第21話 カエルの孫はカエル
ホシテントウムシの一件を片付けた太助達は向かったメンバーの村の若者の代表以外の村人を残して夕陽で綺麗に彩られるダンガの冒険者ギルドへと戻った。
減った村人は、解決こそはしたがそれでも被害はそれなりにあり、代表以外が残り、早急に片付けは勿論、今後の相談がされる為であった。
若者は外の作業を中心にして、村長を中心に年配の者達がやられた作物の穴埋め、そして、次の収穫までどう乗り越えるか議論しているそうだ。
太助は村を出る時にそう伝えられた時、頑張って欲しい、と素直に思った。
テルルなどは何とか出来ませんか? と言いたげに太助を見上げていたが、そこは村の者達が解決すべき事であるし、テルルも口にしない時点で理解はしている。
分かっていても、心を痛めている様子のテルルを見て、太助を頼りにしてくれるテルルの為に思い付いた妙案を胸に冒険者ギルドの入口を潜る。
「お帰りなさい」
「はい、ただいまです」
受付でいつも変わらぬ笑っているのか無表情なのか判別が付き辛い感情の色が分かり難いエルフの受付、ミラーが太助達を見つめて出迎える。
出迎えたミラーが太助の後ろにいる村の若者の代表と魔女ギルドのミントリ―を始め、面々がバツ悪そうな表情をしているのを見て納得したように頷く。
ホシテントウムシの大半を追い払った後、太助が間に入る事でテルルに謝罪を済ませた彼等であったが、冒険者ギルドで無知を晒して騒いだ事が無くなった訳ではなく肩身が狭いような。
「やはり、想像通りな結果になったようですね……準備が無駄にならなかったのが良かったと言うべきか、悲しむべきかで悩みどころですね」
「確かに残念ではありますが、それほど長い時間お願いせずに済むかも知れません」
ミラーの言葉に太助が出てくる前の村人達の様子を伝えて、失態を反省し、村人同士の繋がりが強まったように感じた感想を伝える。
太助の言葉を聞いて少し目を優しく細めるミラーが満足そうに頷く。
「それは何よりです。村の復興に罰則で働かせる冒険者は良いですが、新米冒険者に支払うお金も積み重なると馬鹿になりませんからね?」
太助達が村の問題に解決に出ている間に被害、特に畑の被害が深刻になると判断したミラーが冒険者ギルドに罰された軽犯罪に分類される冒険者の強制労働としての人力と足りない頭数を新米冒険者に割高の報酬を用意して人数を集めていた。
危険がないうえに武器防具もままならない駆け出しの新米冒険者達が喜んで応募する人気の依頼だったりするのであっという間に定員が埋まっていた。
冒険者ギルドが新米冒険者にそんな大判振る舞いするのかというと……
ミラーが魔女ギルドの代表のミントリ―を見つめる。
「分かっていると思いますが、その費用は貴方のコミュニティが負担する事になりますが……」
「わ、分かってます。ちゃんと払いますわ。でも……結果を見てからでなく既に手配済みなのが気に入りません!」
そう、太助達が帰って来て報告を受けた後、解決出来なかった場合はそれを成す事が出来る冒険者や専門家に依頼、出来ていれば、後始末の今回のような人選がされる。
本来ならその手筈なのが帰ってくる前に既に後始末の人選がされていた。
普通の受付であれば、判断ミスを恐れる事もあり、後手に廻る手段を取る。しかし、今、目の前にいるのは冒険者ギルドの生き字引であるエルダ―エルフのミラーに恐れるものはないようだ。
ミラーに言わせればミントリ―達がした事を考えればどうなるかは分かり切っていた事であり、そこに太助が向かったとなれば……当然の帰結と言ってそうである。
ちなみにミントリ―が費用を払えないという事になれば冒険者ギルドに処罰され、強制労働を強いられる事になっていた。
ミントリ―の返事に満足そうに頷くミラーはテルルに視線を向ける。
別に責める意志など皆無なミラーの視線であったがビクつくテルルに苦笑して肩を優しく掴んで引き寄せる太助を涙目で見上げるテルルがウンウンと頷き、太助の服の裾を小さい手で掴む。
そんなテルルの様子を見たミラーがどこか、ふてぶてしいネコが不満そうにするような表情をする。
「どうしてそんなに怖がられているのでしょう? 責めるつもりも責められる覚えもテルルさんにはないから怯える必要はないはずですが……」
