翡翠/戦闘
そう言ったメルの言葉に、その場の全員が唖然とする
魔族もクランメンバーも、心配するか怒るかのどちらかだと思っていたのだ
そうしたら、明らかにふざけた態度をとったのである。想定外にもほどがあるだろう
「まぁ、そもそも君たちが勝てるとは思ってなかったんだけどね
でも、いい経験値になったでしょ?」
「……え、も、もしかしてマスター、ぼくたちが魔族と戦うこと……」
メルの発言に、シェアトが愕然とした様子でそう言う
それを聞いたメルはこくりと頷く
「まぁ、エルナが魔族と話してるのも分かってたし、たぶん君たちを人質に取るだろうなとは思ってたよ
ただまぁ、いい経験値になるかと思って放っておいただけで。危なくなったら介入する気だったよ?ずっと見てたし」
「「「「「最初から助けろ!」」」」」
もはやみんな敬語を忘れてメルに文句を言う
それも当然で、自分たちは最初から勝てると思われていなかったのに無謀な勝負をさせられたのだ
誰だってイライラするだろう
「まぁ、いいじゃんか。これも経験だよ」
メルは、魔族から飛んでくる魔法を弾きながら余裕そうに言う
あっさりと弾かれた魔族は舌打ちしそうな勢いだが、メルからすれば知ったこっちゃない
「あのさぁ、今僕は仲間と話してるの!邪魔しないでくれる?」
「うるせえ!!」
メルの都合など気にする必要のない魔族は、エルナたちに使ったのと同じ魔法をメルに使う
だが、『夜霧』と呼ばれ恐れられたメルにそんな魔法が通用することは――
「あーれー」
「「メル!?」」
「「「「メルさん!?」」」」
「「マスター!?」」
あっさりと捕まったメルに、クランメンバーは驚愕の声を上げる
まさかメルがこんなにあっさり捕まるとは、だれが想像しただろうか
あまりにあっさりと捕まったせいで、魔族側も驚いてしまっている
「なるほど~、捕まるとこんな感じなんだね
魔力が阻害されて気持ち悪いなぁ」
メルがそんなことを言っている間にも、魔族がそれぞれの武器を持ってメルに襲い掛かる
この拘束魔法の特徴として、外部から魔法攻撃を受けると拘束が解けてしまうのだ
だからこそ魔族は物理的に潰そうとしている
「残念でした」
メルがそう呟くと、拘束魔法が黒色の魔力に飲み込まれていく
この拘束魔法は、別人の魔力同士は反発しあうという魔力の特徴を生かして相手が魔力を使えないようにするものだ
ならば、自らの魔力の質を変えて魔力が反発しないようにしてから、魔法を解除すればいい
とはいえ、それは理論上のものだ。実際にそれをするためにはどれほど精密な魔力操作が必要なのかは、魔法を使う者ならば誰だってわかる
だが、今の魔族が気にするべきはそんなことではない
あの『夜霧』が完全に自由になったのだ
だとすれば、物理的な攻撃は――
「物理は駄目だ!」
「もう遅い。」
――効かない
メルの体が一瞬で霧に変わり剣や斧、槍などの攻撃を透過する
四方からメルに襲い掛かっていた魔族は、その身体能力の高さを生かして同士討ちを回避するように行動した
だが、その隙を見逃すメルではない
「さすがの僕でも、魔王に近い魔族がこんないるのに余裕は見せられないんだよね」
腰から二振りの短剣を抜きながらそう呟いたメルは、短剣に魔力を流し込み、魔法を発動する
メルを起点として、短剣に刻み込まれた魔法式の効果で強化された風魔法が魔族を襲った
それに対し魔族はそれぞれが防御魔法で相殺しようとするが、黒い雷と鋭い風は関係ないとばかりに魔族を吹き飛ばし、切り裂く
「あー、やっぱり久しぶりの
砂埃を風魔法で吹き飛ばすメルはそう言うと、自分の放った魔法が誰も仕留められていないことを知って溜息を吐く
だが、魔族は体中擦り傷だらけになっており無事とは言えなかった
「くっ、よくも……」
魔族はメルを睨みつけながら、回復魔法で傷を癒す
「ああ、そうだ
逃がさないようにしなきゃ」
メルはそう呟くと左手の短剣を足元に投げて突き刺し、足でさらに押し込む
「よし、【発動】」
足元に刺した短剣を起点にして、高密度の魔力の壁が構築される
透明なそれはドーム状に広がり、メルと魔族を内側に、リギルたちを外側に分けた
短剣を起点とした結界魔法
起点という存在があるそれは普通の魔法で構築する壁よりも断然強度が高く、いくら魔族といえどもそれを破壊するのは現実的ではない
この魔法を壊す方法は、術者であるメルを殺すかメルの足元の起点を壊すか二つに一つ
「さぁ、全力で戦おうじゃないか」
足元の短剣を固い氷の中に閉じ込めて壊されないようにしながら、メルはにこやかにそう言った
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