クラン『紺色の霧』のとある一日
「やっぱりいい天気だ。こんな日はハンモックに限るよね」
とある建物の庭
少年メルは、ハンモックに寝た状態でそんな独り言を言う
「ふぁあ……寝よ……」
メルはそう言うと、ゆっくりと瞼を閉じて体の力を抜く
黒色に青のメッシュが入っている髪を撫でる風を感じながら、気持ちの良いうたたねを……
「メルさん!!サルガスさんがエルナさんの薬瓶ひっくり返した!!」
堪能できなかった
気持ちの良い時間を邪魔されて、少し不機嫌になるメルだったが、仕方なくハンモックから降りる
本当は文句を言いたかったのだが、メルを呼んできただけの彼女に罪はない
怒りを抑えながらメルは仕方なく建物の中に入ると、その惨状を目の当たりにする
まず、翡翠色の髪を持つ少女エルナが謎の液体を頭から被った状態で涙目になっていた
で、それをおろおろとしながら見る大柄な男+犬耳を生やした女
「ちょ!なにがあったの!?」
これには、流石のメルも驚きを隠せない
てっきり、ただ薬品を零しただけだと思っていたのだ
それが、いざ見てみると頭から薬品を被っているではないか
というか、普通はこんな状況にならない
「……サルガス、突っ込んできた。ボク、作ってた薬、被る」
「ああ、理解した」
ぽつりぽつりと話すエルナの言葉から事態を察したメルは、水魔法を巧みに使ってエルナの体や服に着いた薬品を落とす
十秒ほどで薬品はきれいさっぱりなくなったが、どういう訳か所々溶けている服は直せなかった
その姿は普通の男性ならば視線が離せないものだっただろう
しかし、メルは露出している肌には一切興味がない様子だ
「ほら、そんなに泣きそうな顔しないで。エルナは悪くないんだから」
ぼろぼろになった服の裾を掴みながら俯くエルナの頭を撫でて励ますが、エルナは顔を上げるどころか、涙まで落とし始めた
それに困惑するメルだったが、とりあえずそのまま撫で続ける
「……この服、メル、買ってくれた。でも、もう着れない」
ゆっくりと話すエルナの声を根気強く聞きながら、メルは相槌をうつ
その様子は傍から見れば兄妹のようにも見えなくはなかったが、そんな発言をできる者はこの場にいなかった
「うん。そっか。服なら、多すぎない範囲で買ってあげるから。そうだ、次の休みに買いに行こう?」
「……メル、出かけるの、嫌いじゃ?」
「確かに家のほうが好きだけど、エルナが泣かない方が大事だから」
「じゃあ、泣かない。約束」
「うん。約束」
エルナは顔を上げて、涙を拭った
メルはそんなエルナを最後に一度撫でると、自分が羽織っていたローブを肩にかける
流石に、女の子の服がぼろぼろなのは良くないと判断したためだ
メルは振り返ると、男を見て
それを見た男(と犬耳の女)は、冷や汗を垂らしながら背筋を伸ばす
「正座」
「はいっ!」
先程エルナに向けていたのとはまるで違う冷たい声にビビった男は、立った状態から一秒未満で正座を完了させる
「ミルファもに決まってるでしょ?」
「はいっ!」
名指しで呼ばれた犬耳の女は、男と同じように正座をする
「状況説明」
「オレが依頼から帰ってきたら、こいつが文句言ってきて……」
「依頼の時に、盾をぶん投げて攻撃したから、危ないって注意しただけだよ!」
「関係ないことも言ってたじゃないか!」
「それはサルガスが――」
そんな醜い言い争いを始めた二人に、メルはとりあえず魔法で創った水を被せる
さらに、氷魔法で冷やすというおまけもつけておいた
「つまり、二人の喧嘩にエルナが巻き込まれたってこと?」
「「まぁ、そうとも言える」」
「……はぁ……」
メルは、なんでこの息の合う感じを普段から出せないのかと言いたい衝動に駆られた
だが、いまさら言っても無駄だと分かっているので、あえて言わないことにする
無駄なことはしたくないのだ
「二人とも、反省。二人は、明日の休み無しね。ギルドで雑草抜きの依頼でも受けてね?」
「え、それはちょっと……」
「なんか文句ある?」
「「なんにもないです」」
息ぴったりな返答に、メルはまた溜息を吐くと、「もういいよ」と言い、床に散らばっている薬品や割れた瓶などを魔法で処理し始めた
こんな感じで、クラン『紺色の霧』の毎日は過ぎていく
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