2節目
「これ小さいですかね?」
「ん~大丈夫じゃない?」
シズネの手を覗き込んで、乗せられたいくつかのアサリを彼的に基準を満たしているだろうと判断してバケツを引き寄せ、その中に放り込ませた。
(一体どういうつもりだ、一ノ瀬のやつ。)
鬼軍曹は後藤を連れて飲み物を買いに干潟を一時離脱中。積極的に話しかけてくる彼女に対して、真壁からはあまり話題をふっていない。
(俺が今は女に興味がないって知ってるはずなんだが……。)
「アリサ先輩、好きですか?」
周囲を掘り進めながら真壁の心の中も掘り下げていくような事を問われた。が、別に動揺する気配もなく熊手を動かし続ける真壁。
「友達としてはね」
基準に満たしていないサイズの貝を投げ捨て、次を求めて砂をさらう。
「あんなに仲良さそうなのに」
「友達として仲がいいのと、異性として好意を持って仲がいいってのは少し違うと俺は思うな」
足が痺れてきたので立ち上がり、屈伸や前屈を行う。見上げるシズネがまた水に濡れた手でデジカメを扱い写真を撮った。
「デジカメ水に濡れて大丈夫なの?」
「はい、ウォータープルーフタイプですから」
潮だまりの中に入れてジャブジャブ泳がせるようにして取り出してみせる。
「状況に応じて使い分けられるよう、家にあと二つ持ってます」
「ふーん。写真撮るの趣味なわけか」
「主にスナップ写真です。写真部とか本格的にやってる人みたいに意義のあるものじゃないですけど、シャッターチャンスは逃しません」
それを聞いた真壁は徐にバケツから大きめのアサリを二つ取り出すと、
「やめ乳首-っ!」
と言って嬉しそうにTシャツの上から乳首の辺りへ貝殻水着のように当ててポーズを決めた。が、彼女は無表情でその姿を一枚だけ冷静に撮影すると、再び静かに熊手で砂をさらう作業に戻った。
(外した……ていうか完全に引いてる……。)
真壁も無言で貝を優しく戻し、気まずそうに穴を掘り広げる。すると、シズネが素早く手を動かした。もちろん、その手にはデジカメが握られている。
「ぷっ――あはははっ、先輩のしゅんとした顔と唖然とした顔おかしーっ!」
「だ……騙したのか!?」
「あははっ、だからシャッターチャンスは逃さないって言ったじゃないですか。あんなこと急にするから、すっごい笑い堪えるの我慢したんですよーっ」
デジカメを両手で握りしめ、無邪気に大笑いするシズネ。年下にからかわれ、表情がどんどん複雑になっていく。
「そ、そのデジカメよこせっ、そんな画像消しちゃる!」
「きゃはははっ、やですよーっ、プリントしてアリサ先輩とかにも見てもらうんですからー」
捕まりそうになったのをかわし、沖に向かって彼女は逃げ出した。
「馬鹿こくなーっ!」
慌ててそれを追いかける真壁。彼女は右に左にと小回りを利かせて追走をかわしていく。
いつの間にか飲み物を買って戻ってきた一ノ瀬と後藤は、騒ぎながら追いかけっこをする二人を見守っていた。
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