異常図書事件コードH12-0908-W?

分類:図書凶器(暫定)

人気推定値:測定不能

状況:確保作戦中

脅威:傷害/赤 致死性事象


作品の概要

 2000年9月█日に██社の月刊青年誌████に掲載された[SCRAPE]8話24ページ4コマ目、つば広帽子にワンピースの美少女、サトウさんが振り返って微笑む絵に異常性を付与したものと思われる。

 原作と異なる特徴として、サトウさんが舌なめずりしているが、我々が発見したものは全て被害者を出し、異常性を喪失した後のものであることから、異常性を保持している状態では、原作と同じ姿、またはまったく違う姿をしている疑いがある。

 便宜上、以後この異常性が付与された絵を[サトウさん]と呼ぶ。


異常の発現

 2項に分割して記述。


被害の経過

 サトウさんが出現した本を被害者が開き、サトウさんを認識すると、瞬時に眠りに落ちる。これは正常な睡眠ではなく、例えるならば[夢に閉じ込められたような眠り]になる。

 この眠りの間、1分ごとに10グラム前後のペースで被害者の体重が断続的に減少し、眠りに落ちてから約2時間30分で貧血の症状が現れ、3時間で出血性ショックと見られる症状により死に至る(男性の場合。女性の場合は観察できていないが、死因は男性同様、出血性ショックと見られる)。

 4件で、まだ生きている被害者の脳を観察することができた。いずれも強い恐怖と強い快感を示し、徐々に恐怖が強くなり、最後は死に至った。

 この間に頭部への通電や、意図的に心停止を引き起こすなどして、脳を無理矢理停止させる処置を試みたが、電流は吸い込まれるように消え、心臓は蘇生に問題が生じるほどの薬剤を投入しても、低温にしても停止できず、効果が無かった。


サトウさんの出現パターン

 サトウさんは本の中に挿入される形で3日に1回の頻度で出現する。

 サトウさんが出現する本の法則性は未解明だが、傾向はある程度把握できている。確認できている27件のうち、21件は漫画、4件は画集、残る2件はレシピ本と実用書に出現しており、イラスト(イラストの写真は不可?)のある本にのみ出現するようである。また、27件のうち、25件の被害者は男性(うち性転換者1人)である。

 今のところ、サトウさんは最後の出現ポイントから約5キロの範囲内に出現している。意図的なものか偶然かは不明だが、██県██市を中心として半径約30キロの範囲を往復するような動きを見せている。


発見と対応

 20██年9月█日、██県内で男性の不審死が3件相次いだ。

 現場の調査を行った地元警察に漫画に詳しい者がおり、被害者が最後に持っていたらしい本にサトウさんが挿入されていることに気付いた。そこから異常図書事件の可能性を考え、我々に調査を要請。

 この時点では被害の経過もわからず、サトウさんには異常性が見られなかったため、シリアルキラーのシンボルマークという可能性もあった。

 ひとまずサトウさんに関する情報を、被害者の死因と合わせて「殺人鬼の特徴」として募ったところ、15件が病死扱いになっていたことが判明。

 サトウさんや情報提供の呼びかけに気付かずにいるもの、時間の経過で現場の状況がわからなくなってしまったものが眠っているとすると、実際の被害者数はさらに増える恐れがある。

 対策の参考にするため[SCRAPE]の筆者にインタビューを試みたが、行方不明になっていた。代わりに発見できたのが、次に示す筆者のものと思しき手記である。

―――

 (消したあと塗り潰している)がいた。コスプレじゃない、本物の(塗り潰し)さんだ。幻覚を見たのか? 期日を5年も超過しているとやんわりなじられたが、期日とはなんだ?

(書いては消してを繰り返した痕跡)

 SCRAPEのゲーム版発売予定日が5年前だったが、うちの会社は(塗り潰し)さんと何か契約でもしていたのか? 自分で作った物と契約?

 明日、漫画版の原稿を持ってくるように言われている。持って行って良いんだろうか? だって(塗り潰し)

 名前を書いたら呼んでしまう気がする。

 嫌な予感がする。渡してはいけないと思う。でも逃げ切れる気がしない。誰に相談したら良い? 神社か?

―――

 近隣の神社を調査したが、筆者が相談に訪れた形跡は無かった。

 ゲーム版の存在が示唆されているが、開発元と思われる企業(筆者が所属していた)は2003年に倒産している。原因は定かではないが、WEB上に広まった噂では「横領で開発費が失われ、身動きが取れなくなった」とされている。経営陣を現在捜索中。

 もし、塗り潰されている箇所がサトウさんならば、サトウさんはなんらかの超常存在であり、[SCRAPE]という作品はサトウさんへの捧げものとして制作された可能性がある。

 だとすれば、本事件は人魚姫シナリオの過程であり、このまま進行を許すと、脅威:召喚/黒の事象に至る恐れがある。


現状

 我々がやらなければならないことは多い。優先順に並べていく。


・サトウさんの正体の断定

 サトウさんの干渉能力はかなり高いものと推定される。少なくともどのタイプの超常存在(特異知的生物ということも考えられる)であるのかを突き止めなければ、本事件は非常に苦しい対応を迫られる。

 [SCRAPE]開発元の経営陣が何か知っている可能性があり、これの足取りを掴むこと、当時の資料を入手することは最優先の急務である。


・被害者を救済する手段の発見

 最悪の場合、我々は本事件を止められないかもしれない。それでも被害者を救済、または保護できれば、完全敗北は防げる。しかし、かなり乱暴かつ、有望と思われる手段を既に一通り試して失敗している。

 魔術的なアプローチが必要か?


・過去の事件の再検討

 サトウさんが最初に出現した場所がわかれば、なんらかの手がかりが得られるかもしれない。被害規模を正確に把握するためにも必要になる。

 我々はサトウさんの活動を3日に1回、前回の現場から5キロ以内の範囲と見ているが、実は毎日活動していて、数千キロを移動し、3日に1回、前回の現場から5キロ以内の範囲に戻ってきているとか、1〜2日は別の異常を発現しているとかいった可能性はまだ残っている。

 また[SCRAPE]からサトウさんが生み出されたのでないとすれば、サトウさんは同種の事件を過去に起こしている可能性があり、それも何かの手がかりになるかもしれない。


作戦通知

 明日、9月██日、サトウさんが動くと思われる。正体の断定は未だ時間が必要であるので、被害者の救済に尽力するものとする。

 人員配置、装備等は別紙を参照。

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