらえませんかね…。


霊光波動拳とか渡されても、俺多分耐えられなくて死んじゃうから。


「じゃじゃーん!!」


春海から手渡されたのは、携帯電話だった。


至ってシンプルな造りだがデザイン性は損なわず、誰でも使いこなせそうな物に見える。


「携帯?どうしたんだよこれ」


「パパが買ってくれたの。ほら、お揃い」


そう言って春海も自分の携帯を出す。


形が同じで色が少し違うのか。


「おお、あざーっす!…って、受け取れないだろこんなん…」


「えー!?何でよ!?私とお揃い、嫌?」


「そうじゃないよ。見てくれに文句があるとかじゃない。いきなりくれるって言っても、タダでもらう様な値段のものじゃないだろ、これ…」


確かに携帯電話には憧れていたし、いつか買おうとは思っていた。


「それにな、俺たち今はちゃんと付き合ってるけど、それだっていつまで続くか…」


そこまで言った時だった。


部屋の気温が体感で5℃は下がった気がする。


「へぇ…大輝、私と別れるかもしれない、とか思ってるんだ…」


ゆらり、と効果音が聞こえそうな立ち上がり方をして、春海は俺を見下ろす。


目からはハイライトが消えてる様に感じられる。


あ、これ死んじゃうパターンかもしれない。


「待て待て待て落ち着け!!そうじゃないから!!別れるなんてあり得ないから!!」


「いつまで続くかわからない、ね…」


そう言いながらすっと俺の左頬に右の手を当てる春海。


氷か!?と思うほどにその手は冷たく感じられた。


「いや、続くに決まってるだろ!他に女とか考えられないし、俺は春海一筋だっ!!」


破れかぶれに叫んだ瞬間、部屋のドアがノックされた。




「春海から聞いてる通り、ラブラブなご様子ね」


ニコニコと笑いながら春海の母親の秀美ひでみさんが入ってくる。


うわ、今の叫びがよりによって彼女の母親に聞かれるなんて…これは家に帰ってから布団に潜り込んで足をバタバタさせるに値する。


「ママ、私たちお似合いだと思う?」


俺の頬に手を当てたままで春海が言う。


「ぱっと見、首でも刈り取りそうに見えなくもないけど、とってもお似合いだと思うわ」


ニコニコしながら秀美さんが言う。


ニコニコしながら物騒なこと言わんでください…。


「だってさ、大輝」


目にハイライトが戻り、ニコりと笑う春海。


畜生、可愛いじゃねーか…。


「でもね、ママ。大輝はパパからの贈り物なんて受け取れないって言うんだよぉ」


ぐすん、と口で効果音を言って嘘臭い泣き真似をする春海。


何だろう、泣きたいのは俺の方なんだが。


「あら、携帯電話好きじゃなかったのかしら」


「ち、違いますよ。タダでもらってしまうにはちょっと高いんじゃないかなって…通話料とかかかるだろうし…」


実際、月にいくらかかるのかとか下調べなど一切していないものだから、どれだけ使っていいものかも見当がつかない。


「そうねぇ…なら、春海をこれからもよろしく、ってことで二人のためのプレゼントってことならどう?」


お、重い。


よろしくされるつもりではいるけど、それに対しての対価など要求するつもりは当然ない。


俺だって幸せなわけだし。 


これ以上を求めたらバチが当たるのではないかと思った。




「おお、盛り上がってるみたいだね」


更にそこに現れたのは…お察し、春海の父親の春喜さんだった。


どうなってしまうんだ、俺…。

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