座学~計算~
「はい、今回もビリはサルガスだね。一位はエルナ」
メルは手に持った紙を見比べながら、そう言う
「……当然」
「くっそぉ……」
いつもの口調で言いつつも、どこか誇らしげのエルナ
それと対照的なのは、今回
「っていうか、サルガスって本当に頭悪いよね」
メルはそう言うと、間違いだらけの解答用紙を見る
基本的に、冒険者に座学は必要ない。だが、万が一のことがあった時のためにある程度勉強しておけというのがメルの持論だ
そのため、このクランのメンバーはメルから様々なことを教わっている
そして、今日の勉強は計算であり、今はそのテストの採点が終わったところだった
「っていうかよ~、メルさんとリギルさんは勉強しなくていいなんて不公平じゃね?」
そんなことを言い始めたサルガスに、他のメンバーは呆れるような視線を向ける
当然だろう。学校の先生に「先生はこの問題解けるんですか~?」と尋ねているようなものだ
やはり、サルガスは馬鹿なのである
「だって、僕はもう既にできるからこうして教えてるわけだし。リギルももう十分できるし」
「でもよ~、おれメルさんが計算してたりするとこ見たことねえもん」
「そりゃあね。そうそう使わないし」
メルはそう言って苦笑するが、サルガスが出来ていないのは二桁の割り算レベルであり、それは十分日常でも使う可能性があるということを、彼自身は全く理解できていない
「メル、証明してみる?」
「証明?」
エルナが、メルの服の袖を引っ張りながら急にそんなことを言いだしたので、全員の視線がエルナに集まる
「うん。証明。メルはできるって、実際にして見せる」
「……なるほど、確かにそれならサルガスも納得するかもね。そっか、その手があったか」
メルはそう言うと、エルナの頭を撫でながらうんうんと頷く
「よし、じゃあサルガス、なんか適当に僕に計算問題出してよ」
「え?」
「ほら、それならサルガスも納得するでしょ?」
「じゃあ、98÷3」
「32.333333…」
サルガスが適当に言った計算に、メルはほぼノータイムで答えを返す
「じゃあ、235×4÷3!!」
「313.333333…」
「っ!!17945÷87+125×342!!」
「42956.2644…」
まさかの即答という結果に、その場にいたメル以外の全員が固まる
ただ聞こえるのは、エルナがカリカリと紙に計算をする音
暫くその音だけがしていたが、急にエルナが顔を上げると、一言呟く
「全部正解」
「「「「「…………」」」」」
――まじか
そんな全員の心の声が重なるが、メルは全く気にした様子が無い
そんな中、エルナはメルの腕にしがみつくと、何故か少しどや顔でこう言う
「
「「「「「っ!!?」」」」」
「エルナ、それどういう意味?」
「ん?そのまま。メル、ずっと一緒。なら、ボクの」
「「「「「…………」」」」」
爆弾発言ともとれる台詞を、エルナは顔色一つ変えずに言うと、メルの顔を見上げる
その視線を受けたメルは苦笑しながらその頭を撫でる
正直、メルにはその発言の真意は分からないし、詳しく聞く気もあまりない
ただ、今みたいな日々が続けばいいと思っているだけだ
「僕は別に、エルナの所有物じゃないよ?」
「? そりゃあそうだよ?」
そのエルナの発言で、場はさらに混乱する
結局何が言いたいのか。エルナにとって、メルは何なのか
皆が知りたがった、『紺色の霧』七不思議のひとつに数えられた「エルナからメルへの想い」が、今かされることに!!
「そっか。詳しくは聞かないでおくよ」
ならなかった
まあ、メルの反応としては当然なのだが、周りのメンバーはそう思わない
だって、みんな謎を謎のままにしておきたくないのだから
「マスター、なんで気にならないんですか?」
「え?だって、どうであれ僕からエルナに対する態度は変える気ないし」
スハルの言った疑問に、メルはあっさりと答える
むしろ、「当然じゃない?」と言わんばかりの態度に、他のメンバーは溜息を吐く
昔からこうなのだ。メルは、皆の基準からずれている
皆が気にしないことを気にしたり、皆が気にすることには無関心だったり
「……お前は変わんねぇな」
その様子に、昔からの友人であるリギルは思わずそう呟いた
「そりゃあそうだよ。僕はずっと僕だから」
リギルの呟きにメルはそう返すと、テストの点数が悪かったサルガスにペナルティーとして大量の計算プリントを渡すのだった
後にサルガスは、「あの時のメルさんの笑みは最高だった……」と語ったという
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