VSワイバーン
メルが不機嫌になっているのとほぼ同時刻
魔物討伐の依頼を受けて山に入ったエルナ、アル、スハル、シェアトの四人は、十匹程狩り終えた後休憩をしていた
エルナが土魔法で創った椅子に腰かけながら、四人は体を休める
確かに、彼らは強い冒険者ではある。休憩など入れなくてもこれくらいの依頼ならば余裕なのだが、魔物で溢れるこの世界は何があるか分からない
何かあった場合に備えてしっかり休憩をすることが大切なのだ
「……なんで、このクランに来たの?」
その場にいた他の三人に向けて、エルナがそう尋ねる
「うーん……エルナがそんなこと聞いてくるなんて珍しいね?」
シェアトのそんな発言に、アルとスハルは大きく頷く
普段、質問どころか必要最低限しか会話をしないエルナが、急に質問をしてきたのだ
三人のこの反応も無理はないだろう
「気になっただけ。で、シェアトはなんで?」
「ぼくの両親は、ちょっと有名な商人だったんだけど、あるとき、騙されて殺されちゃったんだよ。それで一人残されたぼくは、冒険者になろうと思ってギルドに行ったんだけど、そのときにメルさんに誘われたんだ」
「どうして?どうして、誘われたの?」
いつもとは少し様子が違うエルナに違和感を感じる三人だったが、普段から色々とおかしいエルナの行動の延長線上だと自分を納得させる
「それがわかんないんだよね。ぼくはただ登録しようとしてただけなんだけど……」
「ふーん。じゃあ、アルとスハルは?」
「私たちは、とある農村の子供だったんです」
「オイラたちが五歳のときかな?その年はすごい凶作で、口減らしのために奴隷として売られちゃったんだよ。あ、勿論この国では犯罪だよ?でも、盗賊とそういう取引をしたみたい」
話の内容とは合わないほど軽い調子で話すアルは、「酷い話だよね~」とのんきに言った後、さらに言葉を続ける
「で、馬車でガタガタ運ばれてたんだけど、途中で大量の魔物に襲われたんだ」
「そこを助けてくれたのがマスターで、そのときにクランに入らないかと誘われたんです」
「そっか。ありがとう」
エルナはそう言うと、手元にある干し肉を水魔法と火魔法を組み合わせて柔らかく蒸し、それをもぐもぐと食べる
「エルナちゃんは、どうしてこのクランに入ったんですか?」
「……どうして、だと思う?」
「知らないから聞いているんですけど……」
質問に質問で返されたスハルは、苦笑いを浮かべる
まあ、スハル自身もしっかり答えをもらえるとは思っていなかったのだが
それ以上深く追求しない方がいいと思ったスハルだったが、意外にもエルナが口を開いた
「……メルは、ボクを助けてくれた。一人ぼっちで、寂しいところから、助けてくれた」
エルナはそう言うと、冒険の時はいつも持ってきているペンダントをギュッと握りしめる
「だから、ボクにとってはメルが一番大事。メルが居れば、メルに嫌われなければ、それで十分」
どこか自分に言い聞かせるようにも聞こえるエルナの言葉に、その場にいた三人は何も言えなくなる
何故だか、エルナの目には少しの迷いが見えたのだ
それは一瞬のことだったが、冒険者として活動している三人は見逃さなかった
「ま、まあ、つまりはみんなメルさんに救われたってことだな!」
重たい空気を払おうと、アルはそう元気に言う
即座にその意図を読み取ったスハルとシェアトは、目を合わせて頷くと、その流れに乗る
「確かにそうですね。私も、あのときメルさんが来てなかったら死んでましたし」
「ぼくも、メルさんが居なかったらゴブリンとかに殺されてたなぁ……」
「そう考えると、メルさんってすごいよな!」
「……ボクも、そう思う。メルのいいとこなら、何時間でも言える」
「そ、そんなにですか?」
エルナの発言に、三人は若干引く
確かに、メルはすごい
恐らくメル以外のメンバーが全員でかかっても倒せないし、強大な力を持っていても驕らない
『夜霧』と呼ばれ恐れられているし、
しかし、普段の生活からは何の威厳も強者のオーラも感じないし、ただの無職にしか見えない
「あ……」
エルナは不意にそう言うと、立ち上がって短剣を抜く
不思議に光るその短剣には、メルほどではないものの十分複雑な魔法式が刻まれており、それを刻んだエルナ本人の技量の高さが伺える
「……上」
エルナがそう言うと、そのほかのメンバーも立ち上がって戦闘の準備をする
斥候役のエルナがこういうときには、その方向に魔物がいるということだ
そして、今エルナが言ったのは『上』
すなわち、魔物が居るのは――
「空!」
エルナの声に反応したスハルは、空から降ってきた火球を防ぐように、魔法で氷の城を築く
これこそ、メル直伝の大魔法の一つにして、スハルの二つ名『氷の城』の由来ともなった魔法
氷の城は、大きな火球を受けても壊れることはなく、堂々とそこにある
「ワイバーン。弱点は翼の付け根。竜種だけど、下級だから問題なし」
エルナはそう言うと、ワイバーンに向けて手を翳す
すると、ワイバーンの体を黒い鎖が拘束する
闇と土の混合魔法。闇属性や光属性を魔法に混ぜると、魔法の威力が上がると言われている
「GYAAAAAAAA!!」
ワイバーンは咆哮を上げると、その口から炎を吐き出し、鎖から抜け出そうと暴れまわる
「っ!!強いっ!」
エルナは焦った声を出すと、もう一つ黒い鎖を生み出し、さらにワイバーンを縛る
ぎしぎしと音を立てる鎖は、暴れまわるワイバーンをしっかりと抑えてはいるが、今にも切れてしまいそうだ
「そのまま拘束!」
そう叫びながら、翼が生えた状態のシェアトは飛翔し、ワイバーンの目を狙って鋭い突きを放つ
しかし、すっと顔を逸らしたワイバーンの目には当たらず、鱗に少し深い傷を残すだけだ
「弾かれたっ!?」
「オイラが」
氷の城を踏み台にして大きく跳躍したアルは、剣にありったけの魔力を流してワイバーンを鱗ごと斬ろうとする
しかし、それをワイバーンが黙って見ている筈もない
ワイバーンがアルに向かって素早く炎を吐き出したので、アルは炎への対処を余儀なくされる
剣を振るい、炎を完全に断ち切るが、そのせいで勢いが完全になくなってしまう
アルは軽い身のこなしで氷の城の上に着地すると、鋭くワイバーンを睨みつける
「【蒼き水よ 明るき雷よ 槍となり敵を討て】」
「【鮮明な光 雷鳴の息吹 導かれろ】」
スハルとエルナはほぼ同時に詠唱を終えると、一斉に魔法を放つ
本来詠唱が無くても余裕で魔法が使える二人が詠唱をして魔法を放てば、その威力は普通よりかなり高い
スハルから放たれた無数の水の槍と雷の槍は、お互いに共鳴しあいながらワイバーンへ向かう
それがワイバーンに当たるのと同時に、エルナの魔法によって生み出された、光に強化された雷が上空から降り注ぐ
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