メルと思い出の食べ物
人がそこそこ多い街の中
メル、アル、スハルの三人が、大きな買い物袋を持っててくてくと歩いていた
その理由はとても簡単で、ただのおつかいである
今日は市場で大安売りがあり、これを機にメンバーの数日分の食料を買い込むために、暇そうだったメルと丁度その日が休みだったメンバーが駆り出されたのだ
尚、アトリア、シェアト、エルナは別の場所で買い物をしている
メルと別のグループになると決まった時に、、エルナがごねたのは言うまでもないだろう。まあ、そんなエルナも結局はアトリアの「エルナさんお願いします。メルさんと一緒だと視線がすごいので回避したいんです」という言葉で納得したのだが
中性的な顔立ちの美少年であるメルと一緒に出歩くと、とても目立つのだ
「ねえ、あと何か買うものあった?」
「えっと……他にはないですね」
「そっか。じゃあ、帰ろっか」
メルはこの中で一番しっかり者のスハルに確認を取ると、クランハウスに帰るために方向転換をする
しかし、その瞬間、たまたま、偶然、
「アル、荷物お願い」
「え?あ、はい」
アルは、メルに押し付けられた荷物を反射的に受け取ると、よくわけもわからないままそんな返事をしてしまう
このとき、メルが荷物を渡す相手としてアルを選んだのは、単純に筋力的な問題である
メルはいつもでは考えられないような機敏な動きをして、とある店へ向かう
そこは、あまりメルが行かなそうな場所……外国から輸入された物を専門に売る店だった
メルは、その店の前に置いてあった大きな壺を覗き込むと、その中身を確認して、目を輝かせる
丁度そのタイミングで、二人分の荷物を持ったアルと、アルに比べれば身軽そうなスハルがメルに追いついた
「マスター?どうしたんですか?」
「あ、勝手に移動してごめん。ただ、僕の興味ある調味料があったから」
「「調味料?」」
あまり食に興味がなさそうなメルからは予想もできない単語が出てきたことに、アルとスハルは首を傾げる
「調味料ってことは、その中に入っているのが調味料?」
「そう!よく気が付いたね!アル!」
「……あのー、こんな黒いのが、本当に調味料なんですか?なんか、独特なにおいもしますけど……」
壺の中身を見たスハルが、少し顔をしかめながら言った
しかし、メルは何故か高いテンションのまま、
「これは、醤油……じゃなかった。これは、ソーソースって名前なんだ。僕の父さんが好きで、よくどこからか仕入れて料理に使ってたんだよね~。魚とかに合うし、塩分もあるから、けっこう旅に役立つんだよ。殺菌作用もあるしね」
「えっと……そもそも、ソーソースって何ですか?」
「さぁ?なんか、豆から作るって聞いたんだけど、その産地も分かんないから今まで入手できなかったんだよね。ずっと探してたんだけど……」
メルはそう言うと、「すいませーん」とその店の店主を呼ぶ
「いらっしゃい」と言いながら出てきた五十代くらいの男性に、メルはこの壺ごと全部欲しいと告げる
始めは「全部はちょっと……」と渋っていたが、メルが十分すぎる金額を払うと分かると、見事な手の平返しを見せた
「これって、どこの調味料なんですか?」
「これは、東の方の……確か、オチバって国のだね。何なら、定期的に仕入れるから、取りに来るかい?」
「ありがとうございます!!」
十代らしいキラキラとした顔を浮かべたメルは、そう言って店主の手を取ると、何度も上下に振る
メルがこれほどテンション高いのを始めてみたアルとスハルは、目を丸くしてそれを見ていた
((ソーソースって何!!?))
アルとスハルの心の疑問が重なっているのだが、テンションの高いメルがそれに気が付く訳もない
「さあ!帰ろう!今日の夕飯は僕が作るから!」
「「ええ!!?」」
珍しくそんなことを言うメルに、二人は思わず驚きの声を漏らす
当然だ。普段は寝ていることが多いのだから
しかし、ここで以前メルの料理を食べたことのあるスハルは気が付いた
きっと、とても美味しい料理が出てくるのだろうと
「何を作るんですか?」
「うーん、できてからのお楽しみで」
メルはそう言うと、上機嫌のまま悪戯っぽく笑った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます