春夏秋冬 恋の歌

このまる

春 第1話 寝られぬをしひて我が寝る春の夜の夢をうつつになすよしもがな

僕は今朝、「完璧」な女の子に出逢う。いや、出逢うと言うのとは、少し違うのかもしれない。何故なら僕らは、とある交差点ですれ違っただけだからである。

でも、あの交差点で、遠目にも僕には、その子が僕の「完璧」な女の子だという事が分かっていた。ずっと遠い過去から、あの子を、あの子だけを探して居たような、そんな気がするのだった。

僕には、彼女しかしかいない。そう直感したのだった。

だから僕は、すれ違った彼女を呼び止めようと後ろを向く。口を開いた瞬間に、僕の心に苦い思いが広がる。

彼女はもう、大勢の人に隠れて、見えなくなっていた。

立ち止まった僕を邪魔そうにして、サラリーマンがぶつかってくる。僕はそれに少しよろける。上から声が降ってきた。

「ちゃんと前向いて歩けよ。」

「す、すみません。」

僕は思わず頭を下げて謝る。 サラリーマンは舌打ちをして、去っていく。

僕はもう一度、女の子が歩いて行った方向を見つめた。やはり、彼女は去ってしまったようだ。

僕は、後ろ髪を引かれながらも彼女に背を向けて歩き出した。


********************


僕の隣で一人の女の子が微笑む。

「本当に、あの時交差点で、君に声をかけていてよかったよ。」

そう僕は、誰よりも「完璧」な彼女にそう告げる。


********************


「寝られぬを しひて我が寝る春の夜の

夢をうつつになすよしもがな」

意味……逢えぬ恋の苦しさゆえに眠れぬ日が続いたが、久々に見た夢の中で好きな人に逢えたのだろうか

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