人間かどうかも疑わしい
このクランには、七不思議というものが存在する
とは言っても、その殆どがメルに関するものであるのだが
「というか、冷静に考えると怖いよな」
とは、サルガスの言葉である。これには『犬猿の仲』であるミルファも大きく頷いた
「そもそも、メルさんって人間なんですか?」
「……ごめん。ぼくには人間だって断言できないや」
「ん。ボクも」
そう話すのは、スハルにシェアト、さらにはメルに懐いているエルナである
「「「「「…………」」」」」
メルとリギル以外の八人がいる筈なのに、その場は沈黙に包まれる
それだけ、彼らが今考えている疑問というのは難解で、重要なことなのだ
それは、シャウラが依頼中に持ち帰ってきた一枚の写真から始まった
彼は、昔からある大きな商会の護衛任務をしていた
しかし、その商会のお偉いさんの中に話し好きの老人がいて、聞いてもいないことをペラペラペラペラと喋るので、辟易としていたのだ
彼は「はい」とか「なるほど」とか適当な返事をしていたのだが、目ざとい商人の目でシャウラが飽きていることに気が付いたのか、昔の写真を出し始めたのだ
昔の仲間との写真とか、貴族との写真とか、旅の途中の風景とか
そんなものを見せられても困るというのが正直な感想であり、余計な気遣いにイライラし始めていたシャウラだったが、ふとその写真を見つけてしまう
「あれ?その写真って……」
「ああ、これですか?この写真は私がまだ小さい頃に撮った写真でして……」
「こ、この人って」
「その時臨時で護衛をしてくれた冒険者の方です。女の人に見えますか?実は、男の人なんですよ」
「…………」
シャウラが無言で見つめるその写真の人物は、黒髪に青いメッシュ、黒い目に色白の肌
中性的な顔立ちと、女性より高く男性より低い身長
……誰がどう見てもメルにしか見えなかった
その後、シャウラは何とかその写真をコピーさせてもらい、クランに持ち帰った
「……この写真が撮られたのは、四十年も前のことらしい」
それを聞いた時に、「有り得ない」とか「親じゃなくて?」とか反応できる者はいなかった
「やっぱり、俺がメルさんと出会ったときからメルさんの姿変わってないよな……気のせいじゃなかったよな……」
皆、もしかしたら程度に思っていたのだ。だが、「ありえない」とか「ただ老けるのが遅いだけだ」とかいろいろ考えた結果気のせいということになっていた
しかし、
流石に四十年間十代の外見を保てる人間は人間ではない
この事実を皆が理解したところで、話は冒頭に戻る
「いやさ、オイラ前々から聞いてはいたんだ。『夜霧』が不老不死だって噂」
「……私もです」
「オレもだな」
「わたしも」
『夜霧』とは、メルの二つ名である
この国で知らない人は居ないとまで言われ、様々な噂や物語が作られるほど有名
彼一人で国を滅ぼせるとまで言われているのだが、真偽は定かではない
とまあ、『夜霧』の話は置いておこう
「なあ、改めて思ったんだが、メルさんって本当に人間か?実はエルフでしたとか言われてもおれは信じるぞ?」
「わたしたちに言われても……こっちだって困惑しているんだから……」
基本的に仲の悪い二人すら普通に話してしまう。このことから、『メル不老説』がどれほど驚くべきことなのかを察してほしい
「ただいま~」
その呑気な声が聞こえてきた瞬間、全員の表情が強張る
皆が動きを止めて、ギギギと音が鳴りそうな感じで今帰ってきた人物を見る
「お土産買ってきたよ~~……って、みんなどうしたの?」
「いや、まぁ……」
「その、なんといいますか……」
「もしかしたら、なんて……」
「?」
小さい声でぼそぼそと言うだけの全員に、メルは首を傾げつつも手に持った袋をテーブルの上に置く
その中身は様々な菓子や調味料だったのだが、今の彼らにそれを確認する精神力はない
しかし、そんな状況でも
「……おかえり」
「うん、ただいま。で、これはどういう状況なの?」
「メルは、不老不死なの?」
――今それ言っちゃう!!?
エルナ以外の全員の心の声が重なったが、エルナには全く届かず
それどころか、メルの目をじっと見て答えを促す始末
それを感じ取ったメルは、二人を凝視している他のメンバーに視線を移すと、全員の顔を見る
そして、「はぁ……」と溜息を吐くと、エルナに視線を戻して、その頭を撫でる
「エルナ、この世界には、知らない方がいいこともたくさんあるんだよ」
「……え?」
「僕が不老不死でも、そうじゃなくても、“今”は何も変わらないよね?じゃあ、それでいいじゃんか」
メルはそう言うと、さらに頭を強く撫でながら、他のメンバーの顔を見る
「さ、もうすぐリギルも帰ってくるから、ご飯の準備でもしよっか」
その言葉に、他のメンバーは顔を見合わせた後、おずおずと頷く
皆察したのだ。この問題はこれ以上訊いてはいけないのだと
世の中には、様々な『不思議』があるのだということを、皆察したのだ
まあ、約一名メルにしがみつきながらそれを理解できていない少女もいたのだが、それはいつも通りなので誰も気にしなかった
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