1節目

「良いか皆の者、我々の成すことは規律と成果に重きが置かれる。それ即ちルールとマナーを守りつつ充分な獲物確保である!」

 Tシャツに短パン、ビーチサンダルという出で立ちで潮の引いた浜に立ち、管理局から借りた潮干狩り用の熊手を振りかざしながら力強く『一ノ瀬 明璃沙ありさ』が口上を垂れる。

「危ないから熊手を振り回すなよ……」

 真壁は彼女が聞いていないのを判っていながら告げた。

「適合外サイズ、大量捕獲など周囲への悪影響を省みない非道なる輩の行為を発見した場合、見逃すことなく即刻管理局へ通報するべし!」

 振り返りビシッと熊手を突き出すと、

「全軍、突撃ぃーっ!」

 一人で勝手に干潟に走り出した。

「おーい、バケツ忘れてるぞー……ったく」

「今日は気合入ってるねぇ、一ノ瀬さん」

 のんびりしゃべりながら呑気に笑う恰幅のいい男子『後藤 三次郎さんじろう』の後ろにもう一人、真壁の見慣れない眼鏡をかけた少女がデジカメを持って立っていた。

「アリサ先輩って、先輩たちとはいつもあんな感じですか?」

 疾走する姿をデジカメに収めながら、少女が二人に聞いた。

 一応、本日は一ノ瀬からの紹介でこの少女と真壁のデートのはずだが、気を利かせたのか邪魔をしたいのか、真壁、一ノ瀬、後藤と少女の四人での潮干狩りということになっていた。

「まぁ、いつもっちゃあいつもだが、普段よりも元気だな」

 一ノ瀬の忘れた小さなバケツを自分のに重ねて熊手を入れると、真壁たちも彼女の後を歩いて追う。

「バイト先じゃあ、どんな様子なの、えーっと……」

「都築 シズネです」

 後藤が頬を掻いて言葉に詰まったのを察し、笑顔でシズネは改めて名乗った。

「ああ、ごめんねぇ、人の名前覚えたりとか苦手で」

(助かったぞ、ごっつあん。)

 ほんの少し前を歩く真壁は心中で呟く。実は話しかけようにも最初に教えられた名前を思い出せず、彼も頭の中でさっきから必死に記憶を辿っていたところである。

「今まではあんまり気にしなかったんだが、二人は何のバイトしてんの、

 振り向いてそれとなく名前を呼んでみる。

「ファンシーショップです。アリサ先輩凄いんですよ、お客さんがどんなものが欲しいとかすぐ判るし、いつもお礼言われてます」

 振り返った彼を無造作に撮りながら、二人を交互に見やり尊敬するように語る。

「やっぱり一ノ瀬さんはどこでも人気あるねぇ、べーやん」

「あんな奴なのにな――って、痛ぁっ!?」

 真壁の背中に立て続けに衝撃が走り、何事かと足元を見れば二つのアサリが転がっていた。

「なにやっとるかーっ、ここはすでに戦場なのだ、隊列を乱すとは何事かっ!!」

「馬鹿たれーっ、明璃沙がアサリ投げるっていうギャグのつもりかっ、ていうかアサリは投げるもんじゃないわこの鬼軍曹!!」

 バケツを振り回しながら一ノ瀬に向かって駆けていく後姿をシズネがデジカメに収めた。

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