VSワイバーン2
「やったか!?」
シェアトはそう言い、槍の構えを解こうとする
しかし、「GYAAAAAA!!」というワイバーンの叫びが聞こえたので、慌てて槍を構えなおす
「今のでもダメなんですか!?」
「シェアトのせい」
「何で!?」
エルナの呟きに、シェアトは思わず大声を上げてしまう
「前にメルが、『やったか』とか言うのは『ふらぐ』だって言ってた」
「『ふらぐ』って何!!?」
「お約束?的なもの」
エルナとシェアトは戦闘中とは思えないほど呑気に会話をするが、それには理由がある
まだエルナの雷魔法が降り注いだままで近づけないからだ
「二人とも、真剣に」
アルはいつもより真面目な表情でそう言うと、魔力で全身を強化する『身体強化』を全力にする
まったく無駄のない魔力の使い方は、簡単に身につくものではない
彼の才能と、努力の賜物である
「エルナ、前にメルさんがドラゴンを倒した時は、どんな感じだった?どう倒してた?」
「……ブレスを凍らせて、風魔法でズバッ」
「そっか。スハルが氷で、エルナが風を担当したら、どれくらいで同じことが出来そう?」
「鎖を維持しながらならニ十分。完全に集中すれば数分」
「私は、氷の城を発動しながらだとできないです。ただ、解除するとブレスが……」
「了解。だったら、オイラが防御するからシェアトはワイバーンの注意を逸らして」
アルがそう言い終えるのと同時に、雷魔法が解除され、ワイバーンの姿が見えるようになる
硬い鱗は半数ほどが剥がれ落ちて、所々に黒い焦げのようなものがついていたが、まだその目からは闘志は消えておらず、むしろ増しているようにも見えた
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
今までで一番大きな方向を上げたワイバーンは、今の魔法を放ったエルナとスハルをその鋭い眼光で睨みつけ、炎を放つ
しかし、その炎は氷の城に阻まれる
「アル、シェアト、暫くお願いします!」
「お願い」
スハルとエルナはそう言うと、氷の城と黒い鎖の魔法を解除する
それによって自由になったワイバーンは、翼を数回はばたかせた後、エルナとスハルへ体当たりしようと、突っ込んでいく
「やらせると思っているのか?」
アルはそう呟くと、剣だけを持ってワイバーンの進路に立ちふさがる
ワイバーンはそれを見ても構わず突っ込もうとするが、それは叶わない
アルは剣を使って、ワイバーンの顎に柔らかく触れると、ワイバーンの頭を上に向ける
それによってワイバーンの進路は強制的に上に変更させられる
一歩も動かず、相手の攻撃を流す
これこそ、アルの異名『不動流し』の由来である
「GAAAAAAA!!」
「『炎心』」
シェアトはそう声を出しながら、ワイバーンに突きを繰り出す
その体に赤いオーラを纏い突き進む様子は、並みの冒険者ならば捉えることはできないだろう
その代償に結構な量の魔力を使うのだが、ここが使うところだと判断した
その一撃はワイバーンの鱗のない皮膚に当たり、突き刺さる
この速度こそ、彼の異名『神速の槍』の由来
「GAAAAAAAAAAA!!」
シェアトは槍を素早く引き抜くと、ワイバーンから距離を取る
彼の目的はあくまでも注意を逸らすことであり、ワイバーンを倒すことではない
それをわかっているからこそ、ワイバーンから距離を取る
ワイバーンは、シェアトを睨みつけるように見るが、魔法を使う二人のほうが危険だと判断したのか、エルナとスハルに向けて炎を吐く
「アル!!」
「問題ない、よっ」
アルはそう言うと、剣を横に払うように振る
すると、アルの剣から魔力の刃が飛び、ワイバーンの放った炎を打ち消す
アルは、体質的に魔力を属性に変えることが苦手で、エルナやスハルが使うような魔法をほぼ使えない
だが、魔力そのものを操る能力は決して低くなく、むしろ高い
その為、魔力をうまく使えばこんな芸当も出来るのだ
「ふっ!」
ブレスを放ったワイバーンの隙を見逃すほど、シェアトは甘くない
雷を纏わせた槍で、弾丸のように突き進む
それを、ワイバーンは本能的に予測していたため、その槍を爪で迎撃する
しかし、真っ向勝負で撃ち負けるようならば、二つ名持ちの冒険者になれない
ワイバーンの爪を見事に弾き飛ばすと、左手に作った雷の槍で、ワイバーンの鱗の隙間を刺す
「GAAAAAAAAA!!」
それに怒ったワイバーンは、四方八方にブレスを放つ
しかし、それは構えていたアルにも、ワイバーンのそばから離脱していたシェアトにも届かない
一瞬にしてすべての炎が凍り、場は冷気に包まれる
そして、そのすべてを砕き、ただ一点、ワイバーンの頭だけを狙って風と光の刃が放たれる
それによってワイバーンは瞬きをする間もなく頭を半分にされて、絶命する
「つ、疲れましたぁ……」
「ふはっ」
へなへなと座り込みながらそう言うスハルと、気の抜けたような声を漏らすエルナ
二人は、軽くハイタッチをすると、その場に寝転ぶ
「もう無理です……」
「つ、疲れた……」
それはそうだろう
メルに匹敵するであろう大魔法を放ったのだ
しっかり発動しただけで、十分凄い事である
「お疲れ様~」
「大丈夫?」
そんな二人に駆け寄るアルと、すとんと着陸して翼をしまうシェアト
「よし、休憩しよっか。オイラも疲れたしね~」
「そ、そうですね……」
「賛成」
「そうしよっか」
四人はそう言うと、辺りの警戒はしながらも、十分な休息をとる
この後でワイバーンの素材の回収があるのだが、そんなことを気にする余裕はなかった
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