第4話初めてのデート

この日、ずっと楽しみにしていた予定にそわそわと落ち着かない心を必死に抑えつけて、髪の毛をいじったり服装を気にしたりしていた。


そんな俺の様子を良平がニヤニヤと笑いながら見ている。




「ああ、今日だっけか、姫沢さんとのおデートは」


「ま、まぁな」


「お前…緊張しすぎじゃね?いつも通りにしてた方がいいぞ?それこそお前がリードしてやるくらいの余裕持たないと」




普段から大人びた印象のある良平からの含蓄ある一言。


だが、俺に余裕など持てるはずもなく、良平に泣きつく。




「なぁ、この服でいいと思うか?髪も普段と変わらないけど、がっかりされたりしないかな?そもそも俺自身が大丈夫かな…!」


既に何度か二人で出かけたりと言ったことはあったはずだが、デートと銘打ってのお出かけはこの日が初めてということもあり、意識してしまうと落ち着かない。




「あのなぁ…あんまガチガチになってると楽しめないと思うぞ。姫沢さんだってそんなの望んでないと思うけどなぁ」




そうは言っても…コースはどうしよう。


お金どれだけ持っていけば良いかな。


トイレ行きたくなったらどうしよう。


などなど心配の種は尽きない。




「よし、大輝。お前とりあえず笑え。笑っとけ」


「は?」 


「いーから!笑っとけば少しは緊張も解けるから」


「そ、そういうもんなの?」


「ええい、ガタガタとうるさい!」




そう言って良平が俺の脇やら足の裏やらくすぐってくる。


たまらずゲラゲラと笑い出してしまう俺。




「や、やめ、おま!あーははははは!!やめろおおおほほほほほ!!!」


「ほら、どうよ?」


「あ…」


不思議なことに、良平の言った通り緊張していた体は少し軽くなった気がした。


「ああ、ありがとう。本当に少し楽になった気がするよ」


「そうだろ?あとな、今日いきなり大人の階段登ったりなんかしないと思うし、何よりがっついたりするのはNGだからな?」


完全に見透かされている様だ。


キスのその先まで考えていたからこそ俺はガチガチになっていたのかもしれない。


色々な意味で。


そんなことを考えている間に、出かける時間がきた様だった。


「あ、俺行かなきゃ!良平ありがと!頑張り過ぎない様に頑張ってくるよ!」


「ああ、気負わずいけよ。お前なら大丈夫だって。上手くいけばキスくらいはいけるかもな」




ああ、良平はキス事件のこと知らないんだっけ。




「キスなんかとっくに終わってるっての。んじゃ、行ってきます!」




言い残し、俺は施設を出た。


後から聞いた話では、良平はキスのことを聞いてしばらく固まっていたという。




「あ、やっときた。女の子待たせるなんて、減点ー」


待ち合わせよりも少し早めに着いたつもりだったが、春海は更に早かった様だ。


暇か?暇なのか?


それともそんなにも楽しみにしてたのか?


後者だと嬉しい。




「早いな…そんなに楽しみだったの?」


「は?当たり前じゃん。大輝は楽しみじゃなかったの?」


「いや…楽しみ過ぎて出かける直前までガチガチになってた」


「何それ…大輝も人並みに男の子なんだねぇ」




などと他愛もない会話を交わしながら場所を移動する。


まだ午前中だが休日ということもあって、そこそこ賑わっている様だ。


「で、どうする?何処か行きたいところとかあるの?」


「いきなり人任せ?」


「だって、デートとか言われても俺、わかんねーし…」


「いつも通りでいいんだって。前からよく遊んでたでしょ?」


「そんなもんか?」


「そうだよ。それとも何?エッチなことでも期待しちゃった?」


「ば、バカか!」


しないわけねーだろ!


つーか忘れかけてたのに思い出させやがって…。


「バカって酷いなぁ。私、大輝とならいいって思ってるよ?」


「軽々しくそんなこと言うんじゃありません」


そう言って頭に軽くチョップを入れる。


「嘘じゃないんだけどなぁ」


まだ中学生になったばっかりの俺たちが、それ以降のことに責任を持てるとも思えない。


何よりそういうのを今から覚えてしまったら、ただでさえバカな俺の頭は更に加速してバカになってしまうんじゃないかとさえ思った。


「ま、まぁ何だ。そういうのはほら…そのうちな」


「やった!絶対だからね?」


何というか…こいつの方ががっついてないか?




とりあえず腹ごしらえを、ということで食事ができるところを探す。


そんなに金があるわけでもないが、俺の悪い癖でお洒落なレストランに入ろうと提案したが、一瞬で却下された。


「そういうのは、お金ある程度稼いでる人が行けばいいんだよ。私たちまだ中学生なんだよ?ハンバーガーでいいじゃん」


「そ、そっか、任せるよ」


「それにね」


「?」


「大輝と一緒に食べるなら、どんなもんでもいつもより一回り美味しく感じるって」


何て恥ずかしいことをさらりと言うんだろうか。


けど嬉しく感じている俺がいる。




昼食を済ませ、店を出る。


「さて、どうしよっか。運動する?」


運動と聞いて夜の運動会的なことを連想してしまった。


だがさっき自分で否定しといてそれはない、と考えを打ち消す。


「あ、ああ、そうだな、ボーリングでもするか?」


「今、エッチなこと考えてなかった?」


何なの?俺の脳内覗き見でもされてるの?


サトラレにでもなっちゃった?


「バカ言え。こんな真っ昼間から…」


とは言えほぼ図星なので口ごもってしまう。


「でも、嬉しいよ。私のこと、そういう対象として見てくれてるんでしょ?」


「そりゃ…彼女…だし」


「私もね、大輝のことそういう目で見てるからね」


「んなことぶっちゃけなくていいから!」




高鳴る鼓動を必死で抑えつけて、近くのボーリング場に向かう。


途中、春海が俺の手を握ってくる。


俺も少し強めに握り返した。


そうだよ、こういうのでいいんだって。


一人満足感に浸る。




靴をレンタルして、ボールを選ぶ。


正直ボーリングなんてあんまりやったことないが、何とかなるだろうか。




さすがと言うべきか、春海は何でもそつなくこなす。


ボーリングも200前後のスコアを叩き出していた。


俺はというと、力みすぎて100行くかどうかくらい。


下手くそすぎだろ…。


結局4ゲームほどやって一度も勝てることはなかった。


わかってたさ。




「ね、このあと行きたいとこあるんだけど付き合ってくれる?」


ボーリング場を出て、春海が言う。


「ああ、もちろんいいよ。何処なの?」


「着くまでのお楽しみ♪さ、行こ行こ」


春海が嬉しそうだし、別に何処でも良いか。

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