災いも三年置けば用に立つ

 それでも絶対生き続けよ。

 と十年前に絶望に落ちた妹に兄貴あにきが言いくくめた言葉だった。それを聞いた妹はふざけていると言い返した。

 あれから、会話は10年前からそこで留まっている。もっと家族らしく話したらよかったと思うかと聞いたら、全く思わない環状線だと反論するはずだ。亡くなった人には悪く聞こえる話だが正直、うんざりしたと思うだろ。

 ウイルスが日本列島に広がって、人々は混乱の中で死んでいった。

 いや、違う。人々は生き残りになるためにお互い殺しあった。理由はない。当時の俺は今よりも小さい身体をしている子供だったから、大人の事情なんて知る者は言わず言う者は知らずだった。

 弱者はすぐにでもバベルに引っ張られて検査を貰った。子供は強いてワクチンを注入され、真っ黒な部屋に閉じ込められて経過装置をされた。初めはいわゆる人体実験が盛大に行われて多数の出し物が生まれ、そこから派生した結果に人々は興奮しつつ、夢見た新人類に近づいた。

 第一世代の犠牲のおかげで浄化の方法を見つかったバベルは自ら人々に血液検査を実行し、金でワクチンを買い取らせた。真の商売を知っている大人に間違いがなかった。俺の親もそのワクチンで二人しかいらなかった子供たちを死の恐怖から生き返した。最初は失敗して何回の繰り返しが続いた。

 借金ができた。

 当然の話だった。仕方がなっかたと、当時の俺らは思った。ワクチンのために必要な金と時間を全部ありのまま注いだからだ。どうしようもなく、家族はバベルの傘下に入り、長い間仕事に勤めてもらった。したら事前に、幹部の席まで上がって通称、「僕」のグループにも入らせてもらった。

 数日後、家族の一人が全身に茨がばらまいて死んだ。母だった。続けてもう一人も同じ病気で死んだ。俺は唯一茨持ちの子供の中で生き残った。

 死ぬかと思った。元気に見せかけた人々が全員死んで行くから俺もすぐに茨に食べられて、闇に沈む茨の森になるだろと思った。捨て駒になりたくなかった俺はそれきり逃げる方法を探した。

 死ぬ場所は自分で決めたいと、ふざけた思い出で始まった計画だった。

 当然ながら、俺は未だに死んでいない。死ぬ場所をまだ探していないからと言う単純な理由で、体の中で眠っている茨がまだ死なないと言ってくれた。ありがたい話でもないのに少しは安心してしまった。

 死の原因に救われるなんて馬鹿げた話だ。 

 「売り買い、全部できます!ワクチン・サンプルはいつでも急募です。」

 川霧に追ってたどり着いた場所はスラム街の夜行市場マーケットだった。

 昼なのに太陽の光がささないスラムにあるマーケットには売らないものはないくらい、やばい匂いがする場所である。世間でも有名な人の臓器ぞうきや人身売買なども手配できる魔法のマーケットでもあった。

 とにかく真っすぐここに訪ねたと言うならきっとどこかに連絡先がいるからだ。

 「ノー、ノ―。足りない。分かる?マネーは使えない。全然足りないよ。」

 「金出せろって言ってんだろうが。聞こえないかよ。」

 「これは使えない。マーケットで使える金を持って来い。さもないと手前の右足でも渡せ。」

 マーケット内では違法的な行為が頻繁に起きる。通用されている貨幣がマーケットの住民が欲しがるものに価値を置いて、明確に決めてあるものは何もない。絶対的に変わらないものはバベルから発給される保険証ヘルスカードと政府の政策によって一か月に一回で配られる配給表レーショニングチケットがある。

 保険証はバベルに入れるからと言って値段を遥かに高く評価する。配給表は食料を含めて、政府から公認された配給品を貰えるから――あくまで他人にばれないことを前提で――うまくすると一か月は飲み食べ放題で暮らせる。

 要するにマーケットに入った以上政府が決めたルールは通用しない。もしもの話で知らないと言っても、貨幣を出して物を買おうとする人にはカモと思われる。

 「What going on. Why I can not buy anything! You cheating me, right? Hey, this guy is JaF.」

