第24話 2人も3人? 3人も4人も変わ……るよ!!

 ロスワイゼの英才教育? を受けた次の日、太助は看板娘であるティカとリンのおかげでポーションなどを太助の10倍以上の売上の成果を叩きだした事で昼から時間が空いたので2人が地面にお絵描きするのに付き合っていた。


 午前中に飛ぶように売れた時の事を思い出し、瞳がウルッとさせたのはゴミが目に入っただけだと太助は言い張る。


「はっはは、タスケ君、君、客商売に向いてないね?」


 と楽しそうに笑うミラーの言葉に拳を握り締めた事実も太助は認めない。


 遠い目をしながら心ここに非ずといった太助が楽しそうにお絵描きする2人を眺めていると駆け寄ってくるカリーナに気付く。


「もう完璧よ! 見て!」


 弾む息を整えるのも惜しいとばかりに太助の返事も聞かずに近くにある木に狙いを付けて小石を投げる。


 そのフォームを見て太助は色々と溜め込んだモノと一緒に溜息を洩らす。


 案の定、狙いが外れて明後日の方向に飛ぶ。


「くぅ! さっきは本当に当たったんだからね? 本当だから!」

「駄目だね。肩に力が入り過ぎ。1、2回上手くいったとしてもそれじゃ意味がないよ。まずは当てる事より、無駄な力を抜く事とフォームを気にして」


 被り振る太助に言われたカリーナはプルプルと震えて頬を紅潮させ、睨みつけてくる。


 手にしていた最後の石を目を瞑って太助に投げつけたカリーナは見事に太助の額に当たる。


 だが、見てなかった事で気付いてないカリーナは踵を返すと捨て台詞を吐いて走り出す。


「本当に本当に出来たんだからぁ!」


 走り去るカリーナを見送りながら額を撫でる太助は納得できないという表情で疲れた声音で呟く。


「どうして俺を狙った時のフォームは出来てるの?」


 首を傾げる太助は、ハッとした表情を見せる。


 練習で狙っているモノを自分だと思って投げてるというオチではないかと頭に過った太助であるが自分の精神的衛生上を鑑みてなかった事にした。


 そんな太助をお絵描きする手を止めて見上げたリンが言ってくる。


「それにしてもデシ、カリーナ姉ちゃんも、エンティ姉ちゃんもタスケ兄ちゃんの所に一杯来るデシ?」

「あはは……そうだね」


 太助の乾いた笑いを聞いたリンが首を可愛らしく不思議そうに傾げるが「何でもないよ」と告げられ、ティカに呼ばれてお絵描きに戻る。


 そう、2人のお絵描きを眺め始めて1時間が過ぎたがカリーナとエンティは2回ずつ太助の下に成果を見せにやって来ている。

 その内、1回は同時に来て、先にどっちを見るかという喧嘩を始めた程である。


 2人は見た目から考えるとカリーナは良い所のお嬢様に見えるし、エンティも大和撫子然としたお嬢様に見える。


 タイプが違い過ぎるから喧嘩するのかな? と思う太助であるが2人が喧嘩する様を思い出し、2人の年齢を思い出すとストンと理解した気がした。


「カリーナが14歳でエンティが11歳……なるほど、張り合う姉妹な感じがするよね」


 うんうん、と納得する太助のズボンの裾を引っ張るティカに気付いて目を向けると先程、太助に成果披露しにきたカリーナに似た表情をして見上げてくる。


「描けたのだ! どうなのだ!」

「うーん、これは傑作だね……ハナマル!」

「やったデシ!」


 嬉しそうにする2人が抱き合い、寝ていたタヌキを掴まえると2人の体に挟むようにして宙ぶらりんにされる。


 目を白黒させるタヌキを見て微笑む太助は地面に書かれている絵を見る。


 ティカとリンが挟むようにタヌキと3人で歩く姿であった。


 ところどころ、特徴が描かれているので誰かは分かり、ただ……


「2人と1匹が肩を組んで歩いているのは……タヌキがでか過ぎだよな」


 とても仲が良さそうに肩を組み合っているがタヌキが二足歩行しており、ティカとリンと同じ身長になっているのを見て太助はクスリと笑う。


 まさに子供の自由さ、固定概念に囚われなさである。


 微笑ましげに3人? を見つめていた太助が「あっ!」と声を上げる。


