② ぐちゃぐちゃにしてやりたい
(……それにしても、他人の願いを覗くのはなんとなく背徳的な気分になる)
これが神の目線――神の気分という奴か。
もっとだ。もっと味わいたい。
僕は無遠慮に短冊を捲っては確認する作業に没頭した。
家族円満、恋人募集、試験合格、或いは一攫千金。
これぞ人間の煩悩、って感じがして非常に――
(!?……「ちゃんとした本家の研ナオミに会いたい」という意味不明の願い!)
象形文字さながらの筆跡から察するに、小学校高学年が書いたもの。
一体どんな人生を歩んでいるのだろう……。
「宇都宮 シノくん。二十二歳、無職。あなたも短冊に願いを書かなくていいのかしら? 例えば無事に就職できますように、とか――」
僕の背後から、「ずずっ」と暗闇が生じる。
くらやみももこ――僕の闇。
「……そんな願いは書くだけ無駄だ。織姫と彦星は神じゃない。それに僕は別に就職なんてしたくない。もし書くとするなら、一生遊んで暮らせるお金が手に入りますように、だろ」
「夢の欠片もないわねぇ。うふふ」
くらやみももこは無視する。
そんなことより――空腹を満たさなければ。
そもそも僕がショッピングモールを訪れたのは、昼食を摂るためだった。
「……ん」
すぐ近くに、パスタ屋が目に入った。
……ここでいいか。
別に、何を食べたって美味しいと思わないのだ。
であれば――何を食べても同じことだろう。
(……ベーコンエッグ・カルボナーラか)
パスタの上に乗った半熟卵を見た途端、仄暗い欲望が湧き上がるのを感じた。
ぐちゃぐちゃにしてやりたい――という願望が。
あのエッグを、フォークでぐちゃぐちゃにしたらさぞ気持ちいいだろう――しかし。
(食べたいかどうかと訊かれたら、話は別――だな)
ベーコンエッグ・カルボナーラに食指は全く働かない――むしろ、ベーコンエッグが邪魔だとすら思う。ただでさえパスタは油っぽいというのに、ベーコンの油っぽさを上乗せさせるなど、まるで狂気の沙汰だ。
狂気の沙汰ほど面白い、とは言うが――
僕は昼食に面白さなど求めていない。
(パスタ系でさっぱりしたもの――果たしてそんなものあるか? ……ん?)
そこで僕の眼に止まったのは――スープパスタだった。
ガーリックトマトスープパスタ。
成程――汁物である上に、トマトというベジタブル要素がさっぱりした印象をもたらしている。
僅かに、食指が動いた。
注文が決まった瞬間だった。
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