 ジャフと言われた人はマーケットで働いてある住民の日本人。それを言い出した人は欧米人、に見える外人だった。

 「はー?てめえ、何て言った。」

 「Fuxk yourself, Japanese. Fuxk you.」

 「こいつが。英語で喋ったら分からないと思うな!今変なこと言ったろ。ただで住むと思うなよ。」

 ジャフは日本人を悪く思った外人がつけたあだ名で、「草臥れ日本人」、に違い意味らしくてよくマーケットの住民が言われることがある。だとしても警察が来て仲裁する訳は尚更なかった。

 「ぶっ殺してやるわ!」

 店の人が内側から入って物騒な者どもを何人か連れてきた。

 川霧は未だに大丈夫だった。目が見えない人にしてはよく人波に流れてないまま前へ進んでいた。

 「日本人をなめた罰だ!」

 「Hey, Hey. Come down. Are you something crazy? Let's talk to us.」

 中から現れたものは茨で大きくなった右腕と左腕を持っていた男性二人だった。

 ウイルス。身体のどこかで成長してその一部がグレイ色に変わる。固くなる人もいれば、あのように動ける人もいる。しても大人の何倍に当たる力を持つからわざと茨を移植する人も現実には存在する。いくら悪くなると言っても、大人は子供とあまり変わらない選択肢を選んでしまうのだ。

 「Wa, wait! What's wrong with you. You want money, right?」

 「ジャフには金出せないとでも言っているのか?この生ぬるいなやつめ。おい、こいつら婆にでも連れて行け。」

 「OMG. Get off my face. Don't touch me! Hey, somebody help me. I will die.」

 「外人でも臓器は高く売れるぞ。首だけ絞めておけ。」

 普段なら外人は目立つからここまで入らない。姿で見ればただの観光客に違いないけど、マーケットの住民に関しては何も知らなかったようだ。

 どうでもいいことだ。

 「それは違うと思います。あの人、今困っております。」

 「は?」

 は?

 心の声が何気なく口に出た。

 それは川霧だった。川霧が店の人と外人の間に立って口をはさんだ。

 「この人は英語で金はあると言いました。だから悪い人ではないと思います。」

 「目も見えないお前が何を知っていると言うんだ。」

 「分かります!耳でちゃんとお聞きしましたから、当然です!」

 俺の目にはちゃんと映った。一つの空間に姿を現れた一人の娘が二人の間に挟んで空気が変わった。外人も物騒な腕をした巨体の人も、そして店の人も。慌てる様子で名も知らない少女に頼るあの場面を、俺は10歩離れたところで見守っていた。

 「First of all, you guys!」

 「Yes, madam.」

 「You know that JaF is ザ・ワースト・ワード。 Then you need to apology to them. They hate to JaF from foreign. Please be-careful language, OK? 」

 「O, OK. I'm so sorry. ゴメンナサイ。」

 何と言ったか分からないが外人が素直に謝って来た。しかも日本語で。途中で日本語っぽい言葉が聴こえた割には外国語を上手に喋れる川霧だった。ますます、あの人の背景が気になってきた。

 「次は店長の方です!」

 「わ、私が何をしたって言うんだ。いくらお姉さんが耳で聞いたとしても、今回の私は何も悪くしてないぞ。」

 見る限り店の人は何も悪いことはしてなかった。少なくても手だしする前までの話だけど。

 「言葉使いです。お客さんに、しかも外国の人に誤解を招くような話はしたら喧嘩になります。この人々は店長の売り物に興味があって買いたいと言ったのです。もっと優しくしないとお店潰れますよ?」

