女の子に「重い」とか、ダメ。ゼッタイ



「エルナ、流石に重い……」


メルがそう言った瞬間、メルの頬に軽い痛みが走る


「痛い……」

「……重くない」


ハンモックで寝ているメルのお腹の上に座っているエルナは、むっとした表情でそう言うと、メルの頬を抓っている右手にさらに力をくわえる


「……重くない」

「あ、うん。そうだね。重くないから、頬を解放してあげて欲しい。結構痛い」


メルがそう言うと、エルナは大人しく手を放す


「…………」

「…………」

「…………」

「……あの、エルナ?どうしたの?」

「…………」


じっとメルの顔を見つめるエルナにメルがそう尋ねても、答えは返って来ない

まあ、いつも通りと言えばいつも通りなのだが、穴が開く程見られると流石に居心地が悪い

暫く二人は見つめ合っていたが、メルは答えが分かることはないと気が付いたのか、体から力を抜いて瞼を閉じる


「…………」

「……痛い」


しかし、メルが寝ることをエルナは許してくれない

メルの頬を力強く抓ると、軽く体を揺らしてメルを無理やり起こす


「…………」

「エルナ、黙ってても分かんないんだけど」

「……服」

「服?」


エルナの言葉を聞いて、メルはエルナの着ている服を見る

肩が出ているタイプの服に、ホットパンツとタイツ

超美少女のエルナにはとても似合っている


「似合ってるよ」

「……そうだけど、違う」


エルナは不機嫌そうにつぶやくと、メルの胸を軽く叩く

まったく意味が分からないメルは首を傾げながらも、大人しく制裁エルナの攻撃を受ける


「ボク、せっかく着替えた」

「…………」

「今、暇」

「……もしかして、出かけたい?」


それに思い至ったメルが尋ねると、帰ってきたのは勢いの良い頷き


「……お出かけ、デート」


表情はあまり変わっていないが、目はキラキラと輝いており、相当楽しみにしていることが伺える

その様子にメルは思わず頷きそうになったのだが、今自分が眠いことを思い出した


「エルナ、今の僕にはすべきことがあるんだ」

「……寝ること?」

「うん。大正解。僕にとっては寝ることがとっても大ぐふっ!」


言葉の途中でメルは腹に小さな拳をもらい、変な声を漏らす

エルナはむすっとした表情で「……お出かけ」と呟くと、ハンモックを揺らす


「この前行ったじゃん!」

「それはそれ」

「エルナ、僕にも自由時間というものが……」

「普段いつも寝てる」

「…………」


エルナの正論にぐうの音も出ないメルは、何とか抵抗しようと言葉を考える

しかし、それは次のエルナの行動で無駄となる


「……どうしても、嫌?」


寂しそうな表情と、消え入りそうな声色で、メルにそう問いかけてくるエルナ

基本的にエルナには甘いメルは、その一撃に耐えられるわけもなく……


「わかった。今から行こうか」

「うん♪」


呆気なく敗北することになる

エルナは返事敗北宣言を聞いた瞬間、珍しく満面の笑みを浮かべる

普段は殆ど表情が変わらず、メルの前でも少ししか変わらないエルナが、笑ったのだ

これには、メルも驚いた


「行こ?」

「あ、う、うん」


メルより先にハンモックから降りたエルナは、まだハンモックから降りていないメルの服の袖を引きながらそう言った

メルは一瞬呆気にとられたものの、それに頷いてハンモックを降りる


(エルナが笑った……最近、エルナ成長してきてるなぁ……)


冷静に考えれば十五歳の少女が変わらずに昔のままなわけもないのだが、メルはそこには思い至らない

メルはその成長を喜ばしいものと受け取り、その頭を撫でる


「ん?」

「ああ、いや。何でもないんだ。ただ、今日は天気が良いからお出かけ日和だなぁって」

「……確かに」


メルの表情の綻びに気が付いたエルナは首を傾げるが、メルは本当に考えていたこととは違うことを言う


(本当に、せっかくの昼寝日和なのになぁ……)


メルは心でそう呟くと、エルナに手を引かれて歩いていくのだった





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