第3話 始動
私たちは、翌日から、バイト先のシフトを少し変更して、ラーメン屋の手伝いと売り上げ貢献のために、足繁く通った。
1週間、お店が閉まっていたことにより、閉店したと勘違いしたお客さんも多く、常連客はかなり減ってしまった。それでも、奥さんとお子さんの頑張る姿を見て、少しずつ、お客さんが入るようになった。だが、現実は、それほど甘くはなかった。
「お待たせしました」
10歳の小学生のお子さんがそう言って、たどたどしくどんぶりを持ってお客さんのところに運んでいる。見ていて、とても危なっかしい!何度かラーメンどんぶりを落としては割っていた。
それもそのはず、小学生の子どもには、どんぶりは大きく、そして重たい。それを自分の身長よりも高いカウンターに乗せるのは、相当辛い作業だった。
でも、泣き言1つ言わないそのお子さんの姿はとてもたくましかった。本来なら、みんなと外で遊んでいる年頃だ。それが、カウンターにギリギリ手を伸ばして届くかどうかの身長の子が、熱々のラーメンをお客さんに運んでいるのだ。見てて涙が出て来た。
「おお、坊主!ありがとな!!」
常連客の何人かは、痛々しいその姿を目の当たりしても、何も言わず、ラーメンを食べている。恐らく、言わずとも、長年通った店ということもあり、見てれば言葉を発せずとも”分かる”のだろう。
「奥さん、ごちそうさん、旨かったよ」
そう言って、お客さんが出て行く。
「ありがとうございました!」
奥さんは、満面の笑みで、そうお客さんに頭を深々と下げてお辞儀していた。
「ありがとうございました」
たどたどしく、10歳の小学生もそう言って挨拶したが、カウンターよりも低い位置から言っているので、お客さんからは見えないが声はしっかり出ていた。
私たちはラーメンを食べ終わったら、すぐに厨房に入り、洗い物などを手伝った。
私たちは、お店の人間ではないので、お客さんの前には出ず、極力裏方を手伝った。私たちがお客さんの前にどんぶりを持っていったほうがスムーズな動きが出来たのだが、奥さんとお子さんで”私たちが接客します”と言ったので、その意見を尊重した。
お店の営業終了後・・・
「ふぅ・・・」
・・・とため息をつく奥さん。
「売り上げが厳しいってことですか?」
「ええ、この金額では食べていくことが出来ても賃料が払えません」
「オレたちの飲食代じゃ、何の足しにもならないですよね」
あははは・・・とちょっと自虐的に言ってしまった。
「そんなことないわ、とても助かってるわ、それにお店も開店から閉店まで手伝ってくれて物凄く感謝しています」
「きっと大将もそのうち帰って来ますよ、一緒に頑張りましょう!」
「ええ、そうね・・・ありがとう」
「ぼくも頑張るよ」
いつか、この子が大将になる日が来て欲しい、そう思いました。
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