第23話 みんな色々と苦手な制御がある
肩にリュックを背負い、不景気な顔をした太助が森、薬草の群生地を目指して歩いていた。
頭にはティカを、一緒に歩くリンとは手を繋いで歩く。そのリンの頭の上にはタヌキが帽子のように乗ってる姿は楽チンと言いたげでウトウトしている。
太助とお出かけするのが大好きな2人はキャッキャと楽しそうにしているが後ろには女、3人寄れば姦しいという言葉を体現するように騒ぐ集団が後ろにいた。
エンティ、カリーナ、そして移動中に冒険者ギルドの仕事を終えて帰宅中に合流したテルルであった。残念ながら悪い意味で姦しい。
一緒に付いてくるのはともかく、3人が楽しそうに騒いでるだけであれば太助は関与出来ずとも『女の子同士、仲が良いね?』と思うだけであるが険悪な空気を放つ3人にゲンナリさせられる。
しかも険悪な理由がどうやら太助を中心にした話だから困った気持ちが突き抜けて不景気な顔になっていた。
これ、どう解決したらいいの? と思う太助が溜息を我慢する背後では、そろそろ何度目のループだろうと言いたくなる言い合いが続く。
テツに指導を受けろと言われてやってきたという事を知ったいきり立つカリーナがエンティに詰め寄り、噛みつくように文句を放つ。
「タスケは今、私の指導で割く時間しかないわ。魔力を扱った戦い方を教わりたいなら別にタスケ以外にもいるんでしょ?」
「仕方がないだろう? 私も師匠に言われて渋々……確かにコイツは腕が立つ。師匠に認められた男だからな」
「みゅうぅぅ! 仕方がないじゃないですぅ、マスターはお忙しいです。ユウイチ様の所にいって他の人を紹介して貰ったらいいのですぅ!」
嫌々という思いを言葉だけでなく表情にも隠さないエンティにテルルが小柄な体を精一杯に胸を張って「カリーナさんもマスターに構って貰い過ぎですぅ!」と言うが悲しいかな、まったく2人に歯牙にかけられていない。
3人の言い分を聞く太助はそれぞれに納得する部分というか仕方がないかな? という思いはある。
カリーナのコントロールは筋金入りのノーコンである。根本的に調整するポイントがずれている事が原因だと分かっているので基本の反復練習をして体に染み込ませる必要がある。
しかし、単調な作業で気持ちがブレやすくうえに自分の成長を実感し辛い。
だから、人は自分が成長しているかどうか、誰かに確認して貰いたい、認めて貰いたいという気持ちが付き纏う。
つまり、承認欲求である。
そう言う意味ではカリーナにとって太助は自分より上位者であり、認めて貰いたい存在である事を太助もまた幼い時に雄一にそういう思いを抱いた者として苦笑いを浮かべるしかない。
テルルは冒険者ギルドの依頼、パーティを組める、入れて貰えるアテもないので雑用依頼をする日々であるが、いつも太助の手助けをしてくれる良い子である。
太助が売るポーション以外の軟膏や毒消しや状態異常系を直す薬は大半がテルルの手によって作られていた。
種族的なものの適性があるのか、調合がとても上手なテルルであった。
ただ、元々からお手伝いをしてくれるテルルであるが、最近は時間があれば太助に張り付き手伝うようになり、カリーナが癇癪を起こして乗り込んでくると防波堤のようにする姿が良く見られる。
そんな2人を見て、『2人は相性が悪いのかな?』と本気で思っているあたり、雄一の孫であった。
「エンティ? 近場じゃないけどジッちゃんに頼めば火の精霊アグート様を紹介してくれるよ? あの人は魔剣製造をだいぶしたそうだし、武器に一時的に魔力を込める術など簡単だ、と言うと思う。それに君の属性は火でしょ?」
「どうして分かる? 一度も言ってないし、見せてもいない」
色々と悩ましいと考えていた太助がエンティに代案を伝えると自分の得意属性を言い当てられ、不信がられる。
太助は乾いた笑いを浮かべて答えらしい答えを返さない。
ここ数年、顔を合わせてないが厄介な一つ上のはとこが火の属性持ちで嫌という程、被害、もとい、目にして肌で体感させられたとは言えない太助は必死になかったことにしようとする。
「ジッちゃんに直接言い辛いなら俺から話を通してもいいよ?」
「なんですか? そんなに私に教えるのが嫌ですか?」
キリッとした眉を逆ハにするエンティは不機嫌そうに言ってくる。
ええっ! 俺に教わるのが嫌そうだったから代案出しただけなんだけど! と全力で叫べたら楽だろうな、と太助は嘆息する。
本当に女の子は何を考えているか、さっぱり分からないと項垂れる太助。
どうしたものやら、と悩んでいると薬草の群生地に着いたので、とりあえず採取を優先にするという逃避する事を選択した太助はティカとリンと一緒に薬草を集め出した。
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薬草採取の帰り道、こう着状態になった事でとりあえずエンティの実力をみようという話になったので家の前の拓けた場所でエンティと向き合うと殺気立って木刀を構える姿に頭を抱える。
「いや、今回は魔力を扱った戦い方を学びに来たんでしょ? まずは木刀を仕舞って……お願いだから仕舞ってね?」
嫌だ、と言いそうになったエンティの言葉を封じるように言って渋々、仕舞う。
やれやれ、と肩を竦める太助は後方で現場監督のように立つ少女達4人を見て呆れる。
ティカとリンは単純にその立ち位置が面白くて遊んでるだけだろうからいいが、テルルは明日の依頼に備えて準備をして欲しいと思うが見届ける気満々である。
そして、何より……
「カリーナ、君は他人の事を気にしてる暇はないよ。少しでも練習して」
「私には見届ける義務があるわ」
そう言い放つカリーナに太助は「ないよ?」とあっさり告げると「あるって言ったらあるの!」と地団太を踏むカリーナに深い溜息を洩らす。
疲れる太助にエンティが痺れを切らしたように話しかけてくる。
「それでは何をやれ、と?」
「ああ、ごめん。身体強化してみせてくれない?」
一度、謝って告げると、どうしてそんな簡単な事を? と言いたげに眉を顰めるのを見て太助が促すと被り振って肩を竦めると身体強化を発動させる。
それを見た太助が被り振る。
「違うよ。気を使った身体強化ではなく、魔力で使った身体強化だよ。君はここに何を学びに来たんだい?」
太助の言葉にグゥの音も出ないエンティは嫌々ではあるが素直に発動させる。
やはり気よりは使い慣れてないらしく、発動が目で見て分かるほど遅かった。
それを眺める太助がうんうんと頷きながらエンティに近寄る。
「全然、使い慣れてないね。でも一番、問題なのは……」
近寄った太助がエンティの頭でも撫でようとしてるのかという行動に出る。
その動きに一瞬、身を固くするエンティを無視して頭まで15cmといった距離で手を止める。
やってこない手を訝しげに見つめたエンティがそよ風が吹いたと思った瞬間、自分に纏わせていた魔力が霧散する。
「なっ!」
「やっぱりね、剣に魔力を纏わす以前に身体強化ですら使いこなせてない。君は肉体の制御はテツ師匠が認めるレベルでは出来てるけど、魔力制御は使えるようになったばかりの子供レベルだね」
太助の言葉に文句を付けたいが、先程感じたそよ風レベルの魔力で制御を手放したエンティは悔しそうに拳を握り締める。
「カリーナは肉体の制御が、エンティは魔力の制御が拙さが目立つね。しかも2人とも同じぐらいのレベル」
「タスケ、待ちなさい! 私はあれから練習して少しは成長してるわ!」
噛みつくカリーナであるが、最初にティカとリンに教育を受けたせいか少々拗ねているようで真剣に取り組んでいるとは言い辛い。
同じように不満そうにするエンティがブスッとして太助を見上げる。
「その言葉を撤回して頂きたい。その者よりはマシなはず」
「言葉だけで認めて欲しいなら、いくらでも言ってあげるよ? でも現実は変わらない。君達は制御というレベルにすら到達してない未熟者だよ」
悔しそうに黙り込む2人を見て太助はハラハラしながら見守る。
太助は雄一なら下手に慰めたりせずに問題と直面するように言うだろうと思うし、どことなく対抗し合ってる雰囲気があるカリーナとエンティを競わせるように意識しての言い回しをしてみた。
きっと、テツならこうするだろうとも確信に近い思いを信じて前を見つめる。
「分かったわよ、もう!」
「……必ず、認めさせてやる」
そう言う2人は一瞬だけ目を合わせてフンッと顔を背けるとお互い背を向けて反対側に向かって歩き去る。
上手くいったと頷く太助を残念そうに見つめるテルルにどうしてか、と問おうとするといつの間にか近寄っていた笑顔全開のロスワイゼが頬に片手を当てて首を傾げていた。
「あらあらまあまあ、タスケちゃんも制御に問題ありよぉ?」
「えっ!?」
戸惑う太助を構わずにロスワイゼは太助の耳を掴むと家に向かって歩き出す。
「イタタタ、ロス姉!? 耳が痛いんだけど!」
「当然でしょぉ? 痛くしてるんだから~さあ、タスケちゃんもお勉強の時間よ。女の子の扱いという制御のね?」
えええっ!? と叫ぶ太助の言葉に反応を見せないロスワイゼが楽しそうに笑みを浮かべて家へと連れていく。
その後ろ姿をティカとリンは合掌して見送る。
雄一の孫にしてテツの弟子の面目躍如の太助であった。
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