実年齢的にはセーフ(見た目はアウト)





すっかり日も暮れて、ほとんどの人が寝静まった時間

クラン『紺色の霧』のクランハウス内のテーブルには、二人の人物が並んで座っていた

一人はリギル。このクランのお父さん的な立場であり、実質このクランを取り仕切っているサブマスターである。今はグラスのウイスキーを少しずつ飲んでいる

もう一人はメル。最強と名高い冒険者『夜霧』なのだが、ほとんど働かない。今はグラスでブランデーを飲んでおり、少年が酒を飲む姿は異様に映る


「……なんでお前もいんだよ」

「今日の夜はなんかいい感じの雰囲気だから、『大人の階段を上りたい少年ごっこ』でもしようかなって」

「意味わかんねぇ。じゃあ、どうせ酔わないのに何で酒飲んでんだよ」

「『大人の階段を上りたい少年』は、お酒とか飲みたくなるでしょ?」

「……だから何だよその遊び」


心底理解できないといったようにリギルは呟くと、グラスに口をつける


「……酔わないのに酒飲んでも美味いのか?」

「いや、あんまり」

「だよな……」


「アホだ、アホがいる……」とリギルは呟くと、はぁっと溜息を吐く

たまにあるのだ。メルが急に変なことをし始めることが

そんなときには逃げるが勝ちなのだが、この状況一対一では逃げられないと溜息を吐く

それを見て「幸せが逃げるよ?」と言ったメルに、リギルは「煩い」と返す

誰のせいだと思っているのか小一時間問い詰めたい衝動に駆られるが、大人なリギルは溜息を吐いて気を落ち着かせた


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


謎の沈黙が場を支配する

まあ、当然と言えば当然で、メルもリギルもそこまで話すという訳ではないのだ

もっとも、エルナほど無口でもないが


「……そういえば、メルってエルナに甘いよな」

「やっぱりそう思う?」


沈黙を破るリギルの問いかけに、メルは少し苦笑しながら答える


「ああ、そう思う。エルナの言うことなら結構大人しく聞いてるし、よくエルナのこと褒めてるし」

「そっか……やっぱりリギルにもそう見えるか……」

「何でだ?」

「そうだなぁ……」


メルは呟くようにそう言うと、グラスに口をつける


「思い出すっていうのと、必要だと思うから」

「……思い出す?」

「うん。エルナは、独りぼっちだったんだよ。五歳なのにかわいそうだった」


他のメンバーは辛い経験をしてたかもしれないけど、一人じゃ無かったでしょ?とメルはリギルに言う

リギルが頷くと、メルはさらに続ける


「独りってさ、結構辛いんだよ」


メルだからこそ重みのある言葉

それを分かるのはこのクランでリギルだけだろう

そのリギルも、最終的にはメルを独りにさせてしまう側なのだから


「五歳なのに誰にも甘えられないで可哀そうだった」

「なるほど。だからか」


メルが思い出すのは、独りぼっちのエルナの姿で、それを見たメルが必要だと思うのが甘やかすことなのだと分かったリギルは、またグラスに口をつける


「まあ、他にもあるんだけどね」

「……どんな理由だ?」

「自分に懐いてくれてる女の子は可愛がりたくなるでしょ?」

「……そうか」


シリアスな空気をぶち壊すような明るい口調でそう言ったメルは、一気に残りのブランデーを飲み干す

それでも体質上全く酔わないメルは、「うん。やっぱりそんな美味しくない」などとふざけたことを言うと、席から立ち上がる


「リギルもお酒はほどほどにね」

「煩い。言われなくても分かってる。十五歳の体の癖に酒を飲んでるメルには言われたくないけどな」

「アルコールは毒物扱いで即分解されちゃうから、結局味のついた水と変わらないよ」

「見た目が未成年飲酒だって話だよ」

「実年齢だと成人してるから大丈夫」

「見た目が未成年飲酒だって事実は変わらねえぞ?」

「確かに。じゃあ、おやすみ」

「ああ。おやすみ」


メルはリビングから出ると階段を上って、自分の部屋に向かう

その足音を聞いていたリギルは、ぽつりとこぼす


「エルフでも、いつかは死ぬのにな……」


その言葉は、夜の闇に溶けて消えていった





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