第3話ノークレームノーリターン

朝目覚めると、俺の横でなぜかココが寝ていた。

確か俺は昨日の夜、ちゃんと俺の部屋のベッドで寝るように言ったはずだし、俺が寝るときは俺一人だけだった。

にも関わらず起きてみればこれだ。

俺は思春期真っ只中の健康的少年であるがゆえこう言うシチュエーションに平常心を保つことなどできなかった。

すでにあそこはかちんこちんである。

寝息がこそばゆく感じるほどの距離に女の子がいるなんて初めてだった。

もしかして、今キスしたらバレないんじゃないか、と考えたそのとき、ココがぱちり、と目を開いた。

そのとき、その約10センチほどの近さの俺としばらくじっと見つめあった。

俺は我に帰り、布団から慌てて飛び出す。

「なんでお前が俺の布団にいるんだよ!」

「ノークレームノーリターンでお願いします」

なんでオンラインショッピング風なんだよ。

「私、寝るとき一人じゃ寝られないから」

「いや、でもさすがに同じ布団はまずいから。せめて違う布団で寝てくれない?」

「まぁそんなことはどうでもいいのよ」

どうでもよくねぇよ、死活問題だよ。

「とりあえず、お腹すいたからご飯作って」

ココのマイペースぶりと常識のなさにため息を吐くが、俺はココに言われた通り朝食を作ることにした。


朝食の食卓には冷蔵庫にあった夜飯の余り物の野菜炒めと味噌汁、ご飯、そしてココ専用の納豆だった。

ココは納豆をご飯にかけるだけではなく、味噌汁、野菜炒めと全ての料理に納豆をかけて食べていた。

「お前、なんつー飯の食い方してんだよ。納豆ないと死ぬ病気ですか?」

「朝は納豆から始まり、夜は納豆で終わる。それがあたしの食事スタイルよ」

やれやれ、なんでこんな納豆星人としばらくの間飯を共にしなければならないんだ。

このままだと家中納豆の匂いで腐っちまうな、こりゃ。

「先に言っておくが、ウチの貯金は非常に厳しい。だから納豆を食えないこともあるかもしれないからそのときは覚悟しとけよ」

「そのときは家を売ればいいじゃない。納豆を買うには充分でしょ」

こいつの中の納豆の価値ってなんなの?家より値打ちがある納豆なんて聞いたことねぇよ。

「なに言ってんだよ、納豆の食いすぎで頭まで腐ってんのか」

「腐ってるのはお前のアソコよ。寝てるときすごい変な匂いがしたわ。あとゴミ箱のティッシュの山からもひどい匂いがしたわ」

「それはしょうがねぇだろ!あれは男には絶対必要なんだよ。あと、臭いって言わないで。傷つくから」

「ふん、毎日納豆より汚ねぇもん出してるんだから納豆でぐちぐち言われる筋合いはないわ」

言い返せない。っていうか朝からなんて話をしてるんだ俺は。

「まぁ、そんなことはどうでもいいのよ」

いや、よくねぇだろ。

「私、外を歩きたいわ」

「なんだよ、急に。なんで外に出たいんだよ」

「私、思ったのよ。もしかすると私以外にも異世界から来た人がいるんじゃないかって」

「なるほど、でも見つけたところでどうするんだよ」

「見つけたらその人と一緒に暮らすわ」

なるほど、たしかにこの世界にココと同じ状態の人間がいるならそいつと暮らすのが一番だ。

それにココがいなくなれば俺にも平穏な日々が帰ってくる。

だが、果たしてそんな上手く行くだろうか。

「この世界のこと知っておきたいし、いいでしょ?」

「まぁ、いいけどさ」

「決まりね。じゃあ準備して、早く行きましょ」

 「ちょっと待て」

 俺は外に行こうとするココを止める。

 「何よ」

 「外に行く前に一つやらなければならないことがある」

 「それってうんこするときにウォシュレットついてるか確認するくらい大事なこと?」

なんで大事なことはウォシュレット基準なんだよ。

 「いや、それ以上だ」

 「嘘!!それ以上に大事なことなんてウォシュレットの強度を確認することくらいよ」

 こいつの中ではウォシュレットどんだけ大事なのかはわからないが、そんなことはどうでもいいと思わずにはいられないことが俺の目の前に立ちふさがっていた。

 それはーー

 「ココ、パンツは履くものだ。頭に被るものじゃない」

 「わかったわ」

 そう言うと、ココは頭に被ったパンツを顔に被った。

 「ココ、悪化しているぞ。恥ずかしいと思わないのか?」

 「その恥ずかしさが心地いいわ」

 だめだ、すでにある境地に達している……。

 だが、こんな変態を平和な日本に解き放てば翌日にはココは警察にお世話になることは間違いない。だから、ココのパンツだけはどうにかしなければならない。

 俺はココが被っているパンツを無理やり外そうとパンツに手をかけた。

 「何するの!?女の子のパンツに手をかけるなんて変態ですか?」

 「変態はお前だ!!さぁ、今すぐそのパンツを外すんだ」

 「女の子の髪の毛を触ることはパンツを触ることと同じなのよ。そのオナニーで汚れた手で触らないでちょうだい」

 「頭にパンツ被っている奴が言えるか!ここでパンツを外さなきゃ魔法使い見つける前に警察に見つかるのが先だ。そしたら本当に帰れなくなるぞ」

 「まさかあんた、私をどこかへ売り飛ばす気?お願いだからソープだけはやめて〜!」

俺は力一杯ココのパンツを外そうとするが、ココは一向にパンツをかぶり続ける。

 「昨日も言ったけど私にとってパンツを被ることはアイデンティティなのよ。被らなきゃアイデンティティクライシスなのよ」

 「そんなアイデンティティはこの世界では必要ないんだよ!だから、パンツを外せ」

 「ダメ!ゼッタイ!!」

 なんで麻薬禁止を促す警察のポスターみたいに言ってんだよ。

 ココは外す気配はない。もうあれしかない。とっておきの最終奥義ーー

 「外さないと、これから納豆買ってこないからな!!」

 ココの手から力が一気に抜けて、頭に被ったパンツが俺の手に渡った。

 ココは体を震わせ、涙目になって俺に言った。

 「納豆だけはやめてぇ〜!お願い〜」

 やはり、納豆には弱いようだ。それがわかればこっちのものというものだ。

 「納豆を食べたければ俺のいうことを聞け。いうことを聞けば貴様の納豆は保証しよう」

 「ひぇ〜!なんでもしますから〜」

 「よし!この俺が命ずる……外に行くときはパンツを被るな!」

 「イエス!マイロード!」

 

そんなわけで、俺はココと散歩に行くことになった。

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