「えーと、滲み出るもの……ああ、意外とジッちゃんの呪いとかじゃないですか?」
「そんな心当たりは……」
テルルのように新米冒険者には優しいところがあるミラーが本当に悲しんでいる素振りを感じた太助が楽しそうに数少ないミラーの上手を取れるチャンスを活用する。
太助の言葉に反論しようとしたミラーが顎に指を添えて遠い目をして「ふむ」と頷くと何事もなかったように話を再開してきた。
「まあ、後はテルルさんにする慰謝料的な話になるのですが……」
「……何事もなかったように話す様子を見る限り、ジッちゃんに呪われるぐらいの自覚症状はあるんですね?」
太助の追撃が襲いかかるが今度は鉄の意志を発動したミラーの死んだ魚のような目の無表情をピクリともさせる事は出来ない。
やはり手強いと苦笑いする太助とミラーを交互に見つめるテルルが弱々しい声音で言ってくる。
「べ、別に私はそういうのは……」
「いえ、これは冒険者としてなかった事にするのはお互いの為にはなりません」
そう言われたテルルが、みゅうぅ……と情けない呻き声を洩らして、どうしたらいい? と言いたげな円らな瞳に見つめられた太助も困った顔をするが帰ってくる前にこうなるだろうと想定して考えがあったのでテルルに笑いかける。
「じゃ、ミントリ―さん達に問題になっている村の特産作りをさせるというのはどうでしょう? 魔女は俺達にない知識があると聞いてますがほとんどが秘匿とされてます。秘匿レベルの低いモノでも良いのでそれを放出させるのが罪ぼろしにならないでしょうか?」
「えっ!?」
太助の提案を聞いたミントリ―が驚きの声を出す。
ミントリ―だけでなく、魔女ギルドの面々も騒ぎだす。
「……ちょっと、それはさすがに先代、ううん、先祖の魔女達が同胞を守る為に受け継がれてきたモノを……」
「だからこそですよ。村の畑は先祖が今の村人達を守る為に受け継がれてきたモノ。それをフイにしそうになった代償として等価交換では?」
「念の為にお伝えしておきますが、あのままホシテントウムシを放置した場合、あの村で住めなくなる可能性もありましたよ?」
太助の言葉にミラーが補足してくる内容を聞いて、ミントリ―を始め、魔女ギルドの面々は初めて知って、そんな大事になる事を自分達がした事を気付かされ、俯く。
あのまま猛威を震わせたままにすると村の畑は勿論、植物という植物を駄目にしてホシテントウムシの寿命が尽きるまで居座る。
しかも放置して居なくなった後、その土地は数年は死んだ土になるが、それがどうしてかは未だに謎とされている。
俯くミントリ―の肩に優しく手を太助が置くとビクッとさせて見上げてくるミントリ―の瞳に笑いかける。
「昔、ダンガの職人達は自分の技術をひた隠しにしてたそうです。でもジッちゃんがそれを撤廃させた。すると、停滞気味だった技術の発展が飛躍の如く成長したそうです」
ポーション1つ見ても、回復が尖ったものは勿論、解毒効果があったり、飲むより患部に振りかけたほうが効果が高いモノも生まれた。
それ以外にも武器防具や生活の向上し、貧困やモンスターによる死亡率の低下に寄与した。
太助に説明されて驚いた表情をして新しい視点を知ったとばかりに瞳を輝かし、無意識に太助の手を両手で掴むミントリ―が幼く見え、自分より年上かと思っていたが実は年下だったのかと思っているといつの間に受付から出てきてたミラーに耳打ちされる。
「彼女はタスケ君より1個下の15歳ですよ? 才女らしく若くして代表になったね?」
「……ミラーさん、貴方は人の心を読める魔物か何かですか?」
責めるように目を細めてミラーを見るがまったく堪えた様子も見せずに口パクで「ひーどいんだ、ひどいんだ」と太助をからかう。
どうやら、テルルの時の仕返しのようだ。
感動して両手で太助の手を掴んでいた事に気付いたミントリ―が慌てて手を離して再び、俯くミントリ―。
「わ、分かりましたわ。私達の技術を披露するかはみんなと相談してからですが、特産作りは必ず成功させます」
「耳を傾けてくれて、有難う、ミントリ―さん」
「み、ミントリ―でいいですわ」
呼び方を訂正してくるミントリ―に戸惑い気味に「う、うん?」と答える太助は俯いたままのミントリ―の紫の髪の隙間から出ている耳が赤い事に首を傾げる。
