5節目

「トイレくらいは私の味方だと思ってたのに……」

 疲れたように一ノ瀬がぼやく。

 更衣室は海開きをしていないので開放していない。トイレにも何故かロープが張られ【使用禁止】の札がぶら下がっている。女子二人だけが持ってきていた着替えも、結局は何の意味もなさなかった。

「ぐす……」

 半泣きでありながら、とりあえず無意味に一枚撮ってみるシズネ。管理局で熊手とバケツを返し、中身は重量とサイズ検査を通って袋へ詰め替えてもらった。皆げんなりとしているが、同じように濡れているはずの後藤だけは嬉しそうにアサリを眺めている。

「こんなんじゃあれだな……飯も食いに行けんな……」

「そうですね……」

「じゃあ罰ゲームは無効ねっ!」

 現金な一ノ瀬がそこだけ表情を明るくして食いついた。

「無くすかよ。学食に変更だ」

 それを聞いた途端、彼女は頬を膨らませて不貞腐れた。

「帰るのかぁ?」

「ああ、この状態じゃ店に入っても迷惑だろ」

「まぁ、そうだなぁ」と別に異存はないようだ。

「あ、ちょっと待ってください。せっかくなんで、皆で写りましょう」

 そう言ってデジカメを構える。

「それだとシーちゃん入らないじゃん。セルフタイマーとかないの?」

「ありますけど、これタイマー機能がシビアなんです」

 などと説明しながら無造作に真壁にカメラを手渡した。

「おい、ちょっと待て、これはどういうことだ?」

「このボタンを押して、これ押して、これ押したらタイマー作動です」

「一言も俺がやるなんて言ってないんだが」

 すでに残り三人でポーズの話をしてまったく聞く耳を持とうとしない。適当な高さのものをへ乗せて、写り具合の調整をしてから仕方なく言われた操作をしてみる。

「え~っと……おーい、撮るぞー」

 素早くシズネだけがポーズを決めた。シズネに早くするよう促され、二人もそれぞれ決める。それを見て真壁はシャッターボタンを押した。液晶画面に表示された数字に驚愕する。

「一秒!?」

 普通では間に合わない。そこで真壁は二歩で出来るだけ戻り三人を遮るようにカメラ前へダイブした。

 一瞬、後藤と一ノ瀬の顔が「あっ!」となり、そこでタイマーがゼロになったことを知らせる電子音が鳴る。しかし、真壁が砂浜に落下し終えた時に、ようやくシャッターが切られた音がした。まともにポーズと表情を整えられたのはシズネだけである。

「……おい……カウントダウン一秒の挙句、このタイムラグはなんだ……?」

 遣る瀬無く砂浜に寝転がったままシズネに問いかける。

「メーカー曰く、“仕様”だそうです」

「どう考えたって欠陥商品だろうがあぁ!」

 勢いよく砂まみれで起き上がって不満をぶつけた。

「あたしはもう慣れました」

 というより、シズネは真壁の予測しにくい動きまで見越して、最初からこういう写真を撮るつもりだったのだろう。

 三秒分はしっかりあると分かったので、改めて四人そろってアサリを掲げ取り直した。

「さぁ、帰ろう帰ろう」

「あ、後藤くん」

 一ノ瀬が自転車置き場へ行こうとするのを呼び止め、二人で何か話し始めた。

「私たちはテキトーに帰るけど、べっちはシーちゃんを送っていくように」

「……は?」

 一瞬固まる。

「俺が?」

「そ。べっちが」

(なんでここにきて……。)

 不毛な争いの予感がしたのもあれば、どんなに拒んでも最終的には一ノ瀬に押し切られるのは分かっている。なので、真壁は色々と出かかった言葉を飲み込んだ。

「……わかった」

 シズネに失礼のないよう気遣いながら返事をした。

(どうせ途中までは一緒の道だろうに……。)

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