偏差値4 ケイの覚醒

ドアのところに誰かいるな・・・女の子かな。

「あっ目を覚ました!もう死んじゃったかと思ったよ~」

俺が寝ているベッドのところまできて泣いている。目を覚ましたのがよっぽどうれしかったようだ。

でも、どうしよう。俺にはこの少年の記憶がない。この女の子が誰かわからないし、どう答えたらいいか知らない。

「すまないが、あなたは誰ですか?」

「え?」

変にごまかすより素直に答えたほうがいい。後でこじれるからな。


「どうしたの?私がわからないの?」

「そうなんです。記憶をなくしたみたいで、たぶん雷に打たれたせいなんでしょうけど。」

あ、女の子、めっちゃ泣きそう。十一歳ぐらいの女の子を泣かせるって罪悪感があるな。

「嘘じゃないよね?」


「嘘じゃない。冗談でもないよ。本当にわからないんだ。」

「ふぇ、えーーん」

泣かせちゃった。でも仕方ないしな。あ、さっきパンドラ様この少年の魂生きている、と言ってたな。

そのうち復活~ってなるかもな。その時はどうなるんだ?一つの体に二つの魂?・・・いいや、その時はその時だ。とりあえず女の子を泣かせっぱなしはかわいそうだから泣き止ませないと。

「でも、なんか思い出せそうな感じがするんだ。」

「ほんと?」

「まあ、この辺を歩いたら思い出せそうな感じがするよ。」

「じゃあ今すぐ散歩してすぐ思い出して!」

「すぐにでもしたいけど、歩けるかなあ。起き上がることはできるけど全身に包帯巻いてるし・・・」


「ああ!そうだった!まだ雷に打たれてから3日だもん!まだ治ってないよね。」

打たれて3日かぁ。普通打たれてから何日で治るんだろう。いや、打たれて生きている人はすくないんじゃないのか?

「回復魔法使ってもあまり効果なかったんだよね。そんな大ケガ3日で治るわけないよね。一応見てみよっか?」

「うん、ちょっと見て、えーと・・・」

「マインだよ!幼馴染だよ!」

「マイン、ちょっと背中のほうを見てくれない?」

「わかったー!」



「ええ!ナニコレ!」

「どうしたの?」

「ケガ、治ってるよ!ぶわぁーっと赤い線みたいなのが浮き出て血が出てたのに!なんで治ったの?」

雷に打たれたら毛細血管が破裂してなんか模様みたいになるんだっけ。でも3日で治るもんじゃないだろ。


「そんな大ケガだったの?他のとこも見てみてよ。」



「治ってる・・・なんで?」

「歩けるよ!どこも全然痛くないよ!」

不思議だ。パンドラ様が超回復スキルでもつけてくれたのだろうか。・・・スキルとかあるのかな。

「じゃあ服着て外行こうよ!」

「わかったよ。」

マインが持ってきてくれた服に着替えて外に出た。


俺が寝ていた家はほかの家より大きいな。感じからして村長の家かな?ここは農村みたいだ。

「俺・・・じゃなかった僕は誰なの?」

「あなたはここセルト村の村長の息子、ケイだよ。」


村長の息子か。この少年はケイというのか。早く目を覚ましてくれんかな。


ここは農村かな。周りは森。家の後ろのほうに岩山がある。結構よさそうな村だ。地球でいうと、中世ヨーロッパあたりの感じかな。だけど、地球と比べて違うとこが一つある。

 作物が異様にでかい。麦っぽいのが栽培されてるが、大人ぐらいの高さがあるし、穂の部分がたわわに実りすぎてる。


「この村はいいところだね。でも一つ聞いてもいい?」

「何?」

「この村の作物はでかくない?」

「ああ、それはね。この村が今『パンゲア商会』のしけんうんようちになってるんだよ。」

「試験運用地?」

なんか実験しているのか?

「新しい魔法を『パンゲア商会』が作ったのよ。その魔法を試すのにこの村が選ばれたの。」

「なんでこの村なの?」

「わかんない。急に王国の人とパンゲア商会の人が来てその魔法が使われた作物を作ることになったの。」

 そんな魔法があるのか。こんなでっかい食べ物があれば食糧問題解決できるな。すげーな。

「パンゲア商会はもっとすごいんだよ!見た目は水なのに、かけると植物がすごくよく育つ肥料もつくったの!」

「すごいな。」

液体肥料か?地球では最近開発されたな。この世界でもつくられたのか。ここは地球と同じくらいの科学技術があるのか?

「ケイ、なんか思い出せた?」

「うーん、まだ、かな。」

「そっか・・・」


 思い出すも思い出さないもケイの魂が目を覚まさないとなんだよな。


 そこから村を一周して案内してもらったが、もちろんなにも思い出さない。記憶喪失のフリは大変なんだよな。滅多に質問ができない。わかったことは、この世界はヨーロッパ中世くらいの文明レベルでこのセルト村は2年前からパンゲア商会の試験運用地になっていること。途中トラクターのような機械を村人が使っていたのを見た時、なんで機械が?って思ったけど、パンゲア商会が持ってきたそうだ。パンゲア商会を調べる必要あり、だな。

 途中ケイの母親と妹が農作業していたのでとても早く治ったのに驚かれて、記憶喪失になったのにも驚かれた。父はパンゲア商会の人と結果報告をしに王国の都に行ったそうだ。


家に戻ってきて寝ていたベッドの上に座った。

「まだ思い出さない?」

「まだだね。まだ時間がかかりそう。」

早く目を覚ましてくれ。フリが大変なんだよ。


「誰だ!」


ん?


「おい!こたえろ!  聞こえてんだろ!」


「マイン、何か言った?」

「何も言ってないよ?」

これは、ケイの声か?俺にしかきこえてないのか?


「おい!返事しろ!聞こえてないのか!」


(聞こえているよ!)





続く。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る