これをデートと呼ぶのかな?
人で賑わう王都を、中性的な顔をした少年メルと、小柄な少女エルナが並んで歩いていた
その手は何故か繋がれており、仲のいい兄妹のようにも、恋人同士のようにも見える
「……ん」
不意に立ち止まってある店を指差したエルナの行動の意味を察したメルは、目を合わせて優しく問いかける
「ああ、あの店がいいの?」
「ん」
たった一文字の返事でも、それが肯定だと分かったメルは、「じゃあ、いこうか」と言ってその店に向かって歩き出す
その店は、女性用の服も男性用の服も売っている店だった
じつは、庶民が『ちょっとした贅沢』としてくるほどは高い店だったのだが、有名な冒険者で稼ぎがある二人からすれば、些細な問題でしかなかった
「いらっしゃいませー」
二人は店の中に入ると、ゆっくりと服を見ていく
いや、正確に言えば、服をじっくりと見るエルナに付き合ってメルもゆっくりと見ていると言った方が正しい
「……これ」
そう言ってエルナが指さしたのは、水色のパーカー
いい生地を使っている以外には特に特徴のないそれの何が気に入ったのか、もう一度「これ」と繰り返す
「これが良いの?」
「うん……いっしょ」
「いっしょ?」
「メルと、いっしょ」
「ああ、なるほど」
確かに、メルは今日水色のパーカーを着ている
だから「いっしょ」と言ったのだと理解したメルは、思わずエルナの頭を撫でると、「わかった」と言って、そのパーカーを手に取る
「あとは何かある?」
「……ん」
エルナが首を横に振ると、メルは店員を呼んで会計をしてもらう
そこそこの料金はしたが、収入に比べれば大したことないので二人とも気にしていない
メルは右手に袋、左手にエルナの右手という状態のまま店を出る
「ねえ、次はどこか行きたいところある?」
メルがそう尋ねると、エルナは少し考えたあとに首を横に振る
そして、メルの顔を見上げながら、ゆっくりと話し始めた
「メルが、いるなら、いい」
「そっか。じゃあ、適当にその辺歩こうか」
「ん」
こくりと頷いたのを確認してから、メルはエルナの手を引いてゆっくりと歩き出す
人の多い街でも、二人の周りだけは違う空気が流れていた
そのまままったりのんびりと街を歩き続ける二人は、ある程度人の注目を引く
何故なら、世間一般的には『中性的な美少年』とよばれる顔をしたメルと、『かわいい系の美少女』であるエルナが並んで歩いているのだ
「リア充爆発しろ」とか、「あの男……許せん」とか呟いている男がいるのだが、メルとエルナは聞こえたうえで無視していた
これは、二人とも気にしない性格だというのが大きいだろう
「ん?どうしたんだろ」
気が付くと、前が騒がしくなっているのに気が付いた
その喧騒はすごい勢いで二人のほうに近づいており、ただ事ではない雰囲気だった
メルは少し目を閉じて、風魔法を応用した魔法で情報を集める
「なんか、刃物を振り回したひったくり犯がこっちに近づいてきてるらしいよ」
「……ひったくり?」
その単語を聞いた瞬間、エルナがその顔を不快感で歪める
もし自分がメルと一緒の時にひったくりになんかあったら……と考えてしまったためだ
それを察したのかどうかは分からないが、メルはエルナの手をギュッと握ると、「大丈夫」と呟く
「おら!!どけどけどけ!!!」
そんな男の怒声が聞こえるとともに人混みが割れ、何もない空間が現れる
そこの中心には刃物を振り回した男がいて、まっすぐ二人のほうに突き進んでいた
「っ!?君たち!危ない!!」
その場を動こうとしないメルとエルナを見た誰かがそう叫ぶ
しかし、メルは逃げるどころか、エルナを守るように前に出て、犯人を見据える
その様子に驚いた犯人だったか、ここで止まれば捕まるとでも思っているのか、「おらあ!どけ!!」と叫びながら真っすぐ突っ込む
「邪魔しないでほしかったなぁ」
メルが男に向かってそう言うと、どこからともなく現れた氷の鎖が男を拘束する
あまりの早業に、ざわめいていたその場が一瞬静まり返る
当然だ。普通、魔法というのは詠唱が必要なのだから
「……メル、早くいこ?」
「そうだね。いつまでも時間取られてるのも馬鹿らしいよね」
エルナはメルの手を引くと、周りのことなど気にせずに進んでいく
そのとき、何故か進行方向の人が道を開けるという現象が暫く起きたのだが、二人とも気にしていない
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