背の低いテルルは俯くミントリ―を見上げて目を丸くして、すぐに不機嫌そうにすると太助の太股を抓る。
「い、痛いよ、テルル。なんで怒ってるんだい?」
「みゅうぅ……知らないです!」
プイッとそっぽ向くテルルを見て心底困った顔をする太助に呆れた顔をした若い村人の代表が肩を竦める。
「アンタの事、腕も頭も切れる奴だと思ってたけど……残念さんか?」
「えっ!? どういう事ですか?」
若い村人の代表の横にやってきたミラーが肩に手を置き、あたふたする太助を放置して話しかける。
「ええ、彼のお爺様と同じで残念さんです。退路を断たれても気付かずに相手側に呆れながら事実を伝えられて初めて愕然とするタイプの残念さんですよ」
「酷く残念だ……」
「だから、何が? 残念、残念って言うの止めて、酷く悲しい気持ちになるから!」
太助の心からの言葉を聞いたその場にいた面子から楽しげな笑い声が溢れた。
▼
太助とテルルは冒険者ギルドを後にして夕陽も沈んで星が輝き始めた空の下を歩いて家を目指して歩いていた。
あの後はとんとん拍子に話が進んで、村からはテルルに気持ち程度の依頼料上乗せを払う事と魔女ギルドは太助の提案通りに特産作りをするという事を契約書を書いた。
黙って歩いていたが思い出したように太助がテルルに話しかける。
「そういえば、駆除依頼を受けた時、村長達の言葉をよく実践しようとしたよね? ミントリ―のように魔法陣で駆除したほうが手っ取り早かっただろうに?」
そう、ホシテントウムシの生態を知らなければ、手っ取り早い手段は間違いなくミントリ―の取った方法で間違いはない。
テルルも同じ手法を使う事は出来たはずである。
モジモジと身をよじらせて照れた様子をみせるテルルが両手の人差し指をツンツンとさせて言ってくる。
「魔女の魔法は本来、力技に訴えるモノじゃないので……」
いきなり力押しでなく、対話出来るなら対話、知る事が出来る時間があるなら知る事から、と太助に説明する。
そんなテルルの頭を撫でる太助。
「偉いな、テルルは」
「えへへ……」
照れ笑いを見せるテルルと歩く帰り道の先に目的地であるドラゴンテイルコミュニティの本拠地である家が見える。
すると、玄関先に人が立っているのに気付きながら向かうとそこには太助達の帰りを待っていて苛立って仁王立ちするカリーナと面白そうに真似するティカとリンの姿があった。
据わったカリーナの目で見つめられた太助はビビって頬に冷や汗が流れる。
「もう、やっと帰ってきた。ちびっこ達の説明じゃまったく分からないの! 少し暗いけど、ちょっと付き合いなさいよ」
そう言って手を伸ばそうとするカリーナに立ち塞がるようにテルルが体を挟んでくる。
「マスターはこれからロスワイゼさんのご飯を一緒に食べるんです!」
「な、何よ……少しだけだから!」
お昼の時のように気の強いカリーナが胸を張るのを見て、年相応に育っている胸を見せられて情けない声で「みゅうぅぅ……」と俯きそうになるが顔を跳ね上げる。
下唇を噛み締めて箒の柄で地面に魔力が籠った文字を描き始める。
すぐに太助はテルルが何をしようとしてるか察して背後から拘束する。
「て、テルル!? 力押しじゃなくて、まずは対話じゃなかったの!?」
「放して下さい! 戦わないといけない時があるんです……女の子として!」
訳が分からない、と思っていると触発された様子のカリーナの瞳に赤みが差し、魔力を練り始めたのに気付いた太助がティカとリンに叫ぶ。
「ろ、ロス姉を呼んできて、大至急で!!」
「ラジャなのだ!」
「了解デシ!」
太助の指示を受けた2人がテケテケと走る後ろをタヌキが追走するのを見て、タヌキは逃げたと太助は気付かされる。
まったく要領の良いケダモノである。
太助に拘束されながらも魔法陣を描き続けるテルルと危険色を纏い始める魔力を練るカリーナを見て嘆息する。
「どうしてだろう……被害を被るのは俺だけな気がするのはきっと気のせいだと思いたい……」
どうやら太助の呟きを拾った神様が願いと勘違いしたらしく、ロスワイゼがやってくるまで一身に2人の攻撃に身を晒す太助であった。
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