 反論の余地をくれない川霧の発言に落ち込む店長だった。

 気合が違う。と思った俺は何気なく微笑んでいた。久しぶりに変な人と出会ったと思った瞬間、目の前にいた川霧が消えていた。

 店の商売を手伝ってあげてからどこかでまたお世話をしているはずだろ。

 「よっ、じじ。」

 「何だ。誰だ、お前は。私は薄汚いガキにじじと呼ばれた覚えがないんだけど。」

 店長はさっきのことを全然忘れて俺にまた喧嘩を売ろうとした。

 「俺だよ、俺。直人カメロンだよ。」

 「ああ、お前か。最初からそう言えよ、直人カメロン。相変わらず何が本物なのか判りづらいぬ。」

 「だったら、やたらにカメロンと呼ばれる理由がないだろ。」

 「お前にそんな綽名コードネームを付けた水野さんも本当に分かりやすい人だ。花咲フローリアの能力が『カメレオン』に似ているからと言って『カメロン』にするか、普通。水野さんのネーミングセンス最悪だわ。」

 「同感。ところでじじ。いい加減客と争い繰り広げるのやめた方がいいよ。歳も歳だからさ、適当に相手の目線に合わせて――」

 「お前まで私にくどくどしい無駄口を言うか!これだから若者だちはダメだ。大人には大人に相応しい対応があるもんだから。」

 「ん?俺以外にもいるかよ、じじに無駄口する人が。」

 「正確には、いた。先ほどここに変な娘が訪ねて余計なお世話をしてくれた。目も見えないくせに、ああだこうだとぺらぺら喋りにあがって。」

 「嫌いではなかったそうだね。」

 「何を!あの娘さんがいなかったら儲けたことを、勝手に邪魔をしたぞ。ご迷惑をかけてどこか行っちゃったし!」

 「ついさっき来た人に八つ当たりするな。」

 川霧の話に中々落ち着かない店の人は俺にまで腹いせに喧嘩を売ろうとした。若い頃から誰かさんによく騙されたからだろうか。興味はない話に俺は早めに川霧の行方を聞くことにした。

 「で、そこまで気に入らなかったお嬢さんはどこに消え去った?」

 「知るもんか。興味ないわ。」

 「……そうか?」

 俺は右手を伸ばして店長の顔を掌で掴んで持ち上げた。手の内に握っているものは人の顔面より果物に近かった。

 「2回言わせるなよ。どこへ行った。」

 「言うもんか!おい、てめェら。何を仕上がる。さっさと倒せ。」

 「KYなじじだね。あいつらはじじと違って懸命に動いているよ?」

 店の内側から出た巨大な男性二人は何もしてないままじっと立っていた。

 「俺は化け物だ。言葉通り誰でも化けるからな。気を付けた方がいいよ、じじ。今の姿だってあいつらが知る人だったそうだけど、大丈夫?」

 「まさか、お前こいつらの持ち主をどうかしたのか?」

 「さー、どうかな。確実に言えることはこの場で俺に逆らえる者はじじ一人しかいらないことだ。どうする、やり合うなら俺は大歓迎だ。」

 「くっそがぎが!」

 辛そうな顔の後ろに負け犬の遠吠とおぼえが聞こえた。

 時間の無駄を感じた俺は後ろにいた奴らに話を聞いてみた。すると素直に手を上げて道の方向を教えてくれた。

 「ここで商売したいなら水野さんに許可を貰え。さもないと何時いつ何処どこだれに殺されるかを心配して、そわそわする毎日を過ごすだろ。今後もずっと俺と遭いたいならば、ね?」

 「ちくしょおおお――――!」

 「うるせェ。」

 適当に店長を店のテーブルに叩きこんで指さした方向へ歩いて行った。顔は普通の姿バージョンに戻しておいた。あまり注目されても身の安全にリスクがかかる。割に合わない仕事に手間をかけたから少しは急いだ。

 じじが狙ったことは川霧の臓器、もしくは体そのものである。目が見えない得点をよく活かせる方法はいくらでもあるからだ。下手にしたら本当に奴隷商人に道案内をさせた可能性もある。

 俺は焦ったばかりの動きで人波をって行った。

 「やべェよ、あれは。」

 どこかで聴き慣れた声が耳元に届いた。1時間ほど前に巣に帰ったと思った小太郎と夏目が一緒に立って何かを見ていた。夏目は願通りに会う約束をした男子にくっ付いていた。素っ気ないやつだ、と本気で思った。

