第3話 事件起こりて

 太助達、太助、ティカ、リン、テルルはロスワイゼに「いってらっしゃい」と見送られて冒険者ギルドへとやってきた。


 テルルはライフワークになりつつある作物を荒らすカラスを追い払う5の依頼の雑用を受けると太助達と別れて仕事に出て行った。


 仕事に行ったテルルを見送った太助がいつものカウンター近くの拓けた場所で露店の準備をしながら2人に話しかける。


「外で遊んできていいんだよ?」

「ううん、今日もタスケ兄ちゃんのお手伝いをするデシ!」

「ふっふふ、今日こそ封印されたアタチの力が解放される時なのだ!」


 太助の甚平を引っ張るリンと左手首を握り締めて震わせ、何かを予感しているように驚いてみせるティカ。


 少し困った顔で頬を掻く太助の視界の端で微笑ましそうに太助を見つめるミラーに気付き、分かっていると伝わるように頷いて見せる。


「それじゃ、お願いしようかな?」

「うんうん、任せて欲しいデシ!」

「スーパー女神のアタチに任せて安心なのだ!」


 嬉しそうに頷き、ポーションなどの商品を並べ始める2人は「ここに置くと目立つデシ」「待つのだ、黄金比が問題なのだ!」などとお互いの意見をぶつけ合ってキャッキャと楽しそうにする。


 ミラーに頷き、太助も気付いている事、それは2人にとってこうして太助と一緒にいる事が既に遊んでいる事と同義であるという事実。


 太助を見つめていたミラーは視線で「お好きにさせてやりなさい」と言われたように感じ取り背を押された。


 見つめている太助に気付いた気合いの入った2人が一緒に陳列するように引っ張ってくるので苦笑しながらも一緒にし始めると冒険者達が集まって話している内容が耳に入ってくる。


