第6節

「はぁ、なんとか間に合った」

 パソコンの画面に映し出されている出来上がった資料を眺めながら、久野は安堵の息を洩らす。が、まだ終わったわけではない。宇都宮だけでなく、小島までもがいつまで経っても姿を見せず二人分の仕事が残っているのだ。

 後は印刷して作りかけの冊子の中に入れ、ホッチキスで止めていくという作業だけだが、さすがに数が半端ではな。

「副会長がほとんど冊子は作ってくれてるから、今日中にはできるな。よし、あと一踏ん張りだ!」

 気合いを入れ直しデータを保存しようとした途端、

「え?」

 一斉に部屋の電気が消えた。学校中の電気も消えている。当然、バッテリー式でないパソコンの電源も落ちている。

「停……電」

 信じられない気持ちでいっぱいだった。何かに裏切られたような大きな衝撃が駆け巡っていく。

 間もなく電気は点きいたが、久野はハッと思いすぐにパソコンを起動させてデータを読み込ませた。が、画面に現れた文字に彼は目を疑わずにいられなかった。

【データが壊れていて読み込めません】

「そんな……」

 書き込む瞬間にパソコンの電源が落ちたことが、原因なのは言うまでもない。こういう時に不運は大きく付きまとってくる。普通、ここまで簡単にデータが壊れることなどそうそうないはずだ。

「でも待てよ……。確か、別のフロッピーにもデータを入れておいたはずだ!」

 久野は側に置いてあったフロッピーディスクを取ると、パソコンに差し込みデータを読み込んだ。確かにデータは残っていたが、それは三日前の状態で止まったままである。

 愕然となり、力無く椅子にもたれ掛かる。

「なんでだよぉ……畜生……」

 今にも大声で叫びそうなのをグッと奥歯で堪えると、マウス握りしめた。今日中に出来ることをやれば、明日の朝なんとかなるかもしれない、そう思った。今、生徒会室に居るのは自分一人。他にやってくれる人などいないのだ。そう、自分以外……。


「こんな時に寝坊するなんてっ!」

 生徒会室の鍵を開け、急いで中に入ると荒々しくパソコンを起動させた。

「早く、早く」

 いくらパソコンを急かした所でどうにもなることではない。パソコンが完全に起動すると、フロッピーをすぐに読み込ませた。

「間に合うか――」

 読み込まれたデータを見て久野は言葉を失った。すでに資料は完成していたのである。

 唖然とした面持ちのまま机の上を見ると、中途半端だったはずの冊子も出来上がっていた。試しに一冊手に取りめくると、きちんと整理された資料が入っている。

「ゆ、夢……だよな」

 右手で頬を抓ると痛みを感じなかった。

「う、嘘っ!? ほんとに夢!?」

 慌てふためいているところへ弁慶をパイプ椅子の足にぶつけてしまった。

「あいたっ!? 痛てて……よかった、とりあえず夢じゃないみたいだ」

 だが、夢じゃなかったからといって、簡単に納得できない。一体誰がこんなことをしたのか、それが分からない。

 別の事で今度はため息を洩らし、パソコンを置いているデスクに手を置いた。すると、指先に何かが触れた。

 指先に視線を送ると、それは空の湯呑みであった。昨日まではなかったはずの物がここにあることを、久野は不思議に思えたが、すぐに答えは見えた。

 よく見る湯呑みであり、そしてこの部屋に一つしかない物。それを使う人物はただ一人。

「まさか……」

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