メルの起床(激痛を添えて)




「世の中には、仕方ない事ってあると思うんだよね」

「で?」

「いやね、思ったんだよ。世の中には、個人の力じゃどうしようもない事ってあるんだって」

「だからって、こんなことしてもいいと思っているのか?」

「うん。これは、僕に与えられた当然の権利だと思うんだ」


メルは、とても軽い調子でそんなことを言う

一方、その話を聞く青い髪をした二十代前半ほどの見た目をした男、リギルはこめかみに青筋を浮かべながらその話を聞いていた

リギルはふぅっと息を吐くと、メルの頭に思いっきり拳骨を落とした


「痛っ!!急に何するのさ!僕何もしてないよ!?」

「それが問題だって言ってんだよ!!いつまでもベッドに籠ってるんじゃねえよ!!」


ベッドに横になりながら抗議をするメルに、リギルは冷ややかな目を向ける

完全に保護者と子供の図である


「いいじゃん!誰にも迷惑かけてないんだし!」

「よくねえよ!!働け!たまには依頼を受けろ!!」

「えー、嫌だ。楽するためにこのクラン作ったのに、働いたら意味ないじゃん」

「そんな理由初めて聞いたわ!!このクラン作ってから十五年経つけど初めて聞いたわ!!」


メルの言葉に大声でツッコミを入れるリギルは、既に精神的に疲れていた

それに対してメルは余裕の表情である。イライラするなという方が無理な話だろう

実際、リギルは最終手段に出た


「起きろ!!」

「ちょ!やめっ!」


なんと、毛布をメルから剥がそうとしているのである

寝ている人の寝具を奪うという、効率的かつ非人道的な行為に、メルは慌てて抗議しながら毛布を奪われないように力を込めて掴む

しかし、リギルはその上を行っていた

急に毛布を手放すと、メル本体を毛布ごと抱えたのである

ちなみに、毛布のせいでメルは両手が使えていない


「嫌だ!!まだ寝ていたいんだ!!」

「ちょ!暴れるな!」


メルは全身を使って抵抗する

リギルはさらに力を込めて落とさないようにしたのだが……


「あっ」

「ごふっ!!」


メルは頭から床に落下し、鈍い音をたてる


「だ、大丈夫か?」

「い、痛い……」


メルは回復魔法をかけながらそう呟くと、リギルを恨めしそうに見る

抗議する視線に対し、リギルは気まずそうに目線を逸らした


「と、とりあえず、朝食食べようぜ?」

「…………わかった」


自分にも非はあると認めたメルは、嫌そうではあるが了承して立ち上がる

無言のまま三階から一階まで降りた二人は、テーブルに座って談笑していたメンバーの視線を浴びる

そこにいるメンバーと「おはよう」を言い合った後、メルはきょろきょろとあたりを見渡す


「あれ?今日はグループAって休息日だったよね?明らかに足りないんだけど」


そう言ってメルは今いるメンバーを確認する

まず、クランマスターのメルと、サブクランマスターのリギル

金髪の男であるシャウラと、家事担当で赤髪の少女アトリア

メルの数え間違いでなければ、グループAのメンバーが二人足りなかった


「そりゃあそうだろ。サルガスとミルファは罰として草むしりの依頼を受けてるんだから」

「あー、なるほど」


リギルが言った言葉で昨日の薬品事件を思い出し、メルは苦笑いを零す


「あの二人、もっと仲良くしてくれればいいんだけど……」

「無理じゃねえか?の獣人のミルファと、サル・・ガスだ。ありゃあ文字通り犬猿の仲だろ」

「喧嘩するほど仲がいいって言うんだけどね……」


基本的にモンスターを前にしていても喧嘩をする二人だ

その喧嘩に巻き込まれて無駄に死んだ魔物の数も、使い物にならなくなった素材の数も十や百では済まない

それを知っているメルとリギルは、苦笑いを零しながら話を続ける


「まあ、他の人に迷惑かけないんならいいんだがな」

「昨日のはちょっとやりすぎだよね。エルナ泣いてたもん」

「服が溶けてましたもんね……あれはあたしでも直せないです」


リギルの言葉に、それを見ていたメルとアトリアが同意をする

しかし、詳しく当時の状況を聞いていないシャウラは、首を傾げた


「そんなにやらかしたの?」

「あ、うん。なんか、エルナが薬品を頭から被ってて、服が溶けてた」

「……ごめん、オレはどういう状況なのか分からない」

「僕も分かってないから安心していいよ」


何をどう安心したらいいのか分からなかったシャウラであったが、これ以上メルに尋ねても無駄だと判断したのか、それ以上は聞かなかった






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