惨状の原因は……
昼下がりのクラン
今、二人の人物が正座をさせられている
その一人は、『犬猿の仲組』の片割れ、サルガス
もう一人は、『犬猿の仲組』の片割れ、ミルファ
そして、それを叱っているのはサブクランマスターのリギル
その後ろには、水魔法の応用で汚された部屋を綺麗にしているメルとスハルがいる
いつも通りのような光景だが、何故このようなことになっているのか。それは、ほんの数分前のこと……
依頼から帰ってきた彼らは、部屋でくつろいでいた
そこにシェアトがやってきて、今日の依頼は何をしたのかを軽い調子で尋ねた
途中までは仲良く依頼の説明をしていたのだが、肝心の戦闘の話に入ると、サルガスとミルファが喧嘩を始めたのだ
お互いに自分のほうが多く活躍したと言って譲らなかった
次第に言い争いはエスカレートしていき、ついに物理的な喧嘩を始めた
それを、同じ依頼に行っていた金髪の男シャウラが止めようとしたのだが、二人は止まらず
いい加減にしろとリギルが怒鳴りそうになった瞬間、事件は起こった
依頼で疲れて帰ってきた四人へ美味しい飲み物を出そうと思って紅茶を持って来たアトリアに勢い余ったサルガスが激突
飛び散った紅茶は床を濡らすだけに留まらず、シャウラにまでかかった
それに慌てたミルファがシャウラに駆け寄ったのだが、濡れた床に滑り綺麗に一回転
そのままテーブルに突っ込み、その上にあったお菓子や、メルとスハルが飲もうとしていたコーヒーなどを全てひっくり返した
咄嗟に魔法で防いだメルとスハルは特に被害を受けなかったが、紅茶を浴びたシャウラは風呂へ急行
水魔法を使えるメルとスハルでその場の掃除を担当し、あまり魔法が得意ではないアトリアがシャウラの服の洗濯を担当するといった形で事後処理を始めた
そして、話は冒頭に戻る
「お前らは、毎度毎度何をしてるんだ?」
「「すいません」」
「それはもう聞き飽きた。いつになったら反省するのかを聞いているんだ」
マジギレリギルさんは、鋭すぎる眼光で二人を見下ろす
エルフなだけあって美形のリギルに睨まれると、結構怖い
いや、とても怖い
そもそも、普通の人はリギルの怒気を浴びれば失神するレベルなのだ
普通にしていられるサルガスとミルファがおかしいのである
「いい加減にしろよ!!!」
反省の色を見せない二人に、雷(物理)が落ちた
二人は拳骨を受けた頭を抑えながら、涙目で土下座をする
そんな姿を見て、リギルは溜息を吐くと、ちらりとメルを見る
一応、このクランのクランマスターはメルなのだ
なので、こういう場合に最終的な罰を下すのはメルなのである
「メル、どうする?」
「そうだね……」
リギルから尋ねられて、メルは魔法を使いながら少し考える
普通、別のことを考えながら魔法を使うことはできないのだが、メルは余裕でそれをしていた
まあ、このクランで魔法を使う者なら全員それをできるので、このクランの中では普通なのだが
「じゃあ、この前は雑草抜きの依頼を受けてもらったから、今回はトイレ掃除を三回ほど受けてもらおうかな?」
「「げっ!」」
「なんか文句ある?」
「「ありません!」」
メルが思いついたように言った言葉に、思わず絶句した二人だったが、次の瞬間、メルが目だけ笑っていない笑みを浮かべて言葉を放てば、二人は何故か敬礼のポーズを取った
いつも通りのやり取りに、思わずメルとリギルは溜息を吐く
毎回こんなやり取りをして、それでもなお反省が無いのだ
これはそろそろ、本気で怒らなければいけないかなと思ったメルは、また溜息を吐いた
ちなみに、この数日後にメルの雷(魔法)が落ちるのだが、二人はやはり反省しなかったらしい
駄目な大人のいい例である。少年達はこんな大人にならないでほしいと願うメルとリギルであった
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