「おい、聞いたかよ。また出たらしいぞ?」

「ああ、聞いた。血を抜かれてカラカラに乾いた死体だろ?」


 不穏な気配を感じた太助は目の前で楽しそうにする2人に悟られないように冒険者達の言葉に耳を傾ける。


「多分、アレがまたじゃねぇーか?」

「ああ……俺のオヤジの子供の頃には時折あったって話だが……ちぃ」

「俺が聞いた話じゃ、見たらしいぜ?」



 『吸血鬼』



 冒険者達の話を盗み聞きするようにしてた太助と思い浮かべた言葉と同じ言葉を冒険者達が口にする。


 想像していたモノを肯定されるようにされた太助は奥歯を噛み締め、拳を握り締める。


 すると、いつの間にカウンターから出てきたか分からなかったがミラーが握り締める太助の手にソッと触れる。


「感情に流されてはいけません。冷静になりなさい、行くのでしょ?」


 楽しそうにする2人に聞かれないように太助に耳打ちして話すミラーの言葉に消極的に頷く太助。


 ミラーの言葉で一呼吸で肩から力が少し抜けたのを確認したミラーは柔らかく目を細める。


「運が良いですね。なんと私は今から有休でしてね? 今日はティカちゃんとリンちゃんと遊びたい気分なのですよ」


 捨て続けている有休をたまには消化しないと嘯くミラーはせっせと準備に追われる2人に話しかける。


「お嬢さん達、急に休みになって暇を持て余す私とデートでもどうでしょう?」

「ごめんデシ! 今日はタスケ兄ちゃんのお手伝いをする日デシ」

「このスーパー女神を口説く気なら、もっと気合いを入れるのだ!」


 ペコリと頭を下げるリンとプイっとそっぽ向く2人だが、ミラーは極悪人にも称賛される笑みを浮かべる。


「そうそう、今日は喫茶『のーひっと』でクッキーフェアをしてましたね?」

「く、クッキー……じゅるる、なのだ……」

「ぼ、ボクは負けないデ、シ」


 必死に悪魔ミラーの誘惑に抗おうとするが子供にとって甘味の誘惑を断つのは至難の技である。


 目を泳がした2人が太助を見つめてくるので太助は笑みを返し頷く。


「行っておいで。僕もやらないといけない作業があったのを思い出したから今日は店じまいにするよ」


 ぱあぁ、と表情を明るくする2人の頭を撫でて「ミラーさんに御馳走になっておいで」と笑いかける。


 元気良く頷く2人がミラーに向いた瞬間、ミラーに感謝の想いを告げるように頭を下げる。


「それではカバンを取ってきますから、少し待っててください」


 そう言ったミラーが太助にすれ違うようにして通り抜ける間際に囁く。


「噴水広場にお行きなさい。人だかりがあるから分かるでしょう」


 ミラーの言葉に頷いた太助は中途半端に出した品物を片付け始める。


 行くと決めた2人はミラーを急かすようにカウンターにぶら下がっている姿を横目で見ながら太助は片付けを終えると冒険者ギルドから出て噴水広場を目指して歩き始めた。





 噴水広場に向かった太助はすぐにどこに向かうべきかすぐに分かった。噴水広場に繋がる一本の路地裏に人だかりがあった為であった。


 その場所に到着した太助は人だかりを掻き分けるようにして前に進む。


 掻き分ける人がいなくなった視線の先にはミイラのようになった少女が横たわっているのが目に入った。


 その少女を検分するようにする2人いる衛兵で年上の髭に白いモノが混じる初老の男が太助に話しかける。


「来ると思っておったぞ。説明……出来るほど分かっている事はないが……見れば一目瞭然じゃ」


 目を伏せるようにして太助に言った初老の男は若い衛兵に道を開けるように言う。


 開けて貰った場所に太助が向かい屈みこむ。


 太助は迷わず、少女の髪を掻き分けるようにして首に目を向け、顔を顰める。


「遂に太助の耳にも入ったようだな?」


 その言葉に慌てて振り返るとそこにはキセルを咥えて吹かす黒髪を縛るカンフー服の偉丈夫が立っていた。


「ジッちゃん……」

「コミュニティの管理が忙しいのはしょうがないが気を抜き過ぎだ」


 振り返った先にいたのは太助の祖父、雄一であった。


 祖父というのに若々しい姿をし、雄一を知らぬ者が見れば太助の兄弟と言われて疑う事はまずない程である。


 半神半霊になって人ではなくなってしまったせいであるがそれは割愛する。


 太助が掻きあげた髪の下にある首の二つの小さな刺し傷を指で撫でるようにする雄一。


「今回も吸血鬼で間違いなさそうだな……」

「ジッちゃん……今回で何人目の犠牲者なんだ?」


 雄一の言った「今回も」の響きが前が1つではなく複数であると感じ取った太助が問う。


 太助の問いに雄一は「5人だ」と感情を込めずに静かに言われて太助は拳を握る。


 握り締めて真っ白になる拳を見つめる雄一が何かを口にしようとした時、野次馬していた住人達が雄一に話しかける。


「ユウイチ様がいれば問題ない。どうか問題を解決してください!」


 そう1人が言うと周りが釣られるようにして騒ぎだす。そして雄一は黙って片手を上げてみせると歓声が響き渡る。


 雄一を称える住人達が雄一が動くなら安心とばかりにこの場から離れて行くのを感情が分からない視線で太助は見送る。


「ジッちゃん……」

「ああ、分かっている。俺は手を出さない。これでいいな?」


 頷く太助に強く口の端を上げる雄一が太助から離れるようにしていくのを見送る。


 その背を見送りながら太助は5年前に雄一に言った言葉を自分自身に宣誓するように声にする。


「亜人の問題は俺が解決してみせる……」


 呟いた太助はすぐに調べたい気持ちを殺して、まずはボケている自分に活を入れるべく師匠に会いに歩き出した。





 少し時間を遡った太助が向かった場所にはなかった路地裏では酷く疲れた様子を見せるが愛らしく将来、美人と言われる美しさを覗かせる色白な肌、そして栗色の長い髪をツインテールにする14歳程の少女が短いスカートから下着が見えそうで見えない蹴り方で男を蹴り飛ばす。


「いてぇ!! ただ、ナンパしようとしただけだろうが!」

「ナンパ? ロープ片手にするナンパって初めて聞いたわ」


 蹴り飛ばした時に手から離したロープを眺めながら男に肩から二の腕の半ばまでしか覆わないマントを揺らし近寄ると男は背を向けて逃げようとする。


 逃がさないとその背から肩を掴むと怒鳴るように口を開いた前歯に鋭い牙を覗かせる少女、急に咳き込んで男の肩から手を離してしまう。


「ひぃぃ!」


 情けない声を上げた男が逃げる背を悔しそうに見つめる少女は荒い息を吐きながら苦しむ。


「はぁはぁ、酷く……喉が……乾く」


 辛そうに右手で喉を掴むようにする少女は空いてる左手で短いスカートに付いているポケットから銅貨を取り出す。


 取り出した銅貨を掌で広げて、何度も数えても増えない銅貨を恨めしそうに見つめる。


「色々、積んでるわよね、私って……」


 乾いた笑い声を洩らして壁に少女は凭れかけた。

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