アトリアの一日




赤髪の少女、アトリアの朝は早い

朝五時に起床すると、顔を洗って寝巻からいつも家事をするときに着ている服に着替える

その後、昨日の洗濯物を洗濯機(メルが創った魔法道具。洗濯物と石鹸を入れてボタンを押すと洗ってくれる)に入れてボタンを押す

洗濯が終わるまでの間に、今日依頼があるメンバーへ弁当と今日の朝食を作る

このあたりで、大体の・・・メンバーが起きてくる


「おはようございます!」

「……ああ、おはよう」


そんな感じで起きてきた人たちに挨拶していくアトリア

大体のメンバーが集まったところで、アトリアが朝食を出すと、それはみるみる無くなっていく。冒険者は、大体の人が食べれるときに食べるのだ

アトリアは減っていく朝食に表情を綻ばせながら、アトリア自身も朝食を食べていく


「ごちそうさま!」

「ご馳走様。今日も美味かった」

「ありがとうございます!」


その場にいた全員が、そんな言葉をアトリアにかけながら席を立って準備をしに行く

アトリアはそれをニコニコと見送った後、三階へと上がる


――コンコン


ノックをしても、返事はない

しかし、これもいつものことなので彼女は気にせず中に入る

すると、そこは綺麗に整頓された部屋があった

そして、その部屋の中でもぞもぞと動く人が一人


「起きてください!!」


アトリアは声を張り上げてそう言うと、メルの体を思いっきり揺する


「え~、まだ寝ていたい……」

「どうせハンモックで寝てるんですからここで寝る必要ないでしょう!今日はシーツを洗いますから起きてください!」

「……そういうことなら、まぁ……」


メルは今日の夜味わえるであろう「清潔なシーツ」には抗えなかったのか、そう言うとゆっくりと上体を起こす

アトリアはそれを見て溜息を吐くと、「ちゃんとしてくださいね」と言ってメルの部屋を後にする

階段を降りると、ちょうど準備が大体終わったメンバーたちと遭遇したので、キッチンから弁当を持ってきて渡す

この時には、既に洗濯機は仕事を終えており、少し湿った洗濯物が洗濯機の中に入っていた

アトリアはそれを籠に入れて外に出すと、吊るしてある紐に次々と干していく


「手伝うよ」

「ありがとうございます」


すると、眠そうな目をしたメルが彼女の隣に立って同じような作業を始めた

アトリアと同じスピードで干していくメルがいれば、十人分の洗濯物といえども割とすぐ終わる

メルは「じゃあ、シーツお願い」というと、そのまま庭の木に作ってあるハンモックに横になる

アトリアは手伝ってくれたメルの要望に応えるべく、全員の部屋のベッドのシーツを回収し、洗濯機に入れて起動させる

そうして、丁寧にリビングの掃除をした後、洗い終わったシーツを干す

その時、気持ちのよさそうなメルの寝息が聞こえてきて、アトリアの眠気を誘ったのだが、まだ仕事が終わっていないので我慢した


「さ、がんばろっ」


アトリアはそう呟いて気合を入れると、メンバーの私室以外の場所を隅から隅まで掃除する

三時間ほどかけて掃除を終わらせると、ちょうど昼食の時間になったので、一人分・・・の昼食を作る

今日はメルが朝食を食べていたので、恐らく昼食は無理だろうという判断からだ

まあ、アトリアも体重計と戦う女の子なので、あまり多くは作らないのだが


「ご馳走様でした!」


これは、メルから教わった食後の挨拶であり、アトリアはここに来てから初めて知った

ちなみに「いただきます」もそうであり、アトリアはそれをする理由を聞いた時に「なるほど」と納得したものだった

アトリアは胸元にネックレスをつけると、買い出しの為に外へ赴く

このネックレスはメルが創った魔法道具であり、装備した者に危害が加わりそうになると、自動で防御するものだ

ちなみに、この魔法道具は装備者の魔力を自動で吸い取って発動するので、不意打ちにも対応している。しかも、防御力は上級魔法を喰らってもびくともしない程

明らかにやり過ぎ感漂うネックレスなのだが、メルのせいで感覚が狂ってしまったアトリアからすれば大したことはない


「いらっしゃい!アトリアちゃん、今日もいい肉入ってるよ!」

「おお、ちょうどいいところに!新鮮な野菜が取れたって農家が……」

「アトリアさん!うちの魚もどうですか!?」


美少女のアトリアは、既に商店街のアイドル的な存在となっており、このように様々な店の人から話しかけられる

たまに気性が荒い者に絡まれることもあるのだが、商店街の人たちが束になってアトリアを守ろうとするので、誰も彼女に危害を加えられない

……まあ、あのネックレスがあれば絡まれても何の問題もないのだが


(よし、たくさん買ったから、これくらいかな?)


アトリアはパンパンになった買い物袋を持って、クランハウスに帰る

本当はもっとたくさん買って買いだめをしたいのだが、アトリア一人では無理なので諦めている

アトリアはクランハウスに入るとキッチンにある冷蔵庫(メルが創った魔法道具。冷気を生み出して、中のものを冷やしたり、水を冷やして氷を作る)の中へ入れる

時計を見ると、既に三時になっていたので、アトリアは洗濯物を室内に入れる


「……手伝うよ」


アトリアが一人で洗濯物を畳んでいると、日が雲に隠れたため室内に入ったメルがそう言って畳むのを手伝う

ちなみに、メルがアトリアを手伝う理由は、『手伝っておけばある程度だらけても文句は言われない』という打算が九割、その他が一割である

常人よりも速いペースで畳むアトリアと、何故かアトリアよりも手早く洗濯物を畳むメルの前では、山のようにあった洗濯物など敵ではない

そもそも、メルに至っては手で畳むだけではなく、風魔法と水魔法と火魔法の混合技でシャツの皴を伸ばしてすらいる


「よし、これで最後です」

「じゃあ、シーツだね。取り込んでくるよ」


メルはそう言うと、外に干してあるシーツの方へ向かう

それを見ながらアトリアは、(相変わらず……)と心の中で呟いた


余談だが、翌日、シーツを変えたメルは全く起きられず、エルナとリギルに怒られたという





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る