貴族のパーティーは嫌だ
「断固として反対します」
「駄目だ」
「駄目です」
「……ダメ」
メルの発言を、リギル、スハル、エルナの三人が順番に駄目だと言う
それを聞いたメルは逃げようとするが、三人がかりで抑え込まれてしまう
「離せ!僕は堅苦しいのは嫌なんだ!!」
「気持ちは分かるが、それは駄目だ」
「何でさ!」
「メルさんが、『名誉国家認定魔法師』なんて称号を持っているからです!」
「欲しくて手に入れたわけじゃない!」
「……わがまま、ダメ」
リギルとスハルどころか、エルナにまで否定されて少し泣きそうになったメルだったが、抵抗を止めない
「貴族ばかりのパーティーとか行きたくない!貴族うざい!堅苦しい服嫌い!」
「だからわがまま言うな!今俺らがこうして暮らせてるのはその称号が国から守っているからだってこと忘れるな!」
「それは全部王様のおかげであって貴族のおかげではない!!」
全力で逃げようとするメルは、そう叫ぶと体をすべて霧状にして拘束から抜け出す
「くそっ!『夜霧』使いやがった!」
リギルはそう叫ぶと、触ろうとした部分が霧のように変質するメルの体を見て舌打ちをした
メルは「どう?さわれるもんならさわってみろよ」みたいな顔をしてリギルを見る
その態度にイラついたリギルだったが、仕方ないと諦めるしかないかと思われた。が……
「メル?」
エルナの不安そうな声が、全てを変えた
「え?」
「メルは、ボク達と一緒、嫌?」
「へ?そ、そんなわけないじゃん。急にどうしたの?」
「だって、メルが行かないと、色々ダメなんでしょ?そうなったら、このまま暮らせるの?」
「うっ……」
「メルは、ボク達が嫌い?」
「そんなわけないですすいませんでした以後気をつけます」
エルナの泣きそうな声に、メルは思わず『夜霧』を解除すると、その場で土下座をしながら一息でそう言い切った
やはり、メルはエルナに対しては甘い
「おい、ここは成人した貴族しか参加できないんだぞ?」
そんなことを言う偉そうな
今のメルの心情を表すのであれば、「最悪だ」という感じである
「すいません。僕は確かに貴族ではありませんが、ここに招待されて来ました」
「はっ。女連れで何を言うか。でもまあ、その女を一晩俺に貸すなら見逃してやってもいいぜ?」
そんなことを言いながら不快な笑みを浮かべる
確かに、今メルが連れているエルナは超美少女である
しかし、貴族としてこのような行動は普通許されることではない
だが、目の前の男は貴族になりたての男。まだ
そもそも、メルのお目付け役としてエルナを連れてきたのが間違いだったと今になって後悔するのだが、もはや後の祭りである
「すいません。その要求には応えられません。彼女は、僕らにとって必要不可欠な存在ですので」
メルはそう言うと、エルナの手を引いてその場を去ろうとする
しかし、途中で呼び止められる
メルは面倒そうに振り返ると、短く「要件は?」とだけ尋ねる
「俺を誰だか分かって言っているのか!!」
その声はパーティー会場全体に響き渡り、全員の注目を浴びた
しかし、どういう訳か激昂している
「さぁ?存じ上げませんね。そもそも名乗っていただいてないですし」
「っ!!俺は公爵家次男アベリーツ・フォン・グロックスハムだ!!」
「ああ、公爵家次男でしたか。確か、横暴な豚と有名な」
メルがそう言うと、会場の所々からくすくすと笑いが漏れる
それにさらに激昂した
しかし、メルからすれば彼はただの
「お前!!不敬罪で罰してやる!!おい!そこに膝をつけ!今すぐ首を刎ねてやる!!」
「……それは、誰に向かって言っているのかな?もしかしてこの僕に向かって言っているのかい?」
メルはそう挑発するように言うと、胸元から一本の短剣を取り出す
そこには竜の模様が刻まれており、明らかに装飾用だった
しかし、それを見た
「僕は、名誉国家認定魔法師メル・フォルクス・メノウ。立場で言えば公爵家
それは、「返答次第では今すぐ不敬として王に報告するぞ?」という脅迫である
真っ青な顔のまま口をパクパクさせている
今まで、自分より上の人間など、王以外に出会ったことが無かったのだ
「まあいいや。流石にエルナを一晩貸せは苛立ったし、貴族の名誉に関わることだからね。これに関しては、しっかりと王に報告を……」
「必要ない」
会場に、よく通る若い人の声が聞こえてくる
全員がその方向を向き、それに気が付いた貴族は全員が跪く
綺麗に割れた人の中心を通ってくるのは、高級そうな服に身を包んだ少年
この国の第一王子である
「お久しぶりです。ベテル王子」
「ああ、久しぶり。メルさん」
二人はそんな会話を交わすと、さらに顔を青くして口をパクパクしている
「……こいつの父親は、まともな人間なんだがな」
「人の性格は、親からだけでは決まりません。環境が影響します
恐らく、彼の周りの人間は
優しいのと甘やかすのは違う
それは、当然のことながら、線引きが難しい事でもある
「メルさんは、毎回飽きないな。参加するたびに絡まれるんだろう?」
「はい、そうですね。ただ、僕が『名誉国家認定魔法師』だってことを知っていながらも教えずににやにやしている貴族の方々のせいもありますけどね」
「それぐらいの娯楽は許してやれ。うちの国の貴族の大半は、他の国に比べて贅沢ができないわりに働かされると有名なんだ」
「勤勉なのはいいことです」
「だからメルさんはこの国にいるんでしょう?」
王子はそう言うと、メルの顔をちらりと見る
メルは、少しだけ笑って返すと、「どうでしょうね?」と言った
こうして、メルの行きたくなかった貴族のパーティーは進んでいく
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