 「小太郎、夏目。お前ら俺が先に帰ろって言ったろ。」

 「あっ、兄貴。ごめん。夏目が無理やりに連れて来たから、つい。」

 「はー、今でも帰ろ。巣の心配が先だ。」

 「……うん、分かった。帰ろ、夏目。」

 夏目は俺のことは無視してじっと周りの人と同じ場所を見守っていた。

 「夏目!」

 「ちょっと、あれ危ないと思わない?」

 「いや、それはそうだけど兄貴が早く帰ろって言うし――」

 「ねねねね、ナオにィ。あの人助けようよ。」

 夏目が心配げに見ていた人は俺をマーケットまで連れ来た川霧が三人の男性に囲まれて容赦なしで踏まれていた。まるで主人に捨てられた犬のように。

 「……。」

 「えっ、ナオにィ?」

 俺はまず真ん中にいる人の首を片手で打ち付けて隣の一人は膝で鼻を打撃した。残った人が慌てている間に素早く拳で喧嘩を始めた。相手に一番最適な人に化けて致命的なダメージを与える。周りの目は気にしなかった。

 三人組の中で俺が行動し、小太郎と夏目にもそれなりの役割がある。例えば、夏目は携帯から発生する電波を使って脳に直接メッセージを送れる。小太郎は独りしか見えない何かに頼ってものを動かせる。俺が人に目立った時は夏目が能力を使って人の脳に邪魔ジャミングを入れる。

 親切に説明してくれない人がいなくて俺らはこれを能力ハナと呼んでいる。茨から生まれた能力、ハナ。バベルはこれを知らないからわざと人々に隠していると水野が前に言ってた。

 「夏目、ハナを使え!」

 「承知しました。」

 俺が三人と戦っていると小太郎は川霧を空中に浮かべて安全な場所に運んだ。

 当然ながら、能力には限界リミットがあった。だから最初から夏目が動かなかった。夏目のリミットは俺だ。俺が命令を出してくれないとハナが咲かない。命令に従える対象が必要だからチームで動いている。

 「ポイントまで運べる?」 

 「うん、何とかする。それより夏目が――」

 「夏目!目を覚ませ。動くぞ」

 夏目が戻ったら人々との通信も切れる。だから自然に通路を確保してから命令をキャンセルした。これで一応安心できる。

 「兄貴、後ろに気を付けて!」

 目の内に川霧を気にしていたために小太郎に反応が遅かった。後ろに振り向く前に下の影が俺を飲み込んで違う空間に導いた。

 「おいおい、カメロン。勝手に仕事を放置して機嫌は悪いとでも言いたいか?どうした。」

 「いきなりマーケットでお呼びですかね、ドン・ファーザーさん。」

 ドン・ファーザーは水野の上司でありながら、俺らの所有権を持っている主人でもあった。要するに主従関係の上にいる人物だ。彼の影武者コーストが24時間俺らのことを見守っているから逃げることは大体不可能である。

 「用事があって仕事は水野さんに任せておきました。」

 「水野の報告から聞いた。よく中に侵入した君がいきなり逃げ出したと言ったが?説明が必要だぞ。」

 「えと、ですね。」

 連れ出された場所はマーケットから2キロ以上離れたドン・ファーザーのアジトだった。中には煉瓦れんがで作られた火鉢ひばちがおいてあって、目の前には赤いカーペットの上にデスクがあった。本棚には100冊を超える本が並んであるが、まさかドン・ファーザーが読むとは思わない。彼は今デスクの上に足を上げて煙草を吸っている。機嫌が随分悪そうだ。

 「君のせいじゃないぞ?依頼人にはカメロンの君が化けて死後にすれば私たちの仕事は終わりだ。だけど、だけどね。私は結果より過程を大事に思う人だ。君も知っている部分だろ?」

 「はい。さようです……。」

 まだ報告書の内容を考えてなかった。何と答えたらいいかを頭の中で組み合わせたみた。バベルの緊急事態?いや、水野さんもただで終わったことを堂々と言うには恥ずかしいところか通じない言い訳だ。

 「君の肺肝を砕く顔も中々面白いね。」

 「申し訳ございません。弁明を並びたててる時間はありますか?」

 「いやいや、必要ない。何故なら君があれほど暴れた理由はこの子がいたからだろ?この子は誰だ、いったい。」

 ドン・ファーザーが手持ちの携帯を俺に見せた。

 川霧を背負った小太郎だった。何か言い返せばならない状況で俺は一つの妙案をひねり出した。

 「あの子はバベルの内部関係者です!」

 これを聞いたドン・ファーザーの顔は世の中で一番嬉しそうな笑顔を浮かんでいた。そして、俺は、「終わった」、と心の底から何回も思った。

 ドン・ファーザーにはファミリーがある。歴史的有名だったマフィアに憧れたドン・ファーザーが人を集めて作ったグループだった。説明することも面倒くさいから簡単に言うと、俺がお世話している家ってことだ。

 ドン・ファーザーは茨の花咲を初めて発言した研究者だった。バベルから貰う給料が少ないと言って出ていた人が作ったファミリーにはあらゆる事情を持った人々が集まった。当然ながらも、俺もその中で一人だった。

 生ぬるい話はここまでにして、現在俺が置かれた状況に戻ろ。

 「名前は川霧穂高。妊婦でバベルを出る時助けてを貰った人でした。自分の脱出を手伝ってくれればバベルの情報を渡すって言いました。」

 適当に言ったつもりの話が妙につじつまが合った。ワクチンを持っている人がバベルの内部情報に関する情報を知らないとは言えないだろ、と考えた発想から始まったアイディアだった。

 ドン・ファーザーも俺の話に気を引き締めていた。

 「急にマーケットに向かった理由も尾行にすると話になるか。なるほど、そう言うことだったんだ。」

 「途中で出会ってから三〇分ほど一緒にいた限り、俺の情報と間違えたところはありませんでした。特に内部の状況に関しては――」

 「オッケー、ストップ。情報が多すぎて頭の中で浮かべあがる。少し黙れ。」

 深刻になったドン・ファーザーは隣にいたゴーストに声をかけた。

 ワクチンの話はしなかった。あれはここから脱出する時のために必要な資金だ。それにドン・ファーザーの手の内に落ちたら新しい薬を作ろうとするだろ。だから話は秘密にしておいた。

 ここまでの話にドン・ファーザーが信じてくれるかどうかは正直分からなかった。彼もバベルの研究員出身で、騙されやすい嘘には慣れているはずだった。関係者であること嘘はつかない。果たしてドン・ファーザーはどこまでを嘘と思い、どこから真実だと思ってくれるだろうか。

 俺は固唾をのんで経過を見届けた。

 「カメロン、ちょうどいいタイミングで、いい条件の娘を拾って来たな。君は最高だわ。」

 「そー、ですか。お役に立ったなら光栄です。」

 「いやいや、本当だよ。本当によくやった。今日から君をファミリーで次男にする。今夜の家族会議ファミリー・メインテーブルにも出ろ、勿論あの娘と一緒にね。」

 「え⁉本当ですか?」

 「そうとも。よし、気分だ。バイトも許す。他のファミリーには私が伝えておくから今からでもバイトを調べておいて。」

 「あ、ありがとうございます!」

 話がかみ合わないと思った割には特急昇進した。人間万事塞翁にんげんばんじさいおううまの格言がある。ドン・ファーザーがここまで配慮をする理由が見当たらなかった。

 「今夜の会議には早めに列して他の兄弟に挨拶でもしろ。皆喜んでご挨拶してくれるに間違いない。何なら水野と一緒に来ても宜しい。時間は――」

 「時間は後で僕から見送りします。ご心配なく待ってください。」

 ゴーストからドン・ファーザーの口を封じて先に答えた。時間まで内緒かよ。

 「下がってもいい。今夜の主人公はカメロンだ。」 

 「ハハハっ、ありがとうございます。」

 また影に飲み込まれるように身体が下に沈んだ。元通りに帰りながら、目の前でへらへら笑うドン・ファーザーを見て、俺は不器用に対応した。内心を探る俺の気持ちなんて知らないだろ、と思って先のことは後で悩むことにしておいた。

 

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庭のわらべ、ZERO キセ! @min92119

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