「ハナマルで思い出したけど、女神試験、そろそろじゃない?」

「ん? それだったらテルルとお出かけして太助がいない内にあったのだ!」


 自分が知らぬ間に試験があった事に驚く太助に何故かドヤ顔するティカ、リンもうんうん、と頷いてみせる。


 頭をガリガリと掻く太助がティカを覗き込むようにして言う。


「教えてくれてもいいじゃないか?」

「うしし、ロスが結果が出るまで秘密にした方が面白いって言ってたのだ!」

「あっ、ティカ、言ったら駄目って言われてたデシ!」


 あわわっ、と慌てる2人を見つめて太助はヤレヤレと溜息を洩らす。


 ティカは女神幼稚園に入園する試験に107回、落ちている。本人は7回と言い張るが担当の女神から確認を取っているので真っ赤なウソである。


 これに受からないと『駄女神』という称号が女神免許書から削除されない。


 ちなみに公的な意味と認知されるという意味の2通りの『駄女神』が存在する。


 北川家には認知される『駄女神』の殿堂入りを果たした存在がおり、ドラゴンテイルにいる『駄女神』は只今、絶賛『二冠』中であった。


 眺めているとリンが「受かりそうデシ?」と聞いており、ティカは自信ありげにフッと笑い、「生まれてきて一番の左フックのキレだったのだ、間違いないのだ!」と胸を張る姿に太助は結果が分かった気がした。


「左フックが関係あるデシ?」

「こう……理論的に気合いなのだ!」


 左フックをして体勢を崩して尻モチを付くティカを見て笑うリン。


 肩を竦める太助がぼやくように言う。


「まあ、受かるかどうかはその内、分かる事か……」

「あら、グッドタイミングに来たようね?」


 突然、背後から生まれた気配に驚いて思わず後ろに振り向きながら後方に飛ぶ太助。


 その太助が見つめる先には「お久しぶり?」と本当に嬉しそうに見える笑みで可愛らしく手を振る女性がいた。

 栗色の髪を短めに刈り、一房だけ胸にかかるぐらいの長さの髪を弄る癖がある二十歳に前後のスタイル抜群の美女であった。


 少しビックリはしたが顔見知りであったのですぐに苦笑に変わる太助が挨拶をする。


「お久しぶりです。ティカを預かった以来ですね、ホルンさん」

「うふふ、ごめんね? もっと顔を出したいけど私も忙しくて」


 チャーミングにウィンクするホルン、女神幼稚園の幼稚園教諭であった。当然のようにホルンは女神である。


 ちなみにシホーヌの神友である。


 笑い合う2人の間に割り込むティカがドヤ顔をして紅葉のような掌をホルンに突き付ける。


「さあ、渡すのだ。アタチの栄光の一歩になる合格通知を!」

「あらあら、凄い自信ね?」


 クスクスと笑うホルンが肩にかけていた小さなカバンに手を突っ込むと葉書サイズの紙を取り出すと手渡す。


 鼻息荒いティカが見る通知書を太助とリンも覗き込む。



『ティカ・ブリューシルフィード

    8点     不合格』



 ニコニコと笑うホルン以外の3人の時が止まる。


 わなわなと震えるティカがゆっくりと両手を頭に添えて仰け反る。


「ノオォォォォ、なのだぁ!!」


 その叫び声と共に通算108回目の女神試験を落ちたのが確定した瞬間であった。



 それからしばらく時間が経ち、号泣するティカを慰めるリンを見つめているとホルンが太助を横から覗き込むようにして可愛らしく首を傾げる。


「えっとね、ティカに不合格通知を届けたのはついででね? 本題は別にあって……タスケ君にお願いがあるの、お姉さんのお願い聞いてくれるよね?」

「……まず、ティカを預ける時に約束した応援要員の話が先じゃないんですか?」


 半眼で見つめる太助がホルンを見つめると「もう、タスケ君のイケズ。覚えてるわよ」と二の腕を叩いてくる。


 実は1年前にティカを預かった時、ヤンチャなティカは初見の時から太助達の言う事を全然聞かない子だったので人手が足りないから面倒を見てくれる人を寄こすという条件で預かった経緯があった。

 しかし、1年経っても誰もこず、現在はティカが太助の言う事は特に素直に聞くようになって手がかからなくなりつつはあるが、常にドラゴンテイルは人手不足である。


「今回、そっちの件も準備してあるから。だから、話を聞いてね?」


 悪戯を咎められた子のように小さく舌を出してお願いポーズをしてくるホルンに文句が言えなくなる。

 ホルンが美人である事もあるが元々、太助は女性に強く当たれる性格はしてなく、あっさり身を引く。


 太助の様子を見て軽く感謝をするホルンに不安を駆られる太助の前に手を翳すホルン。


 ホルンが翳した場所から金に近い茶髪のフワフワの髪を肩で揃えて大きなリボンを付けたピンクのゴスロリ風の格好をした幼女が現れ、太助を見てビクつく。


 怖がられた事もあるがどこかで見た覚えがある展開に冷や汗が背中に流れる太助。


 辺りを怖々と見渡すピンクのゴスロリ風の格好する幼女は緑色の瞳で両手を祈るように握り締めて辺りを見渡す。


 ま、まさか……声音を震わせる太助にニッコリと何事もないように笑うホルンは答える。


「紹介するわね? この子はアコ。女神試験をティカ程ではないけど数回、そろそろ大台にのるの。戦いの女神の素養があるんだけど……性格に難があるみたいで・……」


 口をパクパクさせる太助を見て、何かを感じ取ったホルンの瞳が輝く。


 ティカとリンに手招きしながら呼ぶ。


 泣くのに飽きたらしいティカと一緒にリンがホルンの下にくるとアコの存在に気付く。


「今日から2人のお友達になるアコよ? よろしくしてあげてね」

「おう! アタチはティカなのだ。よし、子分にしてやるのだ!」

「やったデシ! お友達デシ!」


 状況についていけないアコの両手を2人が掴むと引っ張ってこの場から離れるのを復帰しきれてない太助が見送る。


 ふぅ、と額を拭う素振りを見せて、いい仕事をしたと言わんばかりの顔をするホルンに太助が詰め寄る。


「ひ、人手が足りてないって言いましたよね!?」

「わ、分かってるわよ? でも、あの楽しそうにしてる2人からアコを連れて帰れないでしょ?」


 ねっ、ねっ? と言って指差す方向に太助も顔を向けると楽しそうに騒ぐティカとリン、そして戸惑い気味であるが少し嬉しそうにするアコを見て項垂れる。


 その姿を見つめて笑みを浮かべるホルン。


 どちらが勝者か敗者か説明がいらないほど分かりやすい構図であった。


 さすがに少しは申し訳ないと思っているらしいホルンが落ち切ってる太助の肩を優しく叩く。


「勿論、タスケ君には申し訳ないと思ってるわよ? ほ、本当だからね? ああ、さっき言ったわよね? 応援の話?」

「そ、そうだ、応援に来てくれる人がいるんですよね?」


 光明を見た太助が表情を明るくしてホルンを見つめるとススッと目を逸らしながら頷く。

 すると背後に空間の歪みが生まれたと思ったらそこからピンク色のショートヘアの太助と同じぐらいの年頃のシホーヌ、ホルン達、女神の制服の布を巻いて作ったワンピースのような格好をする少女が姿を現す。


 美少女といって問題はないが、どことなく締まりがない表情で浮世離れした雰囲気がある。

 女性としても凹凸がはっきりした方でないらしく、ホルンは勿論、年下と思われるカリーナの方が女性らしい体つきをしている。


 嫌な予感が全開でする太助をどこかの誰かを連想させる空色の瞳を向ける。


 太助の様子などお構いなしにホルンが説明する。


「彼女が応援に寄こしたミンティア。れっきとした女神よ?……ハッ! ユウイチに私が来た事に感づかれた!!」


 慌てた様子で空を見つめたホルンが前にいる太助に両手を合わせて「後はよろしく!」と叫ぶと空中に飛び上がり、西の空へと飛んで行く。


 その反対側から水龍が凄い勢いで飛んでいき、「今度こそ逃がさん! 今日こそ一発しばく!!」という雄一の怒号が響き渡る。


 はぁ、と溜息を吐く太助は正面で動じてないのか分からないピンク色の髪の少女、ミンティアに話しかける。


「ミンティアさん、えっと、君が応援に来てくれた、で問題ないかな?」

「そ、私が派遣された。それとミンティアでいい」


 神秘的なのか、ボケーとした中身が幼い子なのかの判断に苦しむ太助は前者であることを強く祈る。


 恐る恐る太助は質問する。


「ミンティア? これから助けあっていく訳だけど、君の得意分野を聞いていいかな?」


 太助がそう言うと少し誇らしげに目を瞑って頷いてみせるのを見るところ、感情が希薄という事ではなさそうで太助の不安ゲージの上昇する。


「得意分野ですか? 3杯目のおかわりを遠慮せずに出せる強い意志」

「そこは自慢するところじゃないよ!?」


 太助は知る。


 ホルンに押し付けられたのはアコだけでなくミンティアもである事に……


 太助は東の空を見つめて叫ぶ。


「ジッちゃん、頑張って! どうか俺の分もよろしく!!」


 まさに魂の叫びが響き渡った。

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