メルは参加NG





とある日のクラン

三階建ての大きな建物の庭で、それは起こっていた


向かい合う男と少年

その目はいたって真剣で、その手には各々の武器を構えていた

まさに一触即発と言った空気の中、呑気な声が聞こえる


「はじめ~」


力が抜けそうなメルの声が聞こえた瞬間、二人は一気に駆けだした


「ふっ!」


息を吐きながら、水色の髪の男が白髪の少年に槍を突き出す

それを少年は剣で受け流すと、男に剣を当てようと振るう……が、既にそこに男はおらず、反対側へと駆け抜けていた

二人は再び向かい合うと、お互いにタイミングを計る


「『炎心』」


男が小さく呟くと、男の体から赤いオーラが生まれる


「行くぞ?」

「いいよ~」


真剣な様子で言う男と、軽い調子の声を出す少年

二人は一呼吸の間の後、同時に駆け出した


「ふっ!!」


男の息を吐く声がした瞬間、それは起こった

一気に男の体を駆け抜けた魔力が、一時的にその身体能力を何倍にも上げる

圧倒的な力によって放たれた一撃は有り得ない程の威力を以って少年を襲う

しかし、少年は有り得ない身体能力を使い、槍の穂先を下へとずらす

すると、槍の勢いは少年からずれ、地面に刺さる


「っつ!?」


とてつもない勢いで地面に突き刺さった槍は、それを握っていた男の手にも衝撃を与えた

痛みで槍を取り落とした男の首元に、少年の剣が突きつけられる


「はい、そこまで」


勝敗が決したと判断したメルは、そう言って模擬戦の終わりを宣言する


「あ~あ、また負けちゃったね……」

「まあ、シェアトは本来もっと魔法を使うスタイルだからな~」


少年はそう言うと、芝生の上に寝そべる

槍を持っていた男はシェアトという名前で、実は鳥人(鳥の翼をもつ種族。翼は出したり引っ込めたりできる)である

一方の白い髪をした少年はアルと言い、有り得ない身体能力を持ってはいるが、ちゃんと人間である

この二人はこのように訓練することが多く、その時にはメルが審判と指導を行うのだ


「まず、シェアトは自分の意識が追い付かない速度を使わないこと。最後のだって、意識が追い付いてさえいればいくらでも対応のしようがあったよね?」

「……確かに」

「あとは、突っ込みすぎ。早いなら錯乱させるとか、回り込むとかしないと」

「はい」

「で、アルの方はもっときれいに魔力を使わないと。右手に魔力が偏ってるから、もっと全身に回すようにね」

「わかった!」


メルはいい返事を聞いて満足そうに頷くと、先程まで寝ていたハンモックの方へ向かう

しかし、それを許してくれない人がいた

このクランのサブマスターであるリギルに呼び止められて、メルは渋々振り返る


「僕、寝たいんだけど……」

「俺さ、最近体が鈍ってて……」

「さあ、寝ようかな!」


悪い予感しかしないメルは逃げようと試みるが、リギルはメルの服の襟を後ろから掴んで、逃げられないようにする


「な、何の用でしょうか?」


謎の汗を垂らしながら、メルはリギルを見上げる

男性にしては小柄であるメルは、必然的にリギルを見上げる形になってしまう


「俺と、模擬戦をしてくれないか?」

「お断りします!」

「まあまあそう言わずに……」


二人はその状態から、仲良く言い争いを続ける

それを見ていたシェアトとアルは「やれやれ、またかよ」的な溜息を吐くと、巻き込まれないように少し離れたところに移動して、その様子を見守る


「そもそもさぁ!なんで僕なの!?」

「お前が一番訓練になるんだよ!」

「だからと言って僕が付き合う理由にはならない!」


ああだこうだと言い合う二人は、暫くそんなことを続けていた

そんなとき、庭に出てくる一つの影があった

翡翠色の髪を持つ少女、エルナである

エルナは二人に近づくと、くいくいっとメルの服を引く


「ん?なに?」


それに気が付いた二人は言い争いを止め、エルナに注意を向ける

メルが優しくエルナに問いかけると、エルナは少し間を開けた後、ぽつりと話した


「…………服、買う」

「ああ、次の休みって約束だったもんね。まだ午前中だし、行こうか」


メルはそう言うと、リギルに掴まれていた服を一瞬だけ霧に変えて、拘束から抜け出す

リギルは一瞬何が起こったかわからずキョトンとするが、何が起こったのか分かると驚愕の声を出す


「ちょ!今サラッと魔法使ったよな!!」

「何のことかわかんないな。」


まさか、抜け出す為だけに、メルだけが使える魔法を使うとは思っていなかったリギルは、驚愕の声を漏らす

しかし、メルはリギルを全く気にしない


「じゃあ、行こうか」

「……ん」


無表情だが、上機嫌に頷くと、エルナはメルの手を引いて歩き出した

すると、残されたのは男三人

暫くはただメルとエルナが去っていった方向を見ていたが、やがてアルがポツリと呟いた


「エルナって、メルさんには気を許してるよな……」

「うん……なんでだろうね?」


ポツリと漏らされた呟きにシェアトも同意する

すると、リギルが二人のほうに顔を向け、少し考えた後に口を開いた


「ほかのメンバーは、俺とメルが誘ったり保護したりしたけど、エルナだけはメルが勝手に連れてきたのと関係してんじゃねえか?」

「「ああ、確かに」」


エルナはこのクランの中で最も新しいメンバーだ

だが、エルナが連れてこられたときは、メルが一人で依頼に行ったときであり、そのときからもうエルナは彼になついていた

そのときにいろいろあったのだが、メルとエルナ以外のメンバーは知らない話である


「そもそも、エルナって謎が多くない?オイラ、ほとんど分からないだけど……」

「まあ、ぼくもそうだし、そんなもんなんじゃない?」


この二人がエルナについてよくわからないのは仕方ない

エルナは、基本的にほとんど話さず、話したとしても必要最低限のことだけなのだ

そんなエルナのことをこの二人が分からないのは、ある